路線バスだけで東京〜仙台間を乗り継いだ場合、乗り換えの回数は40回以上にも及びます。川幅の広い利根川や、関東と東北の境をどこで越えるかがポイントになりますが、ほかにも「難所」はいたるところにありました。

東京から埼玉へ 路線バスで江戸川の西岸を北上

 路線バスだけで東京駅から仙台駅まで乗り継いで移動すると、どのような行程が考えられるでしょうか。今回は、筆者(宮武和多哉:旅行・乗り物ライター)が2008(平成20)年ごろから実際に路線バスで日本列島を縦断した際の乗車区間をもとに、その後に廃止された区間は別ルートを提示するなどのアレンジを加え、2020年2月現在の乗り継ぎルート例を紹介します。

 今回紹介するルートは、有料道路を走らない路線に限定しています。以下、それぞれのバス路線は「バス事業者名またはバス愛称名」「系統名または路線愛称(存在しない場合もあり)」「乗車区間」の順に記載します。なお、乗り継ぐ路線どうしで一部区間を重複して乗車しているケースもあります。

東京都〜埼玉県

・東京都交通局「東42甲」:東京駅八重洲口〜東武浅草駅前
(東武浅草駅前〜浅草雷門間、徒歩およそ300m)
・東京都交通局「草39」:浅草雷門〜金町駅前
・東武バスセントラル「金52」:金町駅前〜みさと団地

 東京駅からはまず、都営バスの多くの路線が集まる浅草を目指します。丸の内口のバスターミナルから、シルバーの車体に丸い側面窓が特徴の観光路線バス「東京→夢の下町」で向かうこともできますが、運行は9時からです。早起きして先を急ぐならば、八重洲口のバスターミナルから発車する、「東42甲」系統の南千住車庫行きを利用するのがよいでしょう。朝6時台から運行しています。

 浅草からは、水戸街道(国道6号)に沿って走るバスで金町駅(東京都葛飾区)へ出ます。駅の東側には千葉県との境をなす江戸川が流れますが、今回は東武バスで川の西岸を北上し、江戸川旧流路の「小合溜(こあいだめ)」を越えて埼玉県三郷市を目指します。

路線バス「野田ルート」で江戸川と利根川を越える

 今回の旅の前半におけるポイントは、江戸川と利根川をどこで渡るかです。ともに複数の都県を隔てる大きな河川であり、橋も多くはなく、バス路線もおのずと絞られてきます。三郷市から江戸川を越えて千葉県松戸市へ入り、JR常磐線沿いに茨城方面へ進むこともできますが、最も効率がよいのは、三郷から埼玉県内を北上するルートです。

埼玉県〜千葉県〜茨城県

・メートー観光「M1」:みさと団地〜吉川駅南
・茨城急行自動車:吉川駅北口〜エローラ
・茨城急行自動車:エローラ〜北越谷駅東口
・茨城急行自動車:北越谷駅東口〜野田市駅
・茨城急行自動車:野田市駅〜岩井局前

 埼玉県東部は、タローズジャパン、マイスカイ交通など小規模の路線バス事業者が数多く存在するエリアで、三郷市郊外の「みさと団地」からは、そのひとつであるメートー観光のバスで吉川駅(埼玉県吉川市)へと歩みを進めます。ここから先は、「いばきゅう」こと茨城急行自動車のバスを乗り継いでいきます。

 吉川駅から向かう先の「エローラ」とは、吉川市と千葉県野田市に隣接する松伏町の音楽ホールなどを備えた文化施設です。松伏町は人口およそ3万人で、吉川駅や東武線の北越谷駅、野田市駅といった近隣の鉄道駅への連絡バスが数多く運行されています。都心へ直接向かう鉄道の要望は多く、東京メトロ豊洲駅から野田市までの鉄道計画があるものの、具体的な動きを見せておらず、当面は路線バス頼みの状況が続きそうです。

 エローラからは北越谷駅を経て、いよいよ川越えです。まず江戸川を渡り千葉県野田市へと進み、さらに利根川を越えて茨城県坂東市の旧・岩井市エリアへ向かいます。

 なお、野田市からバスを乗り継ぎ栃木県へ向かうこともできますが、栃木県南部の野木町でバス路線が途切れるので、岩井から茨城県内を進みます。また、野田より下流の利根川越えルートとしては、前出の常磐線沿いに千葉県松戸市、柏市、我孫子市と進み、茨城県利根町に入る方法もありますが、途中の乗り継ぎの効率がよいとはいえません。それより下流では、千葉県香取市から茨城県稲敷市に入り、霞ケ浦の南側を行くルートも存在します。

茨城からいよいよ東北へ!

 茨城県内は、水戸から北上して福島県を目指します。

茨城県〜福島県

・関東鉄道「直行坂東号」:岩井局前〜守谷駅西口
・関東鉄道「取手守谷線」:守谷駅東口〜取手駅西口
・関東鉄道:取手駅西口〜谷田部四ツ角
・関東鉄道:谷田部四ツ角〜土浦駅(西口)
・関鉄グリーンバス「石岡土浦線」:土浦駅(西口)〜石岡駅
・関鉄グリーンバス「水戸石岡線」:石岡駅〜水戸駅北口(一部の便は関東鉄道が運行)
・茨城交通「26」:水戸駅北口〜中台
・ひまわりバス(那珂市コミュニティバス)「菅谷・五台循環コース(左回り)」:中台〜上菅谷駅
・茨城交通:上菅谷駅〜常陸太田駅
・茨城交通:常陸太田駅〜里川入口
(福島県まで徒歩連絡。里川入口〜大ぬかり明神間、およそ900m)
※「ぬかり」は土偏に共。

 2005(平成17)年に合併で坂東市となった旧・岩井市エリアは、東京から直線距離で40km圏内にあるにもかかわらず、鉄道が近くを通っていません。岩井〜野田市間のバスは東武野田線や伊勢崎線へ乗り継いで東京へ向かうルートの入口として重宝されてきましたが、現在では都心へ直接向かう高速バスとの競争によって、減便を繰り返しています。茨城県側への路線バスもいまや、つくばエクスプレスに接続する守谷駅(茨城県守谷市)への路線のみとなりました。

 守谷から県都の水戸市までは、JR常磐線の主要駅から主要駅へ、本数は多くないものの比較的順調に乗り継ぐことができます。石岡市の石岡駅からは水戸駅への直行便もありますが、2007(平成19)年に廃止された鹿島鉄道の線路跡に整備されたバス専用道を進み、茨城空港などを経由して水戸駅まで向かうのもよいでしょう。

 水戸からはJR常磐線沿いを離れ、国道349号沿いに福島県を目指して北上します。水戸駅〜常陸太田間は直行する路線バスが2014(平成26)年に廃止されて以降、路線見直しの影響で乗り継ぎルートがしばしば変わっています。那珂市内で茨城交通の路線がつながらない区間は、那珂市が運営するコミュニティバスを使います。

 常陸太田からはかつて、福島県境の明神峠を越えてJR東館駅(福島県矢祭町)まで茨城交通のバスが通じていました。2002(平成14)年に福島県側の区間が廃止され、福島交通が一部区間を引き継ぎいだことで、県境の約900m区間はバスの運行が途絶えましたが、勾配もほとんどなく、比較的ラクに歩けます。なお、常陸太田駅から西へ、栃木県那須烏山市に向かい、そこから北上して栃木・福島県境を目指すことも可能ですが、こちらは県境部で3.1kmの徒歩連絡を要します。

広大な福島県 宮城県境で待つ「最長」徒歩区間

 福島県内では内陸の「中通り」から海沿いの「浜通り」へと、県内を東西に移動します。その距離は長く、バスどうしの連絡もよいとはいえず、県内を通過するのに数日を要します。

福島県〜宮城県

・福島交通:大ぬかり明神〜矢祭町役場
・福島交通:矢祭町役場〜棚倉駅前
・ジェイアールバス関東「白棚線」:磐城棚倉駅〜白河駅前
・福島交通:白河駅前〜石川営業所
・福島交通:石川営業所〜須賀川駅前
・福島交通:須賀川駅前〜郡山駅前
・福島交通:郡山駅前〜太田熱海病院
・本宮市営バス「下樋熱海線」:太田病院〜本宮駅前
・本宮市広域生活バス「岳線」:本宮駅前〜岳温泉
・福島交通:岳温泉〜二本松駅前
・福島交通:二本松駅前〜福島駅東口
・福島交通:福島駅東口〜原町駅前
・福島交通:原町駅前〜相馬営業所
(相馬営業所〜相馬駅間、徒歩すぐ)
・しんちゃんGO!(新地町民バス):相馬駅〜役場前
(宮城県まで徒歩連絡。役場前〜社台山元トレーニングセンター入口間、徒歩およそ4.3km)

 明神峠から白河市までの道筋は、江戸時代には「棚倉街道」と呼ばれ、奥州諸藩の参勤交代ルートとしても使われました。沿道には宿場や旅籠が立ち並んでいた名残もあるなど、バスの車窓はなかなか見ごたえがあります。棚倉町と白河を結ぶジェイアールバス関東の白棚線は、鉄道の廃線跡を活用したバス専用道を走ります。

 白河からは須賀川、郡山、本宮といったJR東北本線沿いの街と、そこから離れた街をジグザグに縫うように北上します。途中で経由する二本松市郊外の岳温泉には立ち寄り湯もあり、ひと息つきたいところですが、お湯の温度はけっこう高めです。

 目指す宮城県へは、福島市からJR東北本線沿いに進むと県境で6km以上の徒歩連絡が必要です。ここは、福島駅から2時間近くかけてJR常磐線の原ノ町駅(福島県南相馬市)へ向かうバスがあるので、一気に海沿いの「浜通り」へ出てみましょう。

 原ノ町駅から相馬市までは福島交通のバスがありますが、そこから宮城県に隣接する新地町の役場までは、新地町営バス「しんちゃんGO」を利用します。このバスは前日までに利用申請が必要なうえ、13人乗りの車両は満席の場合に「定期利用者優先」と明記されているため注意が必要です。

 そして、この浜通りの宮城・福島県境もバス路線がつながっていません。新地町役場から宮城県山元町の「社台山元トレーニングセンター前」まで4.3km、仮に「しんちゃんGO」を利用しなかった場合は、相馬市と新地町の境目にある福島交通のバス停「塚部」から8.4kmもの徒歩を要します。

自治体運営バスを乗り継ぎ仙台へ! 阿武隈川を渡った「幻のバス」とは?

 宮城県内は沿岸部を北上していきますが、またしても川に行く手を阻まれます。

宮城県

・山元町民バス「ぐるりん号 南部線」:社台山元トレーニングセンター前〜山下駅前
・山元町民バス「ぐるりん号 北部線」:山下駅前〜浜吉田駅西
・亘理町民バス「さざんか号 南部循環線」:浜吉田駅西〜亘理駅前
・亘理町民バス「さざんか号 北部循環線」:亘理駅前〜水塚
(水塚〜阿武隈間、徒歩およそ1.2km)
・岩沼市民バス「駅東・中央循環線2」:阿武隈〜岩沼駅東口
・岩沼市民バス「駅東・中央循環線4」:岩沼駅東口〜市民会館北
(市民会館北バス停と総合南東北病院バス停は同所)
・なとりん号(名取市コミュニティバス)「館腰植松線」:総合南東北病院〜名取駅前
・なとりん号(名取市コミュニティバス)「高舘線」:名取駅西口〜南仙台駅西口
・仙台市営バス「10」:南仙台駅東口〜長町駅・たいはっくる前
・宮城交通「八木山動物公園線」:長町駅東口〜仙台駅前

 宮城県の沿岸部も、山元町、亘理(わたり)町、岩沼市と自治体運営のバスを乗り継ぎながら北上していきます。亘理町と岩沼市のあいだを流れる阿武隈川の上はバス路線が途切れますが、2011(平成23)年の東日本大震災後、ここにはわずかな期間だけ「幻の路線バス」ともいうべきものが走っていました。

 地域を南北に貫くJR常磐線が東日本大震災により運休しているあいだ、亘理駅を拠点とした列車代行バスが、沿岸部から仙台への通勤・通学の足を担いました。2013(平成25)年には亘理駅から南の浜吉田駅までが復旧しましたが、震災前より大幅に終電が早くなったことから、亘理町が帰宅の足を確保すべく、岩沼駅と町内3駅を結ぶ「広域運行バス・岩沼線」を運行。始発の岩沼駅を夜23時51分に発車するという町営バスとしては異例の深夜運行が、2015年から1年半、行われました。なお筆者も運行当時に乗車しましたが、家路につくサラリーマンの乗車がきわめて多かったと記憶しています。

 岩沼駅から先は、岩沼、名取それぞれの市営バスを乗り継ぎ、仙台市太白区の南仙台駅へ向かいます。そこから仙台駅までは乗り継ぎも比較的スムーズです。最後に乗車する宮城交通の「八木山動物公園線」は、仙台駅前からさらに県庁・市役所前まで走ります。この近くにある青葉区役所最上階の食堂は、仙台市内を一望できるだけでなく、行き交う路線バスの観察にも最適です。

※ ※ ※

 今回のルートを旅する場合、最低でも足かけ6日かかります。全国的に進行するバス路線の縮小は、沿線人口が多いはずの関東でも顕著で、紹介した路線でも運転手不足による減便が実施されています。路線バス乗り継ぎの旅を始めるなら、早めのほうがよいかもしれません。