アウトドア用品メーカー「モンベル」会長であり、アウトドアの達人である辰野勇氏は、28歳のときに創業し、年商800億円を超える(2019年度)グループに育て上げた。その経営手腕の根底には、登山家ならではの「人一倍の怖がり」があるという。辰野氏の近著『自然に生きる力 24時間の自然を満喫する』から、今回は辰野氏がどのように経営者としての心構えを身につけてきたのか、その経験談をお届けする。

前回:「感動で泣く」モンベル創業者の斬新キャンプ術

「経営」と「登山」の共通点

登山家は元来、怖がりです。命がけの挑戦をしながら、それでも命を失わなかったのは、私が臆病だったからです。

過去に、多くの仲間を山で失いました。私の腕の中で目を見開いたまま息絶えた仲間、岩場から転落して内臓を破裂させ、痛みに苦しみながら息を引き取った仲間、雪崩とともに数百メートルの谷底に消えていった仲間……。ふとした気の緩みと決断が生死を分けました。

登山家は、用心深くなければなりません。晴れた日でも「天候が急変したらどうしよう?」と用心して、雨具を持ち歩く。日帰りの山行でも、必ずヘッドランプを持参する。食料は少し多めに持って行く……。油断せず、最悪の状況を想定して策を講じる。登山や川下りには、常に先を見据えたリスクマネジメントが必要です。

経営にも同じことがいえます。1975年、28歳で「モンベル」を創業して、将来の事業計画をイメージしたとき、「会社を存続させるには、社員の平均年齢を若く保つために常に若者を迎え入れなければならない。社員が高齢化すると固定費が増えるだけでなく、会社の活力が失われ競争力が落ちる」と考えました。

社員を増やすということは、企業規模を大きくしなければならない。すなわち、右肩上がりの事業拡大経営を覚悟しました。つまり、事業を拡大するために人を増やすのではなく、人を増やすために事業を拡大しなければならないことに気づいたのです。