3月3日に発表された最新のIAEAの報告によれば、イランは核爆弾1個を製造するのに十分な低濃縮ウランを確保したとのことである。これは明らかにイラン核合意に反するものである。

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 イランはトランプが核合意から離脱した後も核合意を遵守し、IAEAもイランの順守を確認し続けてきた。これはイランが米国の核合意から離脱後も、核合意の欧州当事国がイランに対する制裁を解除し、原油輸入を含むイランとの経済活動を再開することを期待してのことであった。ところがその期待に反して欧州当事国、英独仏はイランとの経済活動をほぼ停止した。これは米国の制裁圧力に屈してのことであった。

 そもそもイラン核合意は、イランが核開発を大幅に制限する見返りに欧米諸国が制裁を解除することで不振に悩むイランの経済活動に活を入れようとしたものであった。核開発の制限に対する経済的見返りの期待が裏切られイランにとって核合意のメリットが失われる。

 既に昨年7月、イランは核合意に定められた3.67%という濃縮の上限を超えることを、また300キロという低濃縮ウランの備蓄量を上回ると発表し、英独仏にゆさぶりをかけていた。イラン革命防衛隊クッズ部隊のソレイマニ司令官の米国による殺害後イランは核合意による核開発の制限はなくなったと述べていたとはいえ、今回は低濃縮ウランの備蓄量が核爆弾1個を製造するに十分な1000キロを超えたということで、昨年とは比べものにならないくらいほど深刻な核合意違反である。

 ただ、イランの狙いは核武装であるとは考えられない。3月3日付けのニューヨーク・タイムズ紙の解説記事‘Iran Crosses a Key Threshold: It Again Has Sufficient Fuel for a Bomb’は、1000キロの低濃縮ウランを核爆弾の製造に必要な濃度90%の高濃縮ウランに転換するには3、4か月しかかからないとする、科学国際安全保障研究所(ISIS)の見解を紹介しているが、これはイランが全力を挙げて取り組む場合であって、イランがそのような行動に出るとは予想できない。

 イランの狙いは英独仏にゆさぶりをかけることにあったのかもしれない。しかし、英独仏のイランに対する態度は最近硬化している。英独仏は1月に、問題を核合意に規定されている紛争解決メカニズムに付託すると述べた。これは外交的解決を目指すものとされているが、問題が安保理に持ち込まれ、制裁の復活につながる可能性のあるものである。英独仏の態度は明らかに変わっており、今回のイランの動きは3国にゆさぶりをかけるどころか逆効果になる恐れがある。

 IAEAの報告書はそのほかにもイランの懸念すべき動きを伝えている。それはイランが一部施設に対する査察団の立ち入りを阻止したという報告である。イランは核合意以前にもしばしば査察団による施設の立ち入りを制限し問題となっていたが、核合意でIAEAの査察を忠実に受け入れていたのを変更したことで、IAEAや国際社会の懸念を深めるものである。

 IAEAの報告書は、イランがフォルドウの施設で濃縮を始めたことも指摘しているが、イランはロウハニ大統領が昨年11月フォルドウの遠心分離機に低濃縮ウランのガスを注入し始めると予告しており、予告通りガスを注入し濃縮を再開したのであろう。これも核合意の重要な違反である。

 イランはおそらくは現時点では核合意の破棄までは考えていないと思われる。

 核合意のメリットは享受できていないとはいえ、核合意はイランにとって米欧に対する有力な梃子であり、破棄すれば英独仏がイラン制裁を再開するなどイランに対する圧力は一気に高まると思われる。

 しかし、今回のイランによる核合意違反は憂慮すべきものである。それはイランの核武装に対する懸念を再び呼び起こしたのみならず、英独仏のイランに対する態度をさらに硬化させることになりかねず、核合意は風前の灯火の状態になったと言えるかもしれない。

  
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