また、地方への異動(移住)を望まない従業員が多いことも、本社機能移転のネックになります。日本では従業員の解雇が厳しく制限されている代わりに、会社側に強大な人事権が認められており、従業員は正当な理由なく異動命令を拒否することはできません。とはいえ会社が異動を強行すると、異動を望まない従業員が離職してしまいます。

なお、アメリカでは、本社など事業所を移転して従業員を退職に追い込むのが、リストラの常套手段になっています。日本では移転による人材流出はデメリットとされますが、アメリカではメリット(期待効果)とされます。

コロナが「本社移転」の後押しに

このメリットとデメリットのバランスが、コロナ禍で大きく変わりました。コロナ対策でテレワーク・在宅勤務が普及し、本社に出勤する従業員が激減しています。

東京・大阪の2本社制のある大手メーカーの役員は、「本社は東京も大阪も人影がまばらで、いまや幽霊屋敷という感じです。家賃を払い続けるのは馬鹿馬鹿しいので、東京・大阪のどちらを閉鎖するか、あるいは思い切って両方とも閉じて地方に移すか、いま検討しています」と言います。

この1年で、業務のリモート化がずいぶん進みました。社内の会議や基本業務だけでなく、外部との打ち合わせや商談もリモートで行われるようになりました。採用でもリモート面接だけで内定を出すという企業が現れています。リモートワークと相性の良いIT系では、「全社員が出社不要」という完全フルリモートの会社も出始めています。

従業員の意識も変わりつつあります。コロナ感染拡大を受けて、感染リスクが小さく、住みやすい地方に移住する人が増えています。

東京都では、2013年の集計開始以来初めて昨年5月、転出者が転入者を上回る転出超過になり、7月から現在までこの状態が続いています。まだ神奈川・埼玉・千葉という隣県への転出が中心ですが、全国の自治体が都会からの移住者の受け入れ支援を強化しており、今後、遠隔地への転出が増えるかもしれません。

このように、コロナ禍で働き方と暮らし方が大きく変わり、本社機能移転のメリットが増大、デメリットが減少しているのです。

ただし、物理的にリモート化できない業務もたくさんあります。現在リモート化している業務でも、「リモートでもなんとか対応可能」というだけで、対面のほうが効果的な業務もあります。若い世代では、都会の便利で刺激が多い暮らしを好む人も多いでしょう。