水分と塩分の補給方法として、私は経口補水液をお勧めする。スポーツドリンクや水、麦茶などを飲む方は多いが、それでは塩分が足りず、血管内への水分の吸収が悪いからだ。経口補水液は、コレラなど下痢で体液を喪失して死んでしまうような病気の時に『飲む点滴』として開発された。基本的な成分は水と食塩と砂糖だ。

さまざまなレシピがあり、現在では飲料メーカーがさまざまな製品を売っている。代表格は大塚製薬のOS-1だ。しばしば「経口補水液はマズイ」という評判を聞く。たしかにスポーツドリンクに比べると甘みは少なく、少し塩気をつよく感じる。不思議なものだが、脱水で体が水と塩を欲しているときは、とても美味しく感じるのだ。

喉の渇きは、血管に分布するセンサーが体液の減少を感知することで起きる感覚だ。これは自律神経というシステムがつかさどっているのだが、自律神経は加齢とともに機能が低下する。中年期以降、とくに高齢者では喉の渇きを感じる頃には大分脱水が進行していることになる。

脱水は浸透圧によって3つに分類される

高張性脱水:塩分より水分が失われた状態で、血液の塩分濃度は濃くなる

等張性脱水:塩分と水分が同程度に失われた状態で、血液の塩分濃度は変わらない

低張性脱水:水分より塩分が足りない状態で、血液の塩分濃度は低い

人体には血液の量と浸透圧を感じる2種類のセンサーがあり、浸透圧を感じるセンサーのほうが鋭敏だ。よって高張性脱水(水分欠乏型脱水)には気づきやすい。だが等張性脱水(水分とナトリウム欠乏型脱水)のように、血液が減少している場合は気づきにくい。健康のために塩分を控えるのは良い事だ。ただし、大量に汗をかいて塩分も多く失われるような状況では、塩分摂取が必要なのだ。

症状だけでは熱中症と心筋梗塞は見分けられない

一方、熱中症だと思っていたら、実は心筋梗塞だった、というようなケースは少なくない。心筋梗塞は左胸が痛む、いやいや左肩や左あごにも痛みを感じるらしい、と考える方がほとんどだ。そのような典型的な症状の方は診断が容易だ。だが臨床をやっていると、「何となく具合が悪い」、「気持ち悪くて吐いてしまった」というはっきりしない症状で来院する心筋梗塞の方をしばしば目にする。実は、心筋梗塞の痛みは自律神経が弱っていると感じないのだ。とくに糖尿病の方では自律神経の機能が低下しやすいため、気づかないうちに無痛性の心筋梗塞を起こしているケースは多い。

熱中症というのは、他の病気が除外されて、「他に原因がないから、きっと熱中症でしょう」と消去法でしか診断できないものなのだ。ましてや、心筋梗塞や軽い脳梗塞でも起きうる症状と類似しているため、さまざまな基礎疾患のある方の熱中症の診断は容易ではないのだ。

できれば普段からしっかり水分を摂って脱水を予防し、熱中症になるような環境は避けるのが安全だ。では、しっかり水分を摂るとは、どうすればいいのだろうか?