「栄冠は君に輝く」「六甲おろし」など昭和の音楽史を代表する楽曲を生み出した作曲家・古関裕而と妻で声楽家の金子をモデルに、激動の昭和の時代を音楽とともに生きた夫婦の姿を描く連続テレビ小説「エール」。主演の窪田正孝は「ドラマの顔はふみちゃん」と、朝ドラ初出演で、自身が演じる古山裕一役の妻・関内音役の二階堂ふみを立てる。窪田が、二階堂と作り上げる“同業夫婦”について、また、作品に込めた思いや、撮影中のエピソードなどを語った。

−玉山鉄二さん主演の「マッサン」以来、6年ぶりに男性が主人公の朝ドラですが、意気込みをお聞かせください。

 僕は、このドラマの顔はふみちゃんだと思っているので、彼女が一番輝ける瞬間をたくさん作っていきたいです。なので「主役だから…」という気負いはありません。ただ、主演が決まったときは、家族や親戚が喜んでくれて、僕もワクワクしたので、家族はもちろん、視聴者の方にも楽しんでもらえるドラマを目指したいです。

−「ゲゲゲの女房」「花子とアン」に次ぐ朝ドラ出演ですが、久しぶりの現場はいかがですか。

 朝ドラは、基本的に月曜日から金曜日まではスタジオ撮影、土日は休みと決まっていて、会社員のような生活になりますが、僕としてはリズムが決まっている方が楽なので助かっています。現場は、皆さんが生き生きとして笑いが絶えず、音楽があるシーンではキャストはもちろん、カメラマンもカメラをのぞきながらリズムを取るほど一体感があります。

−裕一役にはどのようにアプローチしていきましたか。

 古関さんの関係者や知人の方に話を聞く機会がありましたが、誰も彼のことを悪く言う方はいませんでした。それが全てだと考え、役作りの肝にしました。無邪気で人を憎まず、もし怒る瞬間があっても、後に怒りを愛情に変えていく素晴らしい人格者だと思います。また、戦争を体験し、人の痛みを肌で感じとっていたからこそ、人に寄り添う音楽を作ることが古関さんにとっての一番の幸せになったのではないでしょうか。そんな音楽の力で人々を優しく包み込む姿を大切にしようと思いました。

−実在の人物がモデルの役を演じることのプレッシャーはありますか。

 古関さんの人柄や性格は大切にしていますが、あくまでもモデルなので、あまり情報を入れ過ぎないようにしています。古関さんには後ろから見守ってもらっている感覚です。

−音楽家ということで、練習はいろいろと大変だったのでは?

 9月にクランクインしましたが、その1カ月ほど前から、ハーモニカ、オルガン、指揮、楽譜の書き方などを練習しました。すごく大変で、自分がここに座っていると、各パートの先生が回転寿司のように回ってきて教えてくださる感じでした(笑)。撮影では吹き替えを使わず、自分で演奏したので緊張もしましたが、裕一の心情の変化によって音が変わるところは面白かったです。例えば、人生のどん底の中で吹くハーモニカは音が外れていたり、音になっていなかったり、苦しいときは指揮棒を振る力が強くなったりしました。監督からは「音楽として成立していないけど、気持ちが表れているからOK」と言っていただいたこともありました。

−好きなパートは何でしょうか。

 一番楽しくて好きなのは指揮です。プロの演奏家が僕の指揮に合わせて奏でてくれるから気持ちがいいです。実は、中学校の文化祭の合唱コンクールで指揮を務めたこともあるんです。じゃんけんで負けたからですが…(笑)。逆に、ハーモニカはすごく難しいです。

−窪田さんが「ドラマの顔」とおっしゃる二階堂さんや、彼女が演じる音にはどのような印象を持たれていますか。

 ふみちゃんはムード―メーカーで、現場にいると雰囲気が明るくなります。お芝居は事前に作りこみ過ぎず、そのときの感覚を大切にされているようです。それは他の共演者も同じで、ある程度の余白を持ち、相手の芝居に応じて臨機応変に動いているので、皆さん演じやすいんじゃないかな。音さんは裕一を進むべき道に導いてくれる、ものすごく強い奥さんですが、人前では一歩下がって夫を立ててくれる一面もあります。自分にうそをつけない真っすぐなところを、ふみちゃんが説得力を持って演じてくれているので、モデルとなった金子さんはこういう方だったんだろうなと素直に思えます。

−音楽の世界で共に生きる裕一と音の夫婦の形についてはどう思われますか。

 同業の夫婦は、仕事のことをいろいろ話し合ったり、理解し合えたりするところが強みだと思います。劇中、裕一が作曲中に煮詰まり、音に歌ってもらうことでヒントを得るシーンがあるのですが、同じ音楽の世界で生きているといっても、作曲家と声楽家でジャンルが違うので、お互いにないものを補い合い、2人で手をつないで、横並びに歩いている感じもすてきだと思いました。

−昨今はあまり聞きませんが、裕一と音のように手紙から始まる交流についてはどうでしょうか。

 とてもいいですよね。中学生の頃に文通していたことを思い出します(笑)。音さんからのラブレターには、ハートマークや音符マークを書かれてあったり、封筒のふちが赤く塗られていたり、おしゃれでかわいらしいんですよ。それに昔の文体だから、一見すると硬い文章ですが、よく読むと結構いちゃいちゃした内容で、ちょっと照れくさくなります。

−父・三郎役の唐沢寿明さんとの共演には、お互いに思い入れがあるようですね。唐沢さんはオファーを受けた理由の一つに「窪田くんが主演だったから」とおっしゃっていました。

 そんなふうに言っていただけるなんて感謝しかありません。唐沢さんは、常にキャスト・スタッフ全員が楽しんで現場にいられるように心掛けていらっしゃって、素晴らしいお人柄だと尊敬しています。ドラマ「THE LAST COP/ラストコップ」では義理の親子役を演じさせていただきましたが、今回は本当の親子になれて、新しい境地に行けた気がします(笑)。

−新境地での朝ドラ経験を通して、役者としてどのような成長・変化を期待しますか。

 大河ドラマ「平清盛」で平重盛役を演じたとき、撮影は1年もありませんでしたが、それでも普通のドラマよりは長いスパンで役の人生を送ることで、カメラ前に立てば自然に役に入れるようになりました。時間をかけるとそれだけのことができるようになるので、1年を通して役を掘り下げることができる朝ドラの撮影が終わった頃には、どう変化しているかは分かりませんが、達成感に満ちあふれていると思います。

(取材・文/錦怜那)