【試乗】ニュル最速を達成したルノー・メガーヌR.S.トロフィーRからひしひしと伝わる本気っぷり

ベースのトロフィーがもつ性能はすべてニュル攻略を見据えたもの

「7分40秒1」

 こんな激辛タイムに誘われて筑波サーキットに挑んだのが昨年の暮れのことだ。

「メガーヌR.S.トロフィー」があの過激なニュルブルクリンクで、FFモデルとして最速タイムを叩き出したことに触発され、それでは日本のタイムアタックの尺度のひとつとされる筑波サーキットで走り味を試そうとなったのである。

 そこでのインプレッションはすでに報告済だ。ボディ剛性は鍛えあげられ、エンジンパワーは大容量ターボチャージャーに依存した特性であり、低速域のレスポンス遅れを覚悟しつつも、パワーバンドの爆発的なトルクを優先した仕様だったのは、ニュルブルクリンクの長いストレートで遅れないための策だろうし、あの急勾配の上りを駆け上がるには圧倒的なターボトルクが欠かせなかったのだろう。

 FF最速を競う最大のライバルであるホンダ・シビック・タイプRは2リッターだから、1.8リッターのメガーヌR.S.トロフィーは劣勢だ。それを強引なブーストアップで迎撃する腹積もりなのは明らかだ。

 コーナリング特性は刺激的で、フロントの切れ味をとことん鋭くさせているだけでは飽き足らず、リヤステアを併用することで、旋回性と安定性を両立させていたのである。鋭くエイペックスを突き刺すけれど、テールハッピーではないという絶妙なバランスに仕上げているのだ。

 ニュルブルクリンクはじつは、アンターステアとの相性が悪いのである。高速コーナーが多いからと安定傾向にセットしたがるのだが、タイムを稼ぐためにはオーバーステアの方が都合がいい。それを知り抜いた仕様だと思えた。

 それがFF最速記録のための公式である。現実的にはもうシビックタイプRは販売を一旦終了しているから、現状敵はいない。敵はしっぽを巻いて退散したのであり、もう土俵上にはいない。ひとり横綱の地位を確立したのに、それでも手を緩めないのがルノーの真骨頂である。

トロフィーに与えられた最大の武器を捨ててまでFF最速を狙った

 そもそも「7分40秒1」の記録を叩き出したのが「メガーヌR.S.トロフィー」だったというのは誤った情報だった。世界記録を更新したのはじつは「メガーヌR.S.トロフィーR」。そう、最後に刺激的なアルファベットが加わった。「R」の文字を纏った「メガーヌR.S.トロフィーR」が正真正銘のFF最速モデルで駄目押しする算段なのである。

 そして「メガーヌR.S.トロフィーR」の速さのカラクリを耳にして腰を抜かしかけた。そんな乱暴な仕様がタイム更新に効果的だとは到底信じることのできない仕様なのである。

 まず第一に、2ペダルマニュアルミッションから3ペダル6速マニュアルに変更されている。床からシフトレバーがにょっきりと生えている。右足首を器用に捻りながらのヒール&トーを駆使しつつ、シフトレバーをコキコキやりながらのアタックを強いるのである。もはや昭和のテクニックであるし、それを巧みに扱える若手アタッカーがいるとは思えなかった。

 さらには、リヤステアが封印されている。旋回性を際立たせ、それでいてスピンモーメントを回避する特性は、ニュルブルクリンクでの限界アタックをサポートしたはずだ。だがそれをも嫌ったのだ。

 なぜ……?

 タイムロスを覚悟で6速ミッションに変更し、リヤステアを省略した理由をすぐに理解することはできない。じつはそれらはすべて軽量化のためだという。シンプルな6速マニュアルに変更したのも、2ペダルユニットの重量を気にしたからであると言う。リヤステアを封印したのも、アクチュエーターやポンプを取り去りたかったからなのだ。1グラムでも軽くすることがルノー流の挑み方なのだ。

 さらには、上級グレードにはカーボンホイールを組み込んでいる。ブレーキもカーボンだ。ボンネットもカーボンである。

 最大の驚きは、リヤシートすら取払い、だったら後席に乗員が乗れないことをいいことに、リヤの窓ガラスははめ殺しだという。ガラスの肉厚も削いでいる。それによって法定乗車人数は2名になった。4ドアハッチバックなのに2名である。狂気である。

 こんなアプローチの方法もあるのかとあらためて感心した。今でもニュルブルクリンクに挑み続けている僕でも、目から鱗の仕様なのである。

 それにしても驚きは、そこまでしてでもFF最速記録を更新したかったというメーカーの姿勢である。その熱さに感動すら覚える。あらためてルノーのすごさを思い知らされたようなきがする。