三菱ケミHDを含む日本の化学大手各社は近年、荒波の中にいる。

長らく主力だった汎用石化品は競合する海外メーカーとの価格競争で太刀打ちできず、非常に厳しい状況が続く。中国メーカーは事業規模が大きく、スケールメリットがある。中東メーカーは油田に近く、原材料の輸送コストが少なくて済むという地理的アドバンテージを持つ。

汎用石化品はもともと、原油相場の変動影響を大きく受けるため、事業は不安定でもある。こうしたことから国内の化学大手各社は徐々に汎用石化品頼みからの脱却を図っており、他事業へのシフトを急いできた。「新エチレン法」など独自の製法技術を有し、世界シェアで約4割を握っているアクリル樹脂原料のMMA(メタクリル酸メチル)を除き、三菱ケミHDも例外ではない。

長期ビジョンと大きな乖離

もっとも2021年3月期は市況下落の影響が直撃している。MMA事業のコア営業利益(非経常的な損益を除く営業利益)は2020年4〜6月期、12億円の赤字だ(前年同期は138億円の黒字)。

ただし長い目でみればMMAは「キャッシュカウ」(稼げる事業)であり、成長性も期待できる。そのため今後も柱の一つであり続ける見込みだ。

一方、中長期的には自動車向けの需要拡大が見込める高機能性商品は、足元ではコロナ禍に伴う自動車の大幅減産の影響を受ける。高齢化や健康意識の高まりという追い風があるヘルスケアは景気影響を受けにくいが、傘下の田辺三菱製薬がロイヤルティ収入をめぐる係争中ということもあり、まだ十分な収益力を発揮するには至っていない。

三菱ケミHDの現状は、これから目指していく方向性とはまだ大きな乖離がある。三菱ケミHDが2月に公表した2030年度までの長期ビジョンでは、「GHG(温室効果ガス)低減」「炭素循環」「食糧・水」「デジタル社会基盤」「人快適化」「医療進化」の6分野を成長事業と位置づけ、2030年度までに全体の売上高に占める6分野の割合を70%以上に引き上げる目標を掲げた(2018年度は同25%)。