本年1月の総統選挙において、蔡英文総統は野党国民党候補(韓国瑜・高雄市長)に大差をつけて勝利した。敗北した国民党は、総統選をめぐる過程やその後の経緯を見ても、内部分裂に近い様相を呈している。

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 このような状況の中で、最近行われた国民党内部の主席(党首)選において、これまで、台湾の政治の世界では、ほぼ無名に近かった江啓臣が選出された。(江は馬英九政権下で行政院報道官を務めた。立法委員)。

 江啓臣が国民党党首に選出されたあと、注目されることは江が中台関係に関し、如何なる方針を打ち出そうとするか、また中国がそのような江に対し、いかなる対応策を取ろうとするか、という点である。

 台湾内部では、国民党は中国に接近しすぎているとの印象が強く、特に多くの若者たちの間でそのように受け止められているというのが本年1月の総統選挙の結果が示すところである。国民党としては、そのような台湾の世論に即応した形のなんらかの「改革」を迫られている。江については、国民党の「改革派」であると見る向きもあり、勝利宣言のなかで「92年コンセンサス」を放棄することを示唆したとの指摘がある。

 もともと「92年コンセンサス」(「92共識」)という用語は、とくに国民党・馬英九政権下で、中台関係を律するものとして台湾側が使った曖昧な同床異夢を意味する用語である。「一つの中国、各自表述」と訳され、台湾にとっては「一つの中国」とは、「中華民国」を意味する。これに対し、中国のいう「一つの中国」の原則とは、中華人民共和国が唯一の合法政府であり、台湾はあくまでもその領土の不可分に一部にすぎない、ということを意味する。

 これまで約15年間にわたり、中国共産党総書記は、国民党党首が選出されるたびに祝電を発出していたが、今回、「92年コンセンサス」の放棄を示唆したとも受け取れる江の選出に当たり、中国共産党ははじめて祝電を出さなかった。それに対し、江は声明を出し、自分としては「中国の意向を尊重する」と述べつつ、祝電が来なかったことは「台湾の国民党の改革に特段の影響を与えない」と述べている。その後、中国国務院台湾事務弁公室のスポークスマンは、江が「92年コンセンサス」を守り、台湾独立反対の立場を堅持することを望む旨の発言をした。

 蔡英文政権は2019年1月の習近平の「台湾同胞に告げる談話」の中で示された「一国二制度」(香港統治の法的根拠)や「92年コンセンサス」の受け入れを「断固として拒絶する」、として昨年11月の総統選挙に大勝した。今日、蔡英文は「現状維持」のスローガンを維持しつつも、実質的には台湾はすでに主権の確立した独立国家であるとの立場を鮮明にしている。

 中国から見ると民進党のみならず、国民党まで中国からさらに離れていくのではないかとの警戒感を強め、江に対し強硬な姿勢を示そうとしているのだろう。コロナウィルスが中国の内外政に今後どのように大きな負の影響を及ぼすか、いまだその終息が見られない中で予断しがたい面があるが、中国としては、国民の目を少しでも他にそらせるために台湾に対してより強硬な方策を取ろうとする可能性があるので、要注意である。

  
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