太古の昔から東西の文物が行き交ってきた中東地域ですが、21世紀現在、イラン空軍の戦闘機もそうした様相を呈しています。米製F-14「トムキャット」とソ連製MiG-29が並ぶその軍容は、同国が歩んできた複雑な歴史を反映したものです。

緊張高まる中東情勢 アメリカに相対するイラン空軍の軍容は?

 2020年1月3日(金)、アメリカがイラク国内でイラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官を殺害し、1月8日(水)にイランがイラク国内のアメリカ軍が駐留する基地に対して弾道ミサイルで報復攻撃を行なったことから、アメリカとイランの緊張状態が一気に高まりました。

 イランは報復攻撃の実施後、防空体制強化のため戦闘機を常時、飛行させていると報じられています。イラン空軍は2019年4月の時点で300機前後の戦闘機を保有していると見られていますが、ほぼ同規模の航空自衛隊が4機種の戦闘機を併用しているのに対し、イラン空軍は9機種の戦闘機を併用しています。

 これは戦闘機に限った話ではありませんが、運用する兵器の種類が増えれば増えるほど、軍の整備や補給の負担は大きくなります。そうであるにもかかわらず、イラン空軍が9機種の戦闘機を併用しているのは、第2次世界大戦後にイランがたどってきた複雑な歴史が関係しています。

 第2次世界大戦後のイランは、一時期旧ソ連と接近していましたが、1953(昭和28)年に起こったクーデターで親ソ政権が打倒され、モハンマド・レザー・シャー・パフラヴィー2世皇帝の独裁政権が樹立されて以降は、世界でも有数の親米国家となりました。

 パフラヴィー皇帝は石油の輸出による潤沢な資金にモノを言わせて、アメリカをはじめとする西側諸国から最新鋭兵器を買い集めており、空軍もアメリカが発展途上国向けに開発したF-5E/F「タイガーII」を皮切りに、やはりアメリカ製のF-4「ファントムII」、F-14A「トムキャット」といった戦闘機を導入していきました。

イランが米ソ両方にそっぽを向かれたワケ

 しかし1979(昭和54)年に発生したイラン革命後、成立した現在のイラン・イスラム共和国は、一転して反米政策を打ち出します。同年11月に革命勢力が人質を取ってアメリカ大使館を占拠したため、アメリカはイランと断交し、革命前に導入したF-14などの部品の調達が不可能になりました。

 冷戦時代、アメリカをはじめとする西側諸国と敵対する国の多くは、旧ソ連などの共産圏から武器を輸入していましたが、イランは革命の翌年の1980(昭和55)年に、当時旧ソ連が肩入れしていたイラクと戦争を始めてしまったため、旧ソ連から戦闘機などの兵器を導入することも困難な状況になってしまいます。

 このためイランは非合法な方法で、アメリカ製戦闘機の部品を調達して空軍戦力を維持しようとします。1988(昭和63)年には日本の企業からF-4戦闘機に搭載する、「サイドワインダー」空対空ミサイルの飛行安定化装置が不正輸出され、輸出した企業の社員が有罪判決を受けるという事件も起こっています。

 イラクとの戦争終結後、イランは旧ソ連からMiG-29戦闘機、中国からMiG-21戦闘機をコピーしたJ-7戦闘機をそれぞれ導入していますが、旧ソ連、中国ともイラクやほかのアラブ諸国への配慮から、イランの要求よりも少ない機数しか輸出しておらず、革命前に導入したアメリカ製戦闘機を更新することはできませんでした。

 その後イランは1991(平成3)年に発生した湾岸戦争で、イラクから亡命してきたフランス製のミラージュF1戦闘機と、旧ソ連製のSu-22戦闘機を接収して、自国の空軍の戦力に組み込みます。こうして1990年代前半の時点でイラン空軍は、アメリカ、旧ソ連、フランスの3か国が製造した、合計7機種の戦闘機を運用する状態になっていました。

そして独立独歩の道へ 独自開発の戦闘機は戦力化できるの?

 湾岸戦争以降、イラン空軍は新しい戦闘機を導入できておらず、戦闘機戦力の老朽化が進んでいます。このためイランは国内で、F-14をはじめとするアメリカ製戦闘機の予備部品工場や、大規模なオーバーホール施設を建設し、また国産ミサイルの運用能力を追加するといった改良も加えて、主力であるアメリカ製戦闘機の運用を続けています。

 その一方でイランは、F-14やF-4などに比べて構造が簡素なF-5E/Fの設計を流用した新戦闘機「サエゲ」と「コウサル」の、開発と戦力化を進めており、冒頭で述べたように、現在のイラン空軍は合計9機種の戦闘機を運用する空軍となっています。

「サエゲ」は、原型機であるF-5Eの垂直尾翼が1枚であったのに対し、F/A-18戦闘機のような、外側に傾けた2枚の垂直尾翼を備えており、空力性能やステルス性能が向上したと見られています。

「コウサル」は一見すると原型機のF-5Fと変わりなく見えますが、イランはレーダーや電子装置の更新によって、1980年代に実用化された、F-16などの第四世代戦闘機と同等の能力を持つと主張しています。

「サエゲ」と「コウサル」に関しては情報が少なく、イランが本当にこれらを戦力化できるのか、疑問視する声も少なからず存在します。ただ、機齢が40年以上に達したF-5やF-4、F-14を運用し続けるだけの技術力があることから見て、「サエゲ」「コウサル」の戦力化は十分可能なのではないかと、筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。