米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。

独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

海底ケーブルは地球の動脈

19世紀終盤から20世紀初頭、大英帝国の電信のための海底ケーブルは地政学的に中心となる政策だった。西へ向かう大西洋のケーブル、英仏ケーブル、そして、アフリカからハワイ島など太平洋までつなぐ壮大な南回りケーブル。21世紀となり、海底ケーブルは光通信に変わり、その使命としてはインターネットのデジタルデータの流通が主となった。

インターネットの動作原理はある1つの経路が閉ざされれば自動的に別の経路を使うことである。2地点を結ぶ海底ケーブルを国が所有してそれを守るというモデルの優位性は失われた。社会や人にとっての価値のためにどのような海底ケーブルが敷設されるべきかという、官民が連携する地経学的な対象へと完全に変化した。

グローバル社会全体にとってインターネットが健全に機能し続けることが重要で、そのために何をするのか、が政策課題となる。グローバル社会の健康を担うインターネットは地球を覆う血管網であり、海底ケーブルはその動脈である。

1. 日本をつなぐ新しい海底ケーブル

ロシアのタス通信は2020年7月17日、フィンランドのCinia社とロシアMegaFon社の合弁会社が計画するフィンランドから日本へ向けた13.8万kmの海底ケーブルプロジェクトであるArctic Connectのために、8月5日に詳細な調査を目的とする調査船が出航することを報道した。フィンランドから氷の融解した北極海を通り、日本を目指すルートである。

それに先駆けた2020年7月6日、アメリカRTI社は、同社のJGA(Japan-Guam-Australia)ケーブルの開通を発表した。日本をグアムとつなぎ、グアムを西太平洋の新しいハブとするためのケーブルだ。現在は西太平洋のケーブル集積海域は南シナ海である。グアムはこれに加えたまったく新しい拠点となる。