全国のおでかけ施設が三密対策を取りながら営業を再開する中、7月16日にリニューアルオープンした京都水族館では、2メートルという間隔を表すため「オオサンショウウオ1.6頭分」と書かれたシートを館内に掲示中だ。基準とするには中途半端なサイズだが、実はオオサンショウウオは同館イチオシ生物の1つ。「京都市内女子高生の間で大ブームになる」ことを目標にスタッフがオオサンショウウオポーチを着用したり、クリスマスには「オオサンショウウオツリー」を作ったりと、一年中オオサンショウウオを推し続けているのだ。ペンギンやイルカといった定番人気の生き物もいる中で、同館でこれほどまでにオオサンショウウオをプッシュする理由を聞いた。

■“わかりにくい”でも“らしい”いきものディスタンス
感染拡大を防ぐため提唱されている一般的なソーシャルディスタンスの間隔は約2メートル。各施設がさまざまな工夫でソーシャルディスタンスの確保に取り組む中、6月15日から営業を再開した京都水族館では同館で暮らす生き物の大きさで距離を表現する「いきものディスタンス」を実施中だ。ハンドウイルカやケープペンギンといった人気の高い生き物と並んでオオサンショウウオのパネルも制作されたが、体長約1.2メートルのオオサンショウウオの場合は1.6頭分と、直感的にはピンとこない微妙な数字。にもかかわらず、なぜオオサンショウウオをソーシャルディスタンスの基準に選んだのだろうか。

「ソーシャルディスタンスをわかりやすくお伝えできる大きさの生き物であることと、サインの設置場所の近くに展示されている生き物の中から選んでおります。なかでもオオサンショウウオはかわいらしい足型をしており、当館でも普段より多くのお客さまから人気を集めているのも起用の理由となりました」(京都水族館広報・前田さん)

このほか、レジカウンター前の列の間隔を保つために設置されたパネルシートにもオオサンショウウオの足型をデザイン。京都水族館のオオサンショウウオ推しぶりがうかがえる。

■「スタッフ着用」で人気殺到のキモカワポーチ、「お客様とのコミュニケーションのきっかけにも」

オオサンショウウオに魅力を知ってもらおうという取り組みはSNS上でも展開。今年2月に投稿したオオサンショウウオポーチの紹介ツイートは「かわいい!」「ほしいです」と約4.8万いいねを集める大反響。「女子高生の間で大ブームになる」目標を掲げた張り紙の写真も「野望が明確」と話題となった。

オオサンショウウオの口の部分がファスナーとなったこのポーチは、お土産として販売されるだけでなく、2019年の夏ごろからスタッフにポーチを支給し業務中にほとんどのスタッフが着用。身に付けて館内を歩くことで、来館者から「どこで売っていますか?」「欲しいです!」と声をかけられることが増え、着用するスタッフからも「実用的」「お客さまとのコミュニケーションのきっかけにもなる」と好評で、同館でのオオサンショウウオの存在感の大きさが分かる。

ちなみに「女子高生の間で大ブームになる」という目標は、スタッフ全員に浸透させるために、分かりやすく楽しく感じてもらえるよう設定したとのこと。「京都市内の女子高生に限らず、たくさんの方に大切に使っていただきたい」と、老若男女問わず誰でもポーチをつけられる太鼓判をいただいた。

■オオサンショウウオツリーにコラボタクシー、水族館のハンパない推し方


ポーチ着用だけでもアピール力抜群のオオサンショウウオだが、京都水族館の推し方はこれだけにとどまらない。館内にはオオサンショウウオ型のベンチが設置されているほか、オオサンショウウオぬいぐるみがびっしりと張り付いた柱も。また、同館のグッズ一番人気のオオサンショウウオぬいぐるみは5サイズあり、超特大サイズはなんと170cm。大きいサイズのぬいぐるみをショップで購入するとスタッフ全員から「お買い上げコール」が上がることでも話題となった。


さらに、クリスマスシーズンになるとぬいぐるみ約100体を使用した「オオサンショウウオツリー」を毎年展示したり、タクシーの助手席に170cmの超特大オオサンショウウオぬいぐるみを乗せて走るコラボ企画を実施したりしていた(現在は終了)。姉妹館であるすみだ水族館の年間パスポートは毎年描かれる生物が変わるのに対し、京都水族館では毎年オオサンショウウオだ。

極めつけは、9月9日の「オオサンショウウオの日」。9月が繁殖シーズンであることと姿が9に似ている(?)という理由で記念日に認定されており、これを申請したのも京都水族館なのだ。企画の多さとユニークさから、オオサンショウウオに対する愛の深さがうかがえる。

■つぶらな瞳に可愛らしい手、ペンギンにも負けない人気者に


京都水族館ではイルカやペンギン、ゴマフアザラシといった目玉となる生き物が飼育されているにもかかわらず、オオサンショウウオは同館屈指の人気生物だ。なぜこれほどまでにオオサンショウウオが来館者を惹きつけるのだろうか。

広報担当者も「いつごろから人気なのか、明確には分かりません」としながらも「つぶらな瞳、可愛らしい手、普段じっとしていますが、たまに呼吸をするために水面から鼻先を少し出す姿などと魅力はたくさんあります」と推しポイントを挙げてくれた。そうした特徴から、グッズ化したときにイラストでもぬいぐるみのような立体でもかわいく仕上がるのも強みと言えそうだ。

それに加えて、両生類の中では世界最大、国の特別天然記念物、約3000万年前から生息といったスケールの大きい肩書きも持っていることから、その興味深い生態にどっぷりはまってしまう来館者も多いようだ。


■オオサンショウウオは“地元のスター”「見た目だけでなく生態も」

もちろん、京都水族館がオオサンショウウオ推しを貫くのは、かわいさや人気だけが理由ではない。西日本の清流に生息するオオサンショウウオ。京都市内を流れる鴨川にも暮らしていて、地元の人々にとっては実は身近な生き物だが、「京都の鴨川に棲んでいることや、詳しい生態を知っている人はまだまだ少ないかと思います」と広報担当者は話す。


「オオサンショウウオを知っていただくため、このような物販商品やイベントなど、さまざまな切り口で発信させていただいております。当館の展示を通じてオオサンショウウオについて楽しみながら知っていただくことで、オオサンショウウオの生態にも興味を持つきっかけとなれば」

鴨川や上桂川で発見されるオオサンショウウオの中には、外来種のチュウゴクオオサンショウウオとの交雑種が発見され、在来種が減少しているという問題も抱えている。そのため同館では、オオサンショウウオだけでなく、外来種や在来種の展示も行っているほか、昭和の怪獣図鑑のような図解パネルで楽しく解説する取り組みも行っている。オオサンショウウオ推しの裏には、地元の知られざるスター生物を発信すると同時に、その生態も知ってもらいたいという、水族館側の真摯な狙いがあるのだ。


担当者は「オオサンショウウオの見た目以外にもその生態を知っていただき、少しでも興味を持っていただけるよう、引き続き展示を通じてお伝えできれば」と、今後もオオサンショウウオの魅力を伝え続けると話す。

地元・京都で愛されるオオサンショウウオ。京都水族館では7月に西日本最多となる約20種5000匹のクラゲを展示する新エリア「クラゲワンダー」をオープンしたが、オオサンショウウオの人気は衰えない。京都に出かけたときは、のほほんとした見た目に隠された奥深い魅力をぜひその目で確かめてみてほしい。