かつて日本には、江副浩正(えぞえ・ひろまさ)という「起業の天才」がいた。彼が立ち上げたリクルートの時価総額は8兆円に迫っている。総合情報産業の会社として屈指の存在である。

だが彼の名は「起業の天才」ではなく、戦後最大の企業犯罪「リクルート事件の主犯」として人々に記憶され、そして忘れ去られようとしている。

日本が生んだ「天才起業家」を、歴史に葬り去ってはならない。逆境に立ち向かうべき今こそ、日本人はその「成功と失敗」から学ぶべきではないか。

そう問いかける書籍『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』を上梓するジャーナリストの大西康之氏に、「なぜ今、江副浩正なのか」を解説してもらう(こちらから、本書の序章「ふたりの天才」を試し読みできます)。

40年前に「マスメディアの凋落」を予見した

日本のマスメディアが構造改革の波に洗われている。

マス広告の雄、電通グループは東京都港区の本社ビルを売却する検討に入り、毎日新聞は節税目的で資本金を中小企業並みの1億円に減資する。朝日新聞は赤字転落の責任を取って4月に社長が交代する。

テレビも厳しい。2020年9月中間期決算では、日本テレビHDが赤字に陥った。フジ・メディアHD、テレビ朝日HD、TBSHDも減収減益だった。

コロナ禍による消費冷え込みを受けた広告収入の落ち込みが直接の原因だが、新聞、テレビの収益はコロナ以前から長期低落を続けている。ネットに広告を奪われているからだ。

このようなマスメディアの凋落を40年近く前に予見していた男がいる。リクルート創業者の江副浩正だ。

江副はグーグルよりはるかに早く、商業メディアの収益源である「マス広告」の非効率性を見抜き、情報が欲しい消費者と情報を伝えたい企業をマッチングさせる仕組みを作った。インターネットがない時代にそれをやってのけた江副は「起業の天才」だった。