1月に行われた台湾の総統選で国民党が大敗した最大の原因は、同党が中国に対して宥和的と見られたことである。それを受け、国民党は対中姿勢を今後どうしていくのか苦慮している。「国民党改革委員会」の両岸関係を議論する部会は6月19日、(1)台湾の主権を支持、(2)自由、民主主義、人権を保障、(3)台湾の安全を優先、(4)両岸関係にとりウィン・ウィンの状況を作り出す、とする4つの柱を平和的で安定的な新たな両岸関係の構築に用いることを提唱、これらを前提として、いわゆる「1992年コンセンサス」については両岸関係の「歴史的描写」として使うことを推奨した。

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 もともと「92年コンセンサス」は国民党・馬英九政権下で中台関係を律するレトリックとして使用されたものである。それは「1つの中国、各自表術(解釈)」と訳され、台湾にとっては「1つの中国」とは「中華民国」を意味し、中国にとっては「中華人民共和国」を意味する。同床異夢の概念である。国民党が、従来の対中政策の基礎ともなってきた「92年コンセンサス」の見直し作業を行っているというのは、国民党としてどのように見直そうとしているのか、いまだはっきりしないところはあるが、興味深いことである。

 台湾の民進党・蔡英文政権は第2期就任式を5月20日に終えたあと、全体として順調な滑り出しを見せている。その理由としては、(1)習近平主席による台湾を「一国二制度」によって統一したいとの発言(2019年1月)に対する台湾住民たちの根強い反発、(2)コロナウィルスの感染をきわめて効率よく封じ込めたことの二大要因を挙げることが出来よう。

 これに比し、国民党は、2020年1月の総統選での大敗以来、内部分裂気味の状況下にある。新しく国民党主席に選ばれた江啓臣のもとで「国民党改革委員会」を開催し、主として中台関係(両岸関係)について新しい提案をまとめた。その中心にあるのは「92年コンセンサス」といわれるものをどう扱うかに関連している。

 江啓臣は一時、この「92年コンセンサス」なるものを否定しようとした、と報じられたことがあった。しかし、その後の中国の威嚇的反応を受け、「92年コンセンサス」の存在を完全に否定すれば、国民党として中国との対話・交流の道が閉ざされてしまうということを認識させられたのかもしれない。今回の「国民党改革委員会」の提言にあるように、「92年コンセンサス」を「歴史的描写」として使用する、というのは、その意味からすれば、一種の妥協案といえるかもしれない。ただし、「歴史的描写」なるものが具体的に如何なることを意味するのか、判然としないところも残る。

 中国は、今回の提言に対しても強く牽制している。中国側で両岸関係を管轄する中国国務院台湾事務弁公室の報道官は、「国民党が区別し、従来の対中政策を墨守し、両党の既存の政治的基礎を維持し発展させ、両岸の政治的困難に正しく対応することを望む」、「朱によれば、もし国民党1992年コンセンサスへの長年の支持を捨て去るようなことがあれば、両岸関係についての基本的原則から逸脱することになり、それは、相互信頼の基礎だけでなく、両党および両岸の間の交流、協力の面でもダメージとなろう」と述べた。

 国民党内からも、連戦、馬英九(前総統)といった歴代主席などの長老から「92年コンセンサス」を両岸関係の基礎とするよう注文がついている。しかし、台湾人に受け入れられる新たな対中姿勢を党全体として打ち出すことができなければ、国民党が混迷から脱することは難しいと思われる。

 なお、台湾においても「92年コンセンサス」については、いろいろな解釈がある。例えば、92年当時総統であった李登輝は、92年に中台の代表の間で会談は行われたが、その時両者の間でなんらかの「合意」が成立したことを否定している。また、蔡英文は、香港統治の法的根拠とされてきた「一国二制度」や、この「92年コンセンサス」の受け入れについては、これを明確に拒絶している。

  
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