【 #父親のモヤモヤ 】
育休を取得した父親の3人に1人は、1日の家事・育児時間が「2時間以下」――。母親のためのQ&Aアプリ「ママリ」を開発・運営するコネヒト(東京都)がこんなデータをまとめ、家事・育児をしない父親の育休を「とるだけ育休」と名付けました。「とるだけ育休」の問題点や背景について、男性の家事や育児、育休について約30年研究しているお茶の水女子大学の石井クンツ昌子教授(社会学)に聞きました。(朝日新聞記者・滝沢卓)

「妻だけに聞いた」注意すべき点

――ママリの調査では、夫が育休を取得した妻508人に聞いたところ、夫の育休中の家事育児時間が1日あたり「2時間以下」という回答が約32%ありました。この結果をどう受け止めればいいでしょうか。

前提として、妻だけに聞いたという点で解釈には注意が必要です。私の過去のインタビュー調査でも、妻に夫の育児や家事の時間をきくと、過小評価する傾向があります。家事や育児をある程度やっている、いわゆる「イクメン」でも、妻は「もっとできるだろう」「こんなやりかたじゃだめ」と、上を望むことがあります。

――なぜ過小評価につながるのでしょうか。

個人的な問題ではなく、「女性は上手に育児や家事をするもの」というステレオタイプを家庭や教育で長年すり込まれてきたことも影響している。社会が女性にそう思わせてしまっていることは見落としてはいけません。

――ほかに考えるべき前提はありますか。

家事・育児時間の内容は人によって様々です。例えば「離乳食の用意」も、野菜を一から切って作るなら時間はかかるけど、既製品をレンジでチンすれば短くなる。推測ですが「2時間以下」といっても、夫が何もしていないとは、私は読んでいません。もし夫に聞いていたら、もう少しポジティブな回答が集まると思います。

――育児家事時間以外にも、ママリがまとめた資料では「4日しかない育休を自分の都合で日にちを勝手に決めて、その内何日かは自分が遊びに行くことに使ったので、育児をするために育休を使って欲しかった」というコメントもみられました。

これは問題です。ただ、あくまでも一例ですよね。こういう事例が一人歩きしていくのは、頑張っている夫にとってはかわいそうだと思います。

男性も自分で学ぶツールはある

――その前提をおさえたうえで、今回の調査結果は驚きですか。

サプライズではない。ひと昔の男性と比べれば、今の男性は家事育児にかける時間は増えているものの、日本は国際的に男女の格差が大きい。家事育児時間が育休中でも短い男性が一部にいることは、わからないでもないですね。

――こうした「育休の質」を変えるにはどうすればいいでしょうか。

女性もはじめはわからないことばかりなので、もし男性が「何をやったらいいかわからない」と思っているならおかしい。妻が夫に「どうやって育児をしたらいいの?」って聞きませんよね。でも、初めから知っているわけじゃなくて、自分で調べたり、ママ友からアドバイスをもらったりしている。育児や料理の本など、男性も自分で学ぶツールはあります。

――そうすることで「2時間以下」の割合は減りますか

ここは実際の夫婦関係を考えると難しいところですね。もし、少しでも夫が取り組んでいるのなら、「指示待ち」だとしても、妻の育児や家事の負担は少しだけでも減っているはず。大事なのは、育休後も継続的に育児や家事に取り組んでもらうようにすることです。

育休を通じて、夫が育児や家事の大変さを理解して妻をねぎらうのはもちろんですが、夫なりに努力したことがあるなら、夫の近くにいる妻もほんの少しでもいいから認める気持ちがあってもいい。身近な人に認めてもらうことで、もっと取り組もうとなることもあります。

二重負担は男女共通の課題

――夫婦で取り組むことなのに、なぜ男性を褒めないといけないのでしょう。

女性にイクウーマンという言葉はないのに、男性は少し育児をしただけでイクメンと褒められる。これも日本社会の問題です。妻をはじめ、こうした風潮に不満をもつ人は多いでしょう。でも、これまで一般的に男性はあまり育児や家事をしてこなかった中で、やろうとする人たちがいる。そうした芽を育てる気持ちを妻が持たないと、男性の立場も考えると、少しいたたまれないですね。

――男性の立場って何でしょう?

共働き世帯が増えてきたことで、仕事と家庭の二重負担は男女共通の課題です。しかし日本では「男性は家計の大黒柱」といった古い社会規範が残っているため、育休取得を含めて、男性が家事や育児に向き合いたくてもできない問題があります。個人差はありますが、育休中の男性へのインタビュー調査で一番心配することに「会社から忘れ去られること」を挙げる人は多いです。

――改善していくには何が必要ですか。

会社の努力は当然です。育休を経験した男性たちの経験談を伝える研修も大事ですが、それは意識の改革。昇進のチャンスを逃したり、復帰後に左遷されたり、結果的に男性に育休をとってほしくないような会社がまだ残っているので、構造改革も必要です。そして、ちょっとの育児で「イクメン」とほめる社会も変わっていく必要があります。

――男性育休の取得期間も1週間程度が主流です

その期間だけで、「正直なにができるの?」という意見もわかります。ただ、子どもが少しでもなついてきたとか、妻の大変さをわかったとか、今後もつながるきっかけを得る意味で、5日間でもいいから、取得できるなら取得したほうがいい。小さなきっかけの積み重ねで、育休後も長く続いていく家事や育児につながるかもしれません。

父親のモヤモヤ、お寄せください

仕事と家庭とのバランスに葛藤を抱え、子育ての主体と見られず疎外感を覚える――。共働き世帯が増え、家事や育児を分かち合うようになり、「父親」もまた、このようにモヤモヤすることがあります。

一方、「ワンオペ育児」に「上から目線」と、家事や育児の大部分を担い、パートナーとのやりとりに不快感を覚えるのは、多くの場合「母親」です。父親のモヤモヤにぴんとこず、いら立つ人もいるでしょう。「父親がモヤモヤ?」と。

父親のモヤモヤは、多くの母親がこれまで直面した困難の追体験かもしれません。あるいは、父親に特有の事情があるかもしれません。いずれにしても、モヤモヤの裏には、往々にして、性別役割や働き方などの問題がひそんでいます。

それらを語り、変えようとすることは、誰にとっても生きやすい社会づくりにつながるはずです。語ることに躊躇しながら、でも、#父親のモヤモヤについて考えていきたいと思います。

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