かつて砲艦外交の主役が戦艦だったころ、潜水艦は各国海軍のなかでも傍流であり、脇役的存在でした。いまやアメリカをはじめ一部の国では、空母と共に砲艦外交の役割を担うまでその地位を高めました。その成り上がりの経緯を追います。

最初は「船乗りらしからぬ卑怯者」扱い

 潜水艦の最大の特徴は海中に潜れることです。技術が発達した現代でも海中に潜む潜水艦を見つけるのは難しく、「海の忍者」とも言われるように、その行動は秘密のベールに包まれています。そして、この見えない忍者は一国を脅かすような力をも秘めているのです。

 海中に潜れる現代的潜水艦は19世紀には登場していましたが、当初、水上の艦船を攻撃する方法は限られていました。港湾に停泊中の敵艦へ密かに近づいて、船底に機雷を仕掛けて爆発させるという危険な戦法で、ほとんど戦果は挙げられず、労多く益の少ないものでした。しかも「船乗りらしからぬ卑怯な戦法」という非難さえ受けてしまう有様です。

 自力で目標に向かって進む機雷=魚雷が発明されることで、ようやく潜水艦は一人前の攻撃手段を得ることになります。その実力を認められたのは第1次大戦の頃からです。

 潜水艦といえばドイツのUボートは有名で、何本も映画が作られています。ちなみに「Uボート」とは「Unter see boot(ウンターゼーボート、水の下の船)」の略語で、厳密には固有名詞ではありません。

 Uボートは第2次大戦の緒戦では大西洋で猛威を振るい、島国イギリスのシーレーンを脅かして経済的に窮地に追い詰めます。魚雷1発は家1軒分の価格だったといわれ、節約の為に商船など反撃してこない敵には浮上して、安い砲弾の大砲で攻撃しました。それほどUボートにとって「獲物」は豊富だったのです。

 イギリスやアメリカ海軍もUボートに必死の反撃を加え、戦争中期以降、Uボートの威力も減殺されていきます。Uボートの活動と苦労の物語は映画でもよく描かれているところですが、海軍にとってはやはり空母や戦艦、巡洋艦が主力です。シーレーンを脅かすことは、戦略的には意味のあることでしたが、それでもまだ潜水艦は地味で傍流でした。

潜水艦の転機となった「核」の出現

 地味で傍流だった潜水艦が一躍、戦略兵器となり脚光を浴びるのは、核エネルギーの実用化がきっかけです。

 アメリカは第2次大戦末期に核兵器を実戦化しますが、戦後すぐにミサイルにも搭載するようになります。アメリカ海軍は潜水艦の秘匿性を生かし、核ミサイルを潜水艦に搭載することを研究、水中から発射できるSLBM(潜水艦発射弾道核ミサイル)を実用化します。着想の参考になったのは、飛行機を積んだ旧日本海軍の潜水艦「伊四百」とも言われています。

 さらに原子力機関の実用化が潜水艦の地位向上に大きく貢献します。「通常型」といわれる潜水艦のように、エンジンでバッテリーを充電するために浮上して水面に姿をさらすという、従来の弱点を克服した原潜(原子力潜水艦)は、本当の意味の潜水艦となったといえます。

 原子力による充分な発電能力で海水を電気分解し酸素を供給するので、原潜内の空気環境は地球上で最も清浄とさえいわれます。とはいえ、生身の乗組員には水や食料の補給や休養も必要ですので、ずっと潜っているわけにもいきません。海洋での活動期間は、アメリカ海軍の原潜で約70日間とされます。

 原潜とSLBMを組合せたのが弾道ミサイル潜水艦です。広い海に潜んでSLBMを発射できる究極の戦略兵器で、アメリカ海軍が現在就役させているオハイオ級は24基のSLBMを搭載し、1隻で一国を脅かす十分な破壊力を持っており、核抑止力を担う要です。

 2020年現在、弾道ミサイル潜水艦を運用しているのはアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インドです。北朝鮮は原潜ではありませんが、弾道ミサイル潜水艦の開発を行っている可能性が最近、注目されています。

潜水艦のもうひとつの競争相手は「空軍」

 第2次大戦末期にアメリカが実戦化した核兵器の威力は世界中を驚かせ、核兵器を運用するアメリカ空軍の力(実戦力と政治力)は戦後、巨大なものになります。そうした状況を気に入らないのが、政治的に劣勢に立たされたアメリカ海軍でした。

 陸海空軍の政治的関係がややこしいのはどの国も同じで、極言すれば予算の奪い合いです。空軍に対抗するため、海軍や陸軍も何とか核兵器を運用できる能力を持とうと模索し、陸軍は大砲で発射できる核砲弾などというものも開発しています。ソ連と対峙する冷戦時代でしたが、アメリカ国内では軍同士も政治的に対峙していたのです。

 弾道ミサイル潜水艦によって、海軍は政治的プレゼンス(存在感)を空軍から取り戻します。爆撃機はレーダーによって捕捉されて迎撃されますし、地上の核ミサイル基地は敵から攻撃され得ます。しかし潜水艦は広い海中に隠れることができて敵の攻撃を受けにくく、最も有効な核運搬手段と見なされたというわけです。

 地味で傍流だった潜水艦は、こうして国内外で威力を発揮する戦略兵器に進化したのです。