以上が現時点で判明している買収交渉の経緯だ。経営悪化という切実な事情を抱える東京ドームに対して、三井不は買収後の青写真をどのように描いているのか。

スタジアム経営の進出という面も当然あるが、東京ドームという企業を通じて、三井不が多数の不動産を取得する面も見逃せない。東京ドームはグループ全体で、2020年1月末時点の時価にして684億円の賃貸不動産を抱える。コロナ禍でもビル賃貸は安定稼働を保つほか、築47年の「黄色いビル」など建て替えによって競争力を一新できるビルも多い。

中でも無視できないのが、東京ドームシティの再開発だ。敷地13.5万平方メートルのうち12.9万平方メートルは東京都から「都市計画公園」としての指定を受けており、増改築にあたっては施設の種類や建築面積、緑化率など規制を受ける。これが原因で、東京ドームは思うような開発が進められなかった。

モデルは「宮下公園」の大化け?

この点、三井不が2020年7月に開業した「レイヤード ミヤシタパーク」は示唆に富んでいる。こちらも元々はドームシティ同様、都市計画公園としての指定を受けていた「宮下公園」があった。

渋谷区との協議によって都市公園の地下を活用する立体都市公園制度を適用。もともと児童公園だった宮下公園を特殊公園と位置づけることで、公園があった場所に商業施設やホテルを開発した。ドームシティ自体は文京区に位置し事情は異なるものの、行政との折衝の結果によっては大化けする可能性を秘める。

むろん、買収はまだ確定したわけではない。みずほ銀行など一部の大株主が公開買い付けに賛成しているとはいえ、12月の臨時株主総会で何が起こるかわからないなど、不確定要素は残る。それでも三井不動産は、コロナ禍が企業の再編を超えて街の景色さえ一変させる、特筆すべき事例に1歩近づいたと言えそうだ。

著者:一井 純