高速バスは新型コロナウイルスの影響により多くの便が運休し、経済活動の再開とともに復便してきた一方で、感染再拡大の動きから、再度の運休や減便も相次いでいます。長期化する困難、バス事業者は「籠城」を考える必要がありそうです。

高速バス再運休の動き 需要減退はバス以外も同様

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの便が運休した高速バスですが、2020年7月下旬には、いったん、多くの路線で通常運行まで回復しました。しかし、再度の感染者数増加を受け、一部の路線では、運行再開の延期や再度の運休、減便を余儀なくされています。

 たとえば西武バスは、さいたま・池袋〜鳥羽線、南紀勝浦線を7月31日から再び運休、東北急行バスも、8月17日から東京〜金沢線、日光・鬼怒川線を再び運休といった具合です。

 ほかに、ジェイアールバス関東/西日本ジェイアールバスが、首都圏〜京阪神線の予約受付開始日を、通常の2か月前から1か月前に短縮するなど、状況に合わせた柔軟な運休や再開に対応しようとする動きもあります。

 背景として、地方向け路線では、首都圏や京阪神との往来を制限したい沿線自治体の意向があります。また、地方発、大都市発双方で、需要そのものも再び縮小しています。旅行会社のツアーや修学旅行などで利用される貸切バスの需要回復は相当遅れると考えられますが、都市間輸送を担う高速バスでも、需要回復が足踏み状態なのです。

 輸送人員はおおむね例年の3割程度まで減少。新幹線など鉄道や航空の輸送人員もほぼ同様の減少幅と報道されおり、必ずしも高速バスに限らず、出張や帰省、観光旅行など国内の都市間移動全体が低調だと考えられます。このような状況の中、今後、バス事業者はどう対応すべきでしょうか。

いまは「制御フェーズ」 次のステップまで「籠城」へ

 まだ「緊急事態宣言」真っただ中だった5月7日、筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)は「『新型コロナウイルス感染症』危機以降のバス事業ロードマップ」(以下「ロードマップ」)を発表し、全国のバス事業者らに提供しました。路線/高速/貸切という事業分野別に、事業者が対応すべき項目をまとめたものです。

 そこでは、時間軸を「緊急事態フェーズ/制御フェーズ/新常態フェーズ」と3段階に分類しました。「緊急事態」終了後に一律の「自粛」は終了するものの、大型イベントなどに制約が残り、かつ、いつ「緊急事態」に逆戻りするかも知れない期間が「制御フェーズ」です。政府や国民自身が行動をある程度コントロールする必要があると考え「制御」と名付けました。

 その後、ワクチンが開発されるなどして、いつかは消費者心理が回復するはずですが、出張や旅行の回数や方法が「コロナ前」とは異なる形になるのではないかと予測されるのが「新常態」フェーズです。

 8月現在は、まさに「制御フェーズ」のさなかといえます。「ロードマップ」では、この時期に高速バス事業者が対応すべき項目として、感染拡大防止の取り組みと、それを可視化することで安心感を提供することや、刻々と変化する需要に対し柔軟なダイヤ改正などで対応することを挙げています。

 率直に振り返ると、人の移動はもう少し回復するはずだと、筆者は考えていました。現に6月は徐々に回復が進みましたが、前述の通り、その後に伸び悩んでいます。その現状を見ると、「新常態フェーズ」が到来するまで、いかに経営体力や雇用を維持するかという点も重要になりそうです。言うなれば、長期の「籠城」作戦です。

「籠城」具体的にどうすれば?

 たとえば、従業員を休業させた際に給与の一部を国が助成する「雇用調整助成金」の特例措置は9月末までですが、与党幹部が「期限を延長すべき」と発言したと報道されています。一部の便を運休し乗務員を交代で休業させて、助成金を得て毎月の赤字を抑制することも選択肢でしょう。

 1日1往復の長距離夜行路線であれば、路線単位で運休するしかありません。しかし、30分間隔など高頻度で運行している昼行路線であれば、減便しても利便性への影響は限られます。地域との関係、競合の有無なども考慮し、優先順位をつけて運行計画を立てることが必要です。

 今後、万一、自社の事業エリアが再び「緊急事態」に戻った場合、ほぼ全面運休に追い込まれる可能性があります。路線バスを本業とする事業者では、高速バスの乗務員も一時的に路線バスに乗務することで経営も雇用もなんとか維持できます。しかし、高速バス専業などの場合、全面運休は即、会社全体の休業を意味します。

 かといって、相当なプロフェッショナルである高速バス乗務員にいま退職されては、需要回復後の事業に影響します。

 春の「緊急事態」では、飲食業からスーパーマーケットへのように、仕事が減った業界から増えた業界に従業員を出向させる動きがありました。今のうちに、異業種、たとえば貨物運送事業者(トラック会社)との連携を準備することも考えられます。

「緊急事態」のあいだ、企業間の物流は需要が低迷した一方、宅配便の需要が2割ほど増加し、同分野の乗務員不足が伝えられました。平常時であれば、固有の業務知識を得る研修期間を考えると短期間の出向や副業は非合理的ですが、「一部運休」程度で済んでいるあいだに交代で研修するなど、あらかじめ準備を進めておけば、バス事業者やその乗務員、受け入れる側の宅配事業者の双方がメリットを受けられそうです。なお、副業容認や出向を行う際には、運転業務に特有の法令を確認のうえ、就業規則の改定などの準備も必要です。

乗り切ったあとに待ち受ける変化とは?

「緊急事態」では、ウェブ通販などの物流センターで働く従業員が増加するとともに、「密」防止のため乗車定員を絞ったことで、従業員送迎バスの運用台数も急増しました。しかし周囲の事業者が完全に休業しており、応援の要請を受けられない事態もありました。事前に調整することで、車両や乗務員を有効に活用することもできるでしょう。

 もちろん、本業である高速バスの需要回復に向けた活動も重要です。おもな感染経路が唾液の飛沫だと理解が進んだことで、車内で会話しながら食事したりしない限り、交通機関の車内空間そのものの感染リスクは小さいと考えられるようになりました。

 しかし、換気の重要性も伝えられているうえに、消費者の間では「バスや電車で感染するかもしれない」と危惧がなかなか消えません。そのようななか、約5分で車内の空気が入れ替わるという高速バス車両の換気性能を、実際に車内にスモークを充満させ換気して見せる動画を各社が公開し、大きな反響を得ています。個別の事業者単位ではなく、事業者団体などを通し業界横断的にマスメディアなどを通して情報を発信するのが、さらに有効だと考えられます。

 やがて感染が収束しワクチンが開発されるなどすれば、消費者心理は回復するでしょう。その時、高速バスの需要が完全に元に戻るとは限りません。高速バスは地方部で高いシェアを持ち、コンサートや有名店でのショッピングなど大都市での消費活動、出張、就職活動などに伴う移動を支えていますが、それらの形態が変化し、移動のニーズが減ることも考えられるからです。

 そもそも「コロナ」前から地方部では人口減少が進んでおり、需要減少が危惧されていました。輸送人員の減少を、単純な値上げやコスト削減による品質低下で補おうとすれば、乗客はさらに逸走します。繁閑に応じ、曜日別や時間帯別に運賃を変動させる「ダイナミック・プライシング」など、これまでバス業界の取り組みが遅れていた分野に、この時期だからこそ挑戦する機会だとも言えます。足元では「籠城」に徹し体力温存を図りつつ、感染収束後のニーズ変化に真摯に立ち向かい、柔軟に対応することが求められているのです。