5万人以上の生徒数を誇る早稲田大学を擁し、長年、学生と共存して発展してきた早稲田の街。そんな日本一の学生街の飲食店が今、ピンチを迎えている。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、早稲田大学が今学期の授業をすべてオンラインに変更したことにより、学生の来店数が激減することとなったのだ。閉店や倒産も危ぶまれる状況の中、お世話になった早稲田の飲食店を応援するため、学生によるプロジェクト「未来ワセメシPay」が立ち上がった。発起人である早稲田大学教育学部4年の二村祐介さんと、早大生に愛され続けている油そば店「武蔵野アブラ學会早稲田総本店」のオーナー・角幡さんに話を聞いた。

■売り上げは半分以下に……。早稲田の飲食店「ワセメシ」の厳しい状況
新型コロナウイルス感染拡大による影響は、実際にはどの程度生じていたのか。各地で店舗・施設のクローズや倒産が相次ぐ中、早大生から親しみを込めて「ワセメシ」と呼ばれる早稲田の飲食店の中にも閉店する店舗が現れ、「武蔵野アブラ學会早稲田総本店」でも一時期、売り上げが例年の半分から7割以上減ったそう。そしてその前途は依然不明瞭だ。

「確かにオフィス街での売り上げは回復しつつあるんですが、『武蔵野アブラ學会早稲田総本店』はやっぱり学生さんがお客さんの中心になっているので……。大学が閉まっている以上は難しいです」

そう語る角幡さんの声は渋い。緊急事態宣言の解除に伴い、オフィス街にかまえる店舗では来客数の回復が見込めてはいるが、学生街である早稲田店では大学が始まらない以上、売り上げの大幅な回復は期待できない。学生とともに歩んできた店だからこその窮地に立たされていた。

早稲田大学の学生であり、早稲田の街で一人暮らしをしている二村さんは、緊急事態宣言に伴う自粛ムードの中で、慣れ親しんだ早稲田の飲食店が危機に瀕していることを強く感じていたようだ。そこで、お世話になっている早稲田の飲食店を守るため、何かできることはないかを考えたという。

■未来の食事の約束で今を救う「未来ワセメシPay」とは?
二村さんは、4月に「早大生がワセメシを救おう!」と題したアカウントをTwitter上に開設。大学OBOGといった人々への拡散を呼びかけながら、早稲田の飲食店をサポートできるような企画を準備中であると発表していた。

そんな中で生まれたのが「未来ワセメシPay」だ。「未来ワセメシPay」とは、LINE Payを利用した食券の事前販売を行うことで、大学の授業再開までの期間をしのごうというプロジェクト。客足が大幅に減った店舗に重い負担としてのしかかる、賃貸費用などの維持費の支払いを少しでも支えられればと考えた。


「実は、この『未来ワセメシPay』自体は私から言い出したものではないんですね」と二村さん。「私が何かできることはないか、そう考えて各店舗を回ったところ、飲食店さん側からこのアイデアを出してもらったんです」

相談を受けた飲食店側も、学生が考えてくれたことをしっかりと受け止めたいという思いから、この提案に乗ったという。そうして生まれたのが、学生と早稲田の飲食店が共同で作り出した「未来ワセメシPay」だ。応援する店舗のLINEを友達登録して、トーク画面で注文をするだけの非常に簡単なシステムで、事前にLINE Payに登録していれば、約1〜2分程度で注文を終えることができる。

「早大生がワセメシを救おう!」のアカウントは数日でフォロワーが1000人を突破(※2020年6月29日現在は2000人超)。「未来ワセメシPay」はLINE Pay公式アカウントで取り上げられたほか、参加した各店舗のアカウントでも積極的な広報が行われた。反響もあり、現役の学生はもちろん、OBOGと思われる人々からのリプライも相次いだ。しかし、結果的にはその影響は大きくはなかったという。
 
「1週間でしたね」
  
「未来ワセメシPay」への反響は1週間でおおむね止まってしまったと角幡さんは語る。二村さん自身も「未来ワセメシPay」が金銭面で大きな貢献を果たしているわけではないということが分かったという。次回来店に備えた前払いという性質上、来店の機会がないまま継続的な収益を得ることは難しい。また、万が一の場合に企画者が学生では責任を取りにくいという部分に非難もあり、規模の大幅な拡大は難しいのが現状だ。

さらに、早稲田の昔からの飲食店では高齢化が進んでおり、電子マネーを利用した企画の導入にはハードルもある。「未来ワセメシPay」はこのまま一過性のもので終わってしまうのだろうか。

■学生と飲食店。両者が考えるワセメシのこれからの行方
一時的なブームで終わってしまったようにも見える「未来ワセメシPay」。ただ、その活動自体が意味の薄いものであったのかというと、そうではないようだ。

「Twitter上などで、OBやOGの方から買ったよと言う報告があり、食べには行けないけれど買ったという方もいる」そう話すのは二村さん。角幡さんも「都内に来ることは難しいが心意気で買ったという方が多くいらっしゃり、気にかけていただいていることを実感している」と語っていた。

「精神的な支えになれていればうれしい。金銭面以外にも支えになれることはあると気づいた」(二村さん)
「コメントや声を寄せてくれることがお店としては大きい。一飲食店に思い入れを持ってもらえることがうれしい」(角幡さん)

二村さん角幡さん両者から聞けたこの言葉。こういった時期だからこそ、一人ひとりからの応援が温かく感じられる。また、今後は、デリバリーや通販といった各店舗が独自に行なっている取り組みをまとめたり、LINE Payを他の形で利用できないか模索したりするなど、これまでの試みをいかした新たな案も生まれてきている。直接目には見えない形で、「未来ワセメシPay」は大きな影響を与えたのかもしれない。

早稲田大学は現在、春学期中のオンライン授業継続を発表している。秋学期以降は未定だが、万が一秋学期のオンライン授業が決定すれば、多くの飲食店が非常に厳しい状況に立たされるだろう。そんな中でも角幡さんは次のように話す。

「人の動きが生まれはじめれば、お店にも自然と人が来てくれるようになる。嘆いていてもしょうがない。1日1日をともに大切に生きていきたい」

早稲田の学生と飲食店が共同で開発した「未来ワセメシPay」。それはこれからの早稲田の街に新たな影響を与える一歩のようにも思える。また、「未来ワセメシPay」のサービスは現在も実施中だ。早稲田の飲食店を応援したいという方は、ぜひ参加してみてほしい。