台風19号で交通寸断「陸の孤島」へ高速バスなぜ運行できたのか? 実現の裏側

台風19号で交通寸断「陸の孤島」へ高速バスなぜ運行できたのか? 実現の裏側

台風19号の影響により、川の氾濫で営業所が浸水するなど、大きな被害を受けたバス事業者がありました。その一方、各地で道路や鉄道が寸断されるなか、高速バスは“ならでは”の柔軟な対応で、早期に運行を再開しています。

冠水のなか、避難したバス

 2019年10月12日(土)から翌日にかけ、台風19号が東日本を縦断し、バス業界も大きな影響を受けました。各社の対応を振り返ります。

 今回の台風による水害で、複数の事業者が営業所の浸水被害の危機にさらされました。

 ひとつは、長野市の長電バス長野営業所です。10月13日(日)未明、長野市内で千曲川が決壊しました。長野営業所は川の近くに位置するため、同社は早朝から路線バスを運休し、バスを避難させました。近くにある国土交通省長野運輸支局が敷地を提供してくれ、続々と出勤した職員によって人海戦術でバスを移動させたといいます。

 結果的に営業所施設や車両に大きな被害はなく、翌14日(日)には一部路線の運行を再開しました。ただ停電が続き、非常電源によりパソコンなど電気機器の台数を絞って、運行管理などの業務を行いました。

 長電バス長野営業所 課長補佐の山本典臣さんは、「幹部のリーダーシップと現場のチームワークがあったから、大きな被害もなく早期の運行再開につながった」と振り返ります。運行先から回送で長野に戻ってきた高速バス車両には、共同運行先の厚意で水などの支援物資が積まれていた、というひと幕もありました。

 福島県では、福島交通郡山支社の近くで川が氾濫しました。同社は、このような場合に備え協定を結んでいた企業の敷地に一部のバスを避難させました。残りの車両も敷地内で地盤の高い位置に集めましたが、氾濫の勢いは強く、あっという間に車両が水に浸かってしまったということです。

 これにより多くの車両が使用できなくなり、11月11日(月)現在も一部路線の運休が続いています。今後、ほかのバス事業者でも、大規模災害時の被害想定を見直すなどの対策が求められています。

中央道寸断のなか高速バス早期再開、実現の背景

 今回の台風では高速道路も広範囲で通行止めが発生し、多くの高速バスが運休しました。特に影響が大きかったのが中央道です。複数の地点で土砂が流入し、通行止めが10月12日(土)から1週間続きました。並行する国道20号、JR中央本線も不通となり、東京と山梨県甲府地方や長野県南部を結ぶ交通はマヒ状態に陥りました。

 中央道をメインルートとする新宿発着の「中央高速バス」全路線が運休するなか、山梨交通は、東名高速に迂回することで、所要時間は予測できないながらも甲府から東京へなんとか移動できそうだと判断。甲府発新宿行きの片道のみ、通行止め翌日の13日(日)から運行を開始しました。

 このときは、日頃の高速バスとは運行内容(経路、運賃など)が大きく異なることから、募集型企画旅行(バスツアー)という扱いで、通常運賃2200円のところ3000円に設定されています。

 並行して、「中央高速バス」を共同運行する京王バス東らが、監督官庁と緊急の協議を重ねました。10月15日(火)からは、新宿発を京王が、甲府発を山梨交通が、それぞれ片道ずつ運行する形で、甲府から新宿に加え新宿から甲府の足を確保しました。

 この臨時運行には、天災時の対応を定めた道路運送法第17条が適用されました。本来のルートが通行止めになっているので、迂回運行に届出や申請は不要でしたが、あえて「災害時の臨時路線」として手続きをしています。というのも、片道運行(復路は回送)となるため、通常より高めの運賃を設定する必要があったからです。

 この手続きにより、ふだんの時刻や運賃にとらわれず臨時ダイヤや運賃を設定できました。なお、当初に募集型企画旅行形式で運行を開始した関係で、この新宿〜甲府線の臨時路線は通常の「バスタ新宿」ではなく、新宿駅西口の26番臨時停留所発着で運行されています。

そして読めるようになった遅延時間 鉄道復旧までの需要に応えた高速バス

 同じ山梨県でも富士五湖地区は、東名経由の高速バス路線(渋谷発着など)が早期に運行を再開したほか、ふだんは中央道経由の東京駅発着便も東名経由で運行されました。河口湖駅(山梨県富士河口湖町)でこれら高速バスから路線バスに乗り継いで甲府方面に向かうルートがSNSなどで拡散し、各社は続行便(2号車以降)を設定して需要に応えました。

 中央道通行止めから5日後の10月17日(木)には、新宿発着の富士五湖線、諏訪・岡谷線、松本線も運行を再開しました。新宿〜甲府線の臨時路線を運行するなかで、遅延が2時間程度に収まることがわかったためです。目的地への到着が大きく遅延すると、現地での宿泊など車両や乗務員の運用に大きな負担が発生することもあり、遅延時間を読めるようになったことで運行再開が実現したのです。

 なお、往路が遅延しても目的地での折り返し準備時間を確保し、かつ復路が遅延しても深夜時間帯にかかってしまわないよう、一部の便を運休し、折り返し運行のダイヤも調節しました。一方、新宿発着の伊那・飯田線、高山線などは、もともと所要時間が長いため、この時点では運行を再開できませんでした。

 中央道は高速道路会社などの懸命な作業のおかげで、19日(土)正午に通行止めが解除され、翌日からは中央高速バス各路線とも通常運行に戻りました。一方、JR中央線の復旧にはさらに時間がかかり、28日(月)に特急列車が運行を再開するまでのあいだ、各事業者は可能な限り続行便を設定して、山梨県、長野県方面の足の確保に努めました。

天災時における「バス」の強みとは?

 このような大規模災害が発生した場合、柔軟に迂回運行できる高速バスは、鉄道より早く運行を再開できるケースがあります。過去にも素早く運行を再開し、被災地から戻ってこられなくなっていた旅行者や出張客らに喜ばれました。

 2011(平成23)年の東日本大震災では、高速バスの運行を貸切バス事業者に委託できる「貸切バス型管理の受委託」制度の活用を、当時まだ構想段階でしたが、正式な法令改正を待たず国が先行して認めています。これにより、ふだんは東北方面を運行していないバス事業者の車両と乗務員が応援に入り、不足する輸送力を確保できました。

 また、福島県の南相馬と仙台を結ぶ路線のように、震災時に臨時で運行した高速バス路線が、地元客に定着して定期路線化した例もあります。

 大きな災害が起こらないことが一番ですが、発生した際には、バスならではの柔軟性が役に立ちます。近年、気象災害が大型化しているほか、大地震の心配もあります。万一の災害の際に社会的使命を達成するため、バス事業者には十分な準備と柔軟な発想で、一刻も早く地域の足を確保することが求められています。


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