旅客機機首部分の側面を見ると、あたかも「ヒゲ」のように見えることもある、出っ張った棒状の物体があります。「ピトー管」と呼ばれるこのパーツ、飛行機にとっては欠かせない、重要なものでした。

飛行機が用いる「対気速度」の計測に使用

 旅客機の多くには機首部分側面をよく見ると、出っ張った棒状のようなものが確認できます。その形はモデルにより多種多様ですが、まるで「ヒゲ」のように見えるものもあります。

 これは「ピトー管」と呼ばれるもので、おもに飛行機が上空で用いる速度の尺度である「対気速度」を測るために設けられています。

 クルマや鉄道など、地上の乗りものは地面に対してのスピードである「対地速度」を用いることが一般的ですが、飛行機は速度の測り方が異なり、空気に対してどれくらいのスピードが出ているかという「対気速度」をおもに用います。イメージ的には、クルマの窓から手を出して、受けた空気をスピードに換算するようなものです。

 飛行機は、いわば空気の塊のなかを飛ぶわけですが、その空気の塊は流動しており、飛行機がエンジンを回して実際に出している速度は、クルマなどのように「対地速度」では測れません。同じエンジン出力でも追い風のときは追い風のぶん、対地速度が速くなるからです。

 そして飛行機は、翼に風を受けることで揚力(進行方向と直角の方向に受ける力)を得て飛べるわけですが、追い風などで対地速度が速くても、対気速度が遅いと揚力が十分に得られず、最悪の場合、墜落してしまいます。逆に対地速度が遅くても、向かい風などで対気速度が十分であれば、飛行を継続できます。こうしたことから、飛行中の飛行機にとって対気速度は重要な指標のひとつになるというわけです。

 ピトー管は先端部の穴から空気を取り込み、外からの風圧と、その場所の大気圧の差を利用して、対気速度を測ります。実際の旅客機では、ピトー管で速度の概算を出したうえ、コンピューターなどを用いて様々な補正を加えることにより、より正確な対気速度を測り、これを飛行に使用しています。

安全直結の「ピトー管」 使用済みのものが売られることも

 なお、F1カーでもピトー管を用いての対気速度計測は行われていますが、走行中の風の影響を調査する目的のそれに対し、飛行機のピトー管の役割は「飛行の要」と呼んでも差し支えないほど重要なものです。

 ピトー管がトラブルを起こすと、最悪のケースとして、いわばスピードメーターが壊れた状態での飛行を余儀なくされます。クルマなどは、止まればひとまず安全は確保されますが、飛行中の機体はそうはいきません。遅すぎれば失速し、速すぎれば機体が壊れてしまう可能性があります。

 このピトー管にハチの巣ができたり、凍り付いたりしたことが原因のひとつとされる航空事故も過去に発生しており、いかに安全に直結した重要度の高いパーツであるかがうかがえます。

 ちなみにこのピトー管、ごくまれにではあるものの、使用済みのものが売りに出されています。たとえば2015(平成27)年、ANA(全日空)の公式通販サイト上で、整備の際に取り外されたボーイング737-500型機、777型機およびエアバスA320機などのピトー管が計10点、1点あたり19万8000円で計10点販売されていたことがあります。このほか、成田空港に隣接する航空科学博物館(千葉県芝山町)で行われている「ジャンク市」に、過去に売られたこともあるそうです。