20世紀初頭までの軍艦には衝角という、体当たり攻撃のための武装が船首喫水線下に見られました。1980年代前半ごろまでに建造されたアメリカ海軍空母にも、飛行甲板の舳先にツノが見られましたが、決して体当たり用のものではありません。

空母のツノ 実は「もったいない」精神のあらわれ

 アメリカでは西海岸、東海岸、メキシコ湾沿岸の各地で、複数の退役空母がミュージアムシップとして保存展示されています。それらの過半数には、艦首に沿った飛行甲板最前部に「ホーン(角)」と呼ばれる出っ張りが付いています。

 しかし、横須賀で見られる原子力空母「ロナルド・レーガン」をはじめ、アメリカ海軍が2020年現在、運用する空母には「ホーン」がありません。このホーンは一体何のために取り付けられていたのか、そしてなぜ不要になったのか、そこには安全上の理由とともに「もったいない精神」も含まれていました。

 空母先端のホーンは、正式には「ブライドル・レトリーバー(リトリーバー)」や「ブライドル・アレスト・スポンソン」といい、飛行甲板のカタパルト、さらに言えば、それに使うワイヤーに関わる装備です。

 アメリカ海軍は第2次世界大戦中の1943(昭和18)年ごろに、イギリスから技術供与を受け、空母へカタパルトを装備するようになりました。

 このころのカタパルトは鉄製ワイヤーで艦載機を引っ張る方式でした。カタパルトのレール上には艦載機を引っ張る「シャトル」と呼ばれる装置があり、ここにワイヤーをV字の頂点がくるよう引っ掛け、ワイヤーの両端は艦載機の下部に繋いで引っ張るというものです。

 射出時、カタパルトの力によって艦載機が舞い上がるとワイヤーは機体から外れ、自重で洋上に落ちていきます。このように当時、カタパルト射出用の鉄製ワイヤーは使い捨てであり、「ブライドル・ワイヤー」と呼ばれました。

 しかし空母には数十機もの艦載機が搭載されます。たかがワイヤーといっても、塵も積もればなんとやらで、それを何十本も使い捨てにするのはさすがに無駄づかいです。そこで、ワイヤーを再使用するために回収する装置として空母に取り付けられたのが、「ブライドル・レトリーバー」、通称「ホーン(角)」でした。

空母の「ホーン」は過渡期の証

 ブライドル・ワイヤーでカタパルトと艦載機を繋ぐのは手間がかかり、なおかつ危険も伴いました。また連続射出するような状況では、飛行甲板のいたるところに複数のブライドル・ワイヤーが置かれ、甲板要員の往来や物資の移動に障害物となっていました。

 そこで艦載機の脚に、カタパルトのシャトルと直につなぐための射出バーを標準で装備する、現在の方式が考案されます。

 こうして1970年代半ば以降、ブライドル・ワイヤーを使わない艦載機が登場すると、その必要性も年を経るごとに低下していきました。

 アメリカ海軍では、1970年代後半に就役したニミッツ級原子力空母の初期建造艦までは、ブライドル・レトリーバーが標準装備されていましたが、1980年代後半に就役した同級の中期建造艦からなくなっています。

 またこれが装備されていたニミッツ級の初期建造艦からも、改装の際に順次、撤去され、2020年6月現在では、アメリカ海軍の現役空母でブライドル・レトリーバーを備えている艦はありません。

 こうして見てみると、空母のホーンは1950年代半ばから1990(平成2)年ごろまでの期間限定装備だったといえるでしょう。なお、過渡期にはホーンが片側1本のみという空母もありました。

※一部修正しました(6月7日9時25分)。