2019年12月18日、南フロリダ大学にある米国立モフィット癌研究センターで、所長、副所長及び4人の研究員が解雇されるという事件が起きた。報道によれば、彼らは「千人の人材」計画と呼ばれる中国共産党が外国の優秀な頭脳を大規模に採用する一環として、中国から報酬を得ていたと言われている。

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 中国による軍事や商業上の機密情報の盗取は、以前から米国内で問題視されていた。そして、それは、米中関係の悪化の一つの要因にもなっていた。

 2019年4月には、米テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターでも、同様の事件が起きている。機密研究情報の窃盗の疑いから、アジア出身の教授3人が解雇された。

 中国共産党が米国の大学や研究機関に、「千人の人材」計画等で働きかけを行っていたことは以前から知られていたが、今回フロリダ州の癌研究センターで所長以下が中国政府の計画の下、報酬を得ていたことが判明し解雇されたことで、中国政府の米国の大学や研究機関に対する働きかけが、以前にもまして脚光を浴びることとなった。

 米国の施設、機関は従来開放的であるのが特色で、外国人もその恩恵にあずかってきた。しかし、時としてその開放性につけ込み、悪用し米国の利益を害する例が見られた。例えば、国際テロ組織アルカイダ一派が米国のパイロット教習所で教習を受け免許を得て、米国機をハイジャックして2001年の同時多発テロ「9.11」事件を起こしたのが、その最たるものである。

 中国政府の米国の大学や研究機関に対する働きかけはいかにも中国らしく、「千人の人材」計画と称して大規模で綿密に計画され、豊富な資金を動員して行われているようである。その目的は単なる学術的研究の推進ではなく、中国の経済的、軍事的技術の向上に資するという国家プロジェクトである。

 FBI(米連邦捜査局) は、かねてより、中国の働きかけは米国の安全保障上の懸念であるとして、米国中の研究機関に警告を発してきたが、ここにきて米国議会も問題の重要性を認識し、問題の全貌の究明に努めるとともに、大学、研究所に万全の対策をとるよう要求している。米国の大学や研究機関は、本来開かれた研究をするのが真髄であったが、中国政府の働きかけを前に警戒せざるを得なくなった。中国政府の意図を考えれば、これは大学、研究所だけの問題ではなく、米国の官民が一丸となって取り組むべき問題である。それはまた米中関係の緊張に新たな火種を提供するものであるが、米国は自国の安全保障上の利益が脅かされる現在、黙って見過ごすことはできない。

 日本も、中国が日本の大学や研究機関に同じような働きかけをしていないかどうか調査するとともに、要すれば適切な対策をとる必要がある。

 米国やカナダでは、既に、大学内に設置された「孔子学院」が、中国共産党のスパイ活動の温床になっているとされた。米FBIの捜査対象になるとともに、カナダでは、大学教員委員会が「独裁政権の中国が監督し、助成金を出す機関」として孔子学院を認定した。これらを受け、米国では、シカゴ大学、ペンシルヴァニア州立大学等、カナダでは、マクマスター大学等で孔子学院が閉鎖された。

 日本でも、早稲田大学や立命館大学等、著名な大学内に孔子学院があるが、今まで問題にされたことがない。また、海外から「高度人材」を積極的に受け入れる施策が取られ、中国からも大学や研究機関に、さらに移住を推進する形で、日本国内に受け入れ、増加する傾向にある。米国やカナダで行われていることが日本では行われていないと言えるのだろうか。日本の場合、米国FBIのような組織がない中、誰がどのように捜査、取り締まるのか。科学技術立国として経済発展してきた日本であるが、世界第2の経済大国の座を中国に譲ったように、知らず知らずに高度技術の情報も抜かれているかもしれない。日中友好関係の重要性も鑑みながら、いかに日本の国益を守っていくかは喫緊の課題である。

  
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