2400万円の「NSX」にバカ売れ「ライズ」の廉価グレード! 安全装備が不十分な「悩ましい」事情とは

トヨタ・ライズはエントリーグレードのみスマアシを未装備

 今や、軽自動車を始め、安価なコンパクトカーにも先進安全装備が搭載されている。たとえば、世界で初めてミリ波レーダーを用いた衝突軽減ブレーキを実用化したホンダのN-BOXやN-WGNでは、全車に安全運転支援システムのHondaSENSINGが標準装備されている。意外にも、日本の軽自動車は、ダイハツのスマートアシストに代表される安全運転支援システムをいち早く採用していた経緯がある。当然、車両価格に跳ね返るが、それよりもユーザーや歩行者の安全を優先した英断である。

 ところが、2021年11月から国産全新型車に自動ブレーキが義務付けされることになっているものの、最新の新型車でも自動ブレーキを含む先進安全運転支援システムが未搭載のクルマがある。一例を挙げれば、2019年11月に発売された、トヨタ・ライズだ。ダイハツのロッキーと兄弟車なのだが、ロッキーが先進安全運転支援システムのスマアシを全グレードに標準装備するのに対して、ライズはエントリーモデル、167.9万円のXグレードのみスマアシを未装備(注文装備も不可)としている。この時代にあり得ないと思われてもしょうがない設定だ。

 ただ、先進安全運転支援システム=先進のトヨタ・セーフティセンスを売りにしているトヨタとしては、積極的に売るグレードとは考えていないはずだ。ではなぜ、そんな、意地悪く突っ込まれてもしょうがないグレードを用意したのか。また、ダイハツ側はなぜ、それに合わせず、全車標準装備としたのか。それには、それぞれの自動車メーカーの事情がある。

低すぎて安全装備が付けられないスポーツモデルも

 軽自動車が主力のダイハツにとってロッキーは、ビーゴ以来の久しぶりの普通車、クロスオーバーSUVであり、ダウンサイザー、ダイハツ軽などの下からのアップサイザーを狙う超重要車種でもある。ゆえに、ライズとグレード同士を並べると、ライズにない、プレミアムという最上級グレードを用意している。一番下のグレードのLでも、ライズの下から2番目のX “S”グレードに相当し、ズバリ、ライズより頭ひとつ、高級!? 路線なのである。

 一方、RAV4やハリアー、C-HRなどの人気SUV、クロスオーバーSUVを多種揃えるトヨタとしては、ライズを買いやすいエントリーSUVとして独自性を持たせ、「トヨタのSUVなのにこんなに安いの」と感じさせる必要がある。それで意図的に設定したのが、スマアシなしの自動ブレーキさえ付かない(OPでも選べない)167.9万円のXグレードだと思われる。実際にユーザーの手に届くのは174.5万円のXグレード以上のはずだが、販売戦略上、そういうことなのである。Xはセールスも薦めないだろうし、手を出すべきではないグレードだ。

 ところで、軽自動車からHonda SENSINGを標準装備しているホンダの最高額車、スーパースポーツ、2420万円のNSXには、Honda SENSINGといった先進安全装備は未装備だ。「そんなに高価な高級車なのに、なぜ」と思うだろう。それには、付けたくても付けられない技術的な理由がある。全高1215mmの低全高ゆえ、自動ブレーキなどに必要なカメラやレーダーが、フロントウインドウ上部に付けても、低すぎて機能を発揮できないからだというのだ(発売当時の開発陣へのインタビューによる)。ルーフに角をはやしてカメラやレーダーを無理やり取り付ける方法もありそうだが、そんな不格好なスーパーカーなど、誰も欲しくないはずだ。

 もちろん、自動車メーカーが先進安全装備を用意する以前に発売され、今でも継続生産されているクルマでは、先進安全装備が付いていないケースもごく稀にある(2010年発売、タイ生産の日産マーチなど)。後付けできる踏み間違い防止機能などと違い、先進安全装備の基本ともいえる自動ブレーキは、マイナーチェンジなどで簡単に追加できるような装備、機能ではないからだ。

 これから新車(中古車も)を購入する際は、2021年の自動ブレーキ義務化を踏まえ、自動ブレーキはもちろん、日々、進化している先進安全装備が付いたクルマを、安心・安全のためにも選びたい。いや、付いているか、ではなく、どんな機能が付いているかまで確認する必要がある。それは自身、同乗者のためだけでなく、他車、歩行者や自転車搭乗者の安全にもつながり、事故を減らしてくれる効果が実証されているからでもある。

 スバルのアイサイトの例では、アイサイト非搭載車に対して搭載車は、事故総件数で61%減、対車両事故で62%減、対歩行者事故49%減、追突事故に至っては84%減という驚きのデータもあるほどだ。先進安全装備が付いていないと、どれだけリスクが高まるか分かるだろう。もっとも、どんな先進安全装備が付いていても、事故をゼロにはできない。あくまで、先進安全装備を過信せず、安全運転が基本である。