令和元年東日本台風で甚大な被害が出た箱根登山鉄道は、スイッチバックしながら運行する路線として知られています。日本国内の鉄道ではほかに、どこでスイッチバックが見られるでしょうか。実は都市部にもあります。

乗り通すと3回見られる箱根登山鉄道のスイッチバック

 東日本に甚大な被害をもたらした、令和元年東日本台風(2019年10月の台風19号)の影響で、長らく不通だった箱根登山鉄道が2020年7月23日(木・祝)、ついに運転を再開します。

 箱根登山鉄道は、神奈川県の観光地である箱根の山を上り下りする山岳路線です。高低差は約500m。その見どころのひとつに、急勾配を克服するために進行方向を変えてジグザグに進む、スイッチバックが挙げられるでしょう。

 このスイッチバック、日本国内ではほかに、どのようなところで見られるのでしょうか。

 先述の箱根登山鉄道では、小田原〜強羅間15kmで計3回行われます。そのうち2回は駅ではなく、乗客は乗り降りできない信号場で実施。列車が方向転換のため一時的に停車すると、運転士と車掌が簡易的なプラットホームを行き来し交代、列車は反対方向へ動き出します。

 JR九州の熊本県八代市と鹿児島県霧島市を結ぶ肥薩線にある大畑(おこば)駅(熊本県人吉市)は、開業当初の線形が保たれているスイッチバック駅です。山越えするループ線の途中に本線から外れて駅があるため、列車は一時的に入線するための引き上げ線を介して駅を発着します。

 このような構造になったのは、急勾配を上り続けるかつての蒸気機関車が給水するためでした。駅で、機関車も乗務員も小休憩をしたわけです。駅のそばには2020年現在も、給水塔が残されています。

 列車は大畑駅と、すぐ先の引き上げ線で計2回スイッチバックを行います。大回りをするループ線と合わせて付近の勾配が、いかに急かがうかがえます。

給水だけでない 蒸気機関車は急坂の途中には止まれない

 かつて蒸気機関車が給水をしたスイッチバック駅は、長野県内を走るJR東日本の篠ノ井線(長野市〜塩尻市)にもあります。それは姨捨(おばすて)駅(千曲市)で、勾配になった本線のわきに、行き止まりの駅があります。

 たとえば塩尻方面行きの上り列車は、進行方向右手に駅を見ながら、まずは引き上げ線に入ります。そこでスイッチバックして駅へ向かいます。発車する際は再度、進行方向が変わるので、駅で2回目のスイッチバックをしたことになります。長野方面行きの下り列車はこの逆で、駅発車後に引き上げ線を使って2回目のスイッチバックをし、本線に戻ってからは進行方向左手に駅を見ながら次の駅へ向かいます。

 なお、駅前後の本線はつながっているので、特急列車など姨捨駅を通過する列車は駅に入ることなく、つまりスイッチバックをすることなく、そのまま通過が可能です。

 姨捨駅は、長野盆地と棚田を一望できることから「日本三大車窓」のひとつになっているほか、近年は豪華寝台列車「TRAIN SUITE 四季島(トランスイートしきしま)」も停車することで有名になりました。

 新潟県上越市内にある、えちごトキめき鉄道妙高はねうまラインの二本木駅も、前述した姨捨駅のような構造のスイッチバック駅です。付近は勾配区間のため、電車など高性能な車両が導入される以前、列車は坂の途中での停止や発車が困難でした。そこで別途、勾配を緩くした線路を設け、そこに駅を設置したのです。

 妙高高原方面行きの上り列車は、進行方向右手に駅を見ながら、一度、引き上げ線へ入ります。そこでスイッチバックし、本線をまたぎながら駅に到着します。駅先は行き止まりのため、ここでもスイッチバックした後、発車し次の駅へ向かいます。

 ちなみに、引き上げ線には「雪囲い」があります。積雪で線路が埋まらないようにする覆いですが、これが1922(大正11)年に建築されたもので、柱には明治末期に製造された国産の古レールを再利用、屋根と壁は木造です。

 雪囲いは2019年、「豪雪地帯に特化した独特な鉄道駅の景観」を形成しているとして、駅舎などともに国の登録有形文化財に登録されました。

山中の秘境駅でスイッチバック しかし意外と都市部でも

 国内屈指の秘境駅で知られる、JR四国の香川県多度津町と高知県四万十町を結ぶ土讃線 坪尻駅(徳島県三好市)でもスイッチバックが見られます。同駅は山中にあり、2020年6月現在、平日は上下合わせても普通列車が1日7本停車するのみ。周囲に人家はなく、もともとは列車の行き違いのための信号場として設置されました。その後1950(昭和25)年に、乗客も乗り降りできる駅に昇格しています。

 駅先は行き止まりのため、前述の姨捨駅や二本木駅のように、列車は引き上げ線も使いながらスイッチバックします。たとえば多度津方面行きの列車は、本線から分岐して左に進み、駅に到着します。1回目のスイッチバックをすると本線をまたぎ、駅とは逆方向にある引き上げ線へ一度入ります。再度スイッチバックし、今度は分岐を右へ進み、本線を走ります。

 ここまで紹介した各駅や路線は、おもに山岳地帯にあります。しかし都市部でも、運転形態に限って見ればスイッチバックを行っている路線が見られます。

 たとえば小田急線で新宿駅から片瀬江ノ島駅まで行くとき、途中の藤沢駅では、列車は入線してきた方向へ発車します。それもそのはず線路の先には改札があり、同駅は行き止まりである頭端式の構造です。上り列車で片瀬江ノ島方面から来て新宿方面へ向かう場合も同様です。藤沢駅で進行方向を変え、次の駅へ向かう運転形態は、スイッチバックといえます。

 ほかにも同じ形態として、東武アーバンパークライン(野田線)の柏駅や、西武池袋線の飯能駅なども該当します。