民主主義の危機が叫ばれるなか、分厚い中間層を守り、格差・分断を断ち切るために社会保障はどうあるべきか。厚労省年金局長など要職を歴任した香取照幸氏の近著『民主主義のための社会保障』から一部を抜粋し、経済成長と民主主義を結び付ける「社会保障」の重要性について説く。

民主主義と社会保障は不可分の関係

社会保障と民主主義、どこでどうつながるのか、と皆さん思われるかもしれませんが、実はとても深いところでつながっている。私はそう確信しています。

物事なんでもそうですが、民主主義も「制度」をつくっただけでは機能しません。民主主義が機能するためには社会が一定の「発展段階」に達していること、つまりは民主主義の中核を担う安定的な中間階層が形成されていることが必要です。

そして、分厚い中間所得層を形成するには一定の経済成長=豊かさが必要であり、持続的に社会を発展させるには、その原動力である市民1人ひとりの活力、自己実現を保障すること、つまりはそれを生み出す「市民的自由の保障」が不可欠です。

つまり、経済成長と民主主義はいわば相互に支え合う車の両輪のような関係にある、ということです。そして、その両者を結び付けているのが社会保障なのです。

成長の果実を公平・公正に分配することで形成される「中間層」が社会の安定をもたらし、民主主義を支え、そのことが経済社会のさらなる発展を支える。つまりは、安定的な社会と経済の発展の底支えをしているのが社会保障や人的資本形成(=教育)ということなのです。

民主主義を支える中間層が形成されなければ民主主義は「実装」されず、衆愚に陥ります。衆愚に陥った民主政治の行き着く先はポピュリズム、そしてファシズムです。

いま、世界のあちこちで極右の台頭やナショナリズムの台頭で国内世論が割れ、政治の安定が揺らいでいます。人々が心を閉ざし、寛容さを失い、自分の世界にこもり続ければ、社会は多様性を失い、閉塞し、分裂し、停滞していきます。社会の分裂は政治の不安定化を生みます。政治の安定が揺らげば、そこに権力の空白──統治の危機──が生まれます。

ミュンヘン安全保障会議(Munich Security Conference Foundation)が最近公表した「世界価値観調査」(2017)によると、過去20年(1995〜1997年→2010〜2014年)の間に、国家の統治のあり方として、「議会や選挙に煩わされる必要のない強い指導者による統治のほうが望ましい」と考える人が世界中で増えています。

その傾向は旧東側諸国や新興国でより顕著(わが任国だったアゼルバイジャンもそうです)ですが、新興国のみならず、北米や西欧のような成熟した民主主義国でもその傾向が見て取れる、と言います。

「民主主義」は今日の国際社会を支える普遍的価値原理の1つです。安倍前総理が演説などでくり返し言及された「自由や民主主義、基本的人権や法の支配といった基本的価値を共有する国々」「自由と民主主義に共通の価値を置く西側社会」を支える理念とは、まさにこの「自由民主主義―リベラルデモクラシー」にほかなりません。言うまでもなく、日本はそういった基本的価値を共有する国々の一員です。