“ゲテモノ”や郷土料理のイメージが強い昆虫食に今、注目が集まっている。今年5月に無印良品が発売した「コオロギせんべい」が常時品薄のヒット商品となったのをはじめ、6月には「コオロギラーメン」など、昆虫食料理を提供するレストランが東京にオープン。日経トレンディの「2021年ヒット予測」でコオロギフードがノミネートされ、11月には東京駅構内で昆虫食をテーマにした「虫グルメフェス」が開催され、愛好家以外の層にもグルメとしての昆虫が広まりつつあるのだ。こうした昆虫グルメへの関心の背景や、トレンド化の理由はどこにあるのか。

■未来の食糧危機を解決する?食材としての昆虫が世界で注目
今、昆虫を日本のスーパーやコンビニの店頭に並ぶ食材として見かけることはほとんどない。いなごの佃煮や蜂の子が郷土料理や珍味として取り扱われているが、市販されている主な昆虫は“4種類”に留まっている。だが、かつては日本でも大正時代には55種の昆虫が食べられており、現在も世界では1400種もの昆虫が食材として利用されている“ポピュラー”な食べ物だ。

こうした昆虫食は近年、人口増加による食糧危機を解決する可能性を持つ食材として注目を集めている。2013年にFAO(国際連合食糧農業機関)が、昆虫が高たんぱく高ミネラルで栄養価の高い食材となりうること、また家畜への飼料としても活用できる可能性がある、と報告を発表。牛などの家畜に比べて狭い飼育面積と少量の水で飼育できることから、自然への負荷が小さい“サスティナブル”な食材としても注目されている。2017年にフィンランドで昆虫が食品として認可され、2019年には昆虫食を扱う企業は世界中で270社にのぼるなど、ヨーロッパを中心に食用昆虫市場の広まりがはじまっているのだ。

■無印の「コオロギせんべい」がヒット、昆虫食レストランも登場
その波は日本にも訪れている。それを象徴するのが、無印良品が5月に発売した「コオロギせんべい」だ。将来の食糧危機を見据えた“地球にやさしい未来食”として、徳島大学と連携して開発したコオロギ粉末入りのせんべい。SNSでも話題を呼び、発売後は即完売。当初はネットストア限定だったが、人気を受け一部の実店舗でも取り扱いを開始し、発売開始から約半年経った11月現在も1人3点までの購入制限が設けられているほどの人気ぶりだ。

また、6月に東京・日本橋馬喰町にオープンしたレストラン「アントシカダ」では、コオロギから出汁を取った「コオロギラーメン」をはじめ、食材に昆虫やジビエなどを使ったコース料理を提供。「ラーメン凪」との共同開発で生まれた「コオロギラーメン」は、長澤まさみや指原莉乃といったタレントも絶賛するなど“おいしいラーメン”として評価され人気だ。

とは言え、無印良品がコオロギせんべいの商品紹介に「まだ抵抗感をもつ人も多い食材」と記すように、昆虫食に対しネガティブなイメージが払拭されているとは言い難い。にもかかわらず、なぜこうした昆虫グルメはヒットを飛ばしているのか。昆虫料理研究家の内山昭一さんは、「ゲテモノとは違う部分が注目されはじめたこと」を理由に挙げる。

「たとえば昆虫食のイベントに訪れるのは、今まで食べたことがないものを食べてみたいという好奇心がある層が圧倒的多数。最近は、メディアで昆虫の栄養価やおいしさなどが紹介されていることで、単なる好奇心じゃなく、トレンドとしての興味を持って『じゃあちょっと食べてみようか』と試してくれる。そうして食べた人たちがSNSなどで拡散することで、興味を持つ人が増えていきつつある状態だと思います」(内山さん)

■東京駅で「虫グルメフェス」開催
昆虫食の魅力やトレンドを多くの人に発信しようという試みもはじまっている。11月26日から29日までの計4日間、JR東京駅構内で開催された「虫グルメフェス Vol.0」は、多様な昆虫食を一度に楽しむことができるイベントだ。イベントスペースには昆虫料理を提供している「鳥獣虫居酒屋 米とサーカス」や「昆虫食 TAKEO」、昆虫食材を扱う「はまる食品」など5店舗が出店。いきなり専門店に入るのはハードルが高いという人でも気軽に昆虫食を体験することができた。

出品されていたメニューには「スズメバチ飴」や「サゴワームとオオスズメバチ幼虫のバターソテー」といった昆虫の形を残したままの料理もあるものの、コオロギパウダー入りのおしるこや材料の一部にコオロギを使用したハンバーグの食べ比べセットのように、一見すると昆虫が使われているとは分からないものも多い。また、タガメエキスを使った瓶入りの「タガメサイダー」など、既に通販や店頭で市販されている加工品もあった。

日本有数のターミナル駅内での開催ということもあり、コロナ禍とは言え初日のオープン時から興味深そうにイベントスペースを覗く駅利用者の姿も少なくなかった。“ Vol.0”と銘打つように、同イベントは既に2021年に次回開催を予定しているという。

■課題は「見た目の抵抗感」、加工品が間口を広げる鍵に
こうした流れもあり、日経トレンディの「2021年ヒット予測」5位にコオロギフードがランクインするなど、一般層にも徐々に受け入れられるケースが増えてきた昆虫食。内山さんもイベント開催やコオロギグルメの人気を見て「今年はコロナ禍でなければ、昆虫食の盛り上がりはさらに飛躍的に伸びたと思う」と感触を語る。

一方で、昆虫特有の見た目に対する抵抗感は大きな課題として残っている。昆虫食が今後日本で普及するための鍵となるのは、パウダーやダシ、エキスといった目に見えない形で昆虫を食材として取り入れた食品がどれだけ間口を広げられるかだ。「昆虫の形が気持ち悪いという拒否感はまだ圧倒的に強い。それをどう克服するかが大きいので、まずはその形をなくした食品を入り口に、昆虫がシンプルにおいしいということを知ってもらうのが大切だと思います」(内山さん)

ゲテモノや代替食といった消極的なニュアンスで取り上げられがちだった昆虫食は今、数ある食材のうちの1つとして受け入れられる“分水嶺”に近づきつつあるのかもしれない。