演劇ライター・はーこが不定期で配信するWEB連載「はーこのSTAGEプラス」Vol.81をお届け!

鴻上尚史作・演出の名作『ハルシオン・デイズ』が、2011年のロンドン公演を経て2020年版として新たに再演。11月23日まで東京・紀伊國屋ホールで上演し、2020年12月5日(土)・6日(日)に大阪へやってくる。「今やるべき作品になったなと思っています」と鴻上。

2004年の『ハルシオン・デイズ〜もうひとつのトランス〜』は自殺系サイトで出会った4人の物語だった。今回の『ハルシオン・デイズ2020』は、ツイッターの“♯自殺”で出会った4人の物語。初演はイラク戦争について自分が“人間の盾”だと思い込んでいる男の話だったが、今回は自粛警察と戦うという妄想を持つ男の話に。

少人数の作品『ハルシオン・デイズ』を新たに生まれ変わらせ、公演中止となった鴻上演出のミュージカル『スクール・オブ・ロック』の出演者だった柿澤勇人との縁をつなぎ直した本作。鴻上にとっての再演とは、「構造は同じだが中身が全く違う“新作的再演”」だ。キャスティングや届けたいテーマなど作品について、またコロナ禍での苦労、そして好評を得た東京公演から大阪公演に臨む鴻上の意気込みをリモート取材した。

■作品への想い
「大変な演劇界にあって、絶対に元気が出る話をやりたいと思いました。単純な夢物語ではなく、現実に根差した上で、それに対してどうしようと考える方が元気が出る。2020年版で一番大きいものはコロナ、そして自粛警察。コロナにかかることよりもコロナにかかったと後ろ指を指されることの方が怖いという現状をどう考えようか、と。しんどい今の時代に自殺を扱うからこそ、『死ぬな。死んじゃダメなんだ。生きよう』というメッセージが伝わる作品を上演したいと強く思いました。

僕の芝居にはいつも笑いがあり、笑いの中にちゃんと真実を伝えていく。大阪に行く時は、もっともっと笑えるようになってると思います」 

■キャスティングと役柄について
「今回は個性豊かな4人のメンバーが集まることができて、とてもよかったと思っています。カッキー(柿澤)とカズさん(石井)がいるので歌とダンスも入れました。4人ともふたクセぐらいあるキャラクター設定なので、それぞれの魅力を全開してもらえれば」

柿澤勇人:ある事情から自殺しようとしている青年
「身体能力が高く、演技に対してすごく真面目。その真面目な部分が、自粛警察に向き合おうと苦悩するキャラクターに合うと思ってお願いしました。ここしばらく振り切ったような役が多かったと本人が言ってましたけど、今回はそうではなくて悩んでいる普通の青年。いわゆるド正面の青年を演じているので、ファンの方には観たい彼がそこにいるという感じがあると思います」

南沢奈央:『私も一緒に死のうと思ってる』と言いながら、自殺を止めようと思っているスクールカウンセラー
「非常にインテリな女性で役に合う感じがします。『サバイバーズ・ギルト・アンド・シェイム』(東京公演のみ)という芝居で1回ご一緒した時から4年経って、実にうまくなっています。コメディエンヌと呼べる女優さんになって、とてもいいなと」

石井一孝:本当は死にたくないけれど、借金まみれで死ぬしかないと思っている人
「死にたくないっていうジタバタがエネルギーの湧きどころで、それがすごくおもしろい。ミュージカル界の大御所で、エネルギーと声のデカさと汗の量がすごい人!」

須藤蓮:カウンセラーの失敗で自殺してしまった高校生
「オーディションで選んだ慶応の大学生です。初演ではこの役を22歳だった高橋一生がやったんだよと話をしたら、本人的には大変なプレッシャーのようです(笑)」

■物語の設定について
「人と会う時はマスクをして…って、設定はまさに今です。ただ、劇場で“コロナ”という単語を聞くのはヤダなと思い、伝染病という意味で“パンデ”という名前に。ただ作家でスケベ心があり、“パンデ”にしておくと次の感染症が出てまたマスクしなきゃいけないみたいなことになった時にも使えてこの作品ができるぞって(笑)」

■執筆過程の苦労
「この作品は、『スクール・オブ・ロック』が中止と決まって時間ができた7月、8月に書きました。僕の芝居はどの作品も、劇場に来る時よりも帰る時に元気になってもらいたいと思っているので、このコロナ禍に夢物語ではないちゃんとした希望をどう語るのか、ということにけっこう苦労しました。“頑張ろう”とか“くじけないでいこう”って単に気持ちだけ言ってもしょうがないので。これならなんとか希望として受け取ってもらえるかな、というのを探そうとする執筆の過程はなかなかハードでしたね」

■東京公演の反応
「東京公演では『今の時代だからこそできる芝居』『今の時代に観れてよかった』『生きて行こうという気持ちになった』という感想が。劇場で見ていると、皆さんわりといい顔で劇場を出られているので、それはすごく良かったなと思っています」

■感染症対策と配信
「僕の40年以上のキャリアの中で、これだけ空いている客席を見るのは初めてです。PCR検査に体温の計測、小道具や床も毎回消毒して換気も1時間に1回、ちゃんと全部やって、劇場でも毎回万全の感染症対策で行おうとしているのですが…。劇場に来ていただけることが一番うれしいけど、いろんな事情で来られない方は配信で楽しんでいただければ」

■自粛時期中は?
「4月から5月にかけて『自粛要請と休業補償はセットだ』って言った時に、こんなにも演劇界がバッシングされるとは夢にも思わなかった。特に僕とか何人かですけど『お前ら好きなことやって何言ってんだよ』とか『普段偉そうなこと言ってても結局お前ら金か』とか、ツイッターなどで山ほど言われてね。演劇なんてなくていいんじゃんって思ってる人がすごく多いんだなと思った。その時に、演劇は不要不急なものだけど、だからこそかけがえがないものだと思ってくれる人たちを1人でもたくさん増やしていくことが演劇を作り続けることの意味だなと、改めて考えましたね。それはすごく大きかった。僕自身4月・5月は完全に心が折れて、ネットを見るたびにどうしようかと思ったけど、今は演劇を作る意味を見出せるようになったので、心折れた経験も結果としては良かったかなと思ってます」

■どうやって立ち直った?
「やがて秋には芝居をするぞっていうのが、ひとつの希望になりました。『スクール・オブ・ロック』と、稽古が佳境にあった虚構の劇団の公演がいくつか中止になり、その後もほんとに秋もできるのか?と。しばらく心が折れ続けていたけれど、ようやく秋にはやりたい、秋やろう!って思えるようになった。それまでは公園に行っていろんな本をずうっと読んでいましたね」

■【そして今後は?】
「やっぱり希望を語るのが僕の仕事だろうなと思いました。どんな状況であろうが、希望を語る。今のような状況で絶望を語るんじゃなくて、希望を語ることが表現者の鴻上の仕事なんだっていうことを、改めて腹くくったっていうのが一番大きいですね。で、やっぱりオレの仕事は作家だからと思って『演劇入門』という本を書き上げました。来年発売になりますけど、これ、自分で言うのもなんですけど、いい本です(笑)」

■1年ぶりの大阪公演に向けて
「大阪公演まであと2回PCR検査を受けないといけない。でも、この時代に旅に行くことはひとつの決断なので、大阪まで行けて公演できることを本当にうれしく思っています。僕は相変わらずロビーにおります。握手はできませんが、もしできれば1年ぶりに劇場で大阪のお客さんと会えればうれしいです。

プロの演出家になってから千秋楽で泣くなんてこと1回もないんですが、今回だけは大阪で千秋楽を終えられたらちょっと泣いてしまうかもしれない。今、ほんとに1日1日公演できていることが奇跡のようで。知り合いのカンパニーから続々と誰かが陽性だったとか連絡が来るので、本当に続けられるのだろうかと毎日毎日噛みしめながらやっています」

■STAGE チケット発売中

KOKAMI@network Vol.18「ハルシオン・デイズ2020」

日時:12/5(土)13:00・18:00、6(日)13:00
会場:サンケイホールブリーゼ
作・演出:鴻上尚史
出演:柿澤勇人 南沢奈央 須藤蓮 石井一孝
料金:8900円 ブリーゼシート6500円 U-25チケット4500円
問:サンライズプロモーション東京
電話:0570-00-3337
http://www.thirdstage.com/knet/halcyondays2020/

取材・文=演劇ライター・はーこ

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