クマムシの「激レアさん」追う理由、「調査は賭け。やめときなさい、俺がやるから」生物学者の執念

クマムシの「激レアさん」追う理由、「調査は賭け。やめときなさい、俺がやるから」生物学者の執念

 体がカラカラに乾燥して、一切の代謝がなくなること。普通の生物ならそれを「死」と呼ぶのですが、水をかけると蘇って元気に動き出す生き物がいます。ネットでしばしば「最強生物」と呼ばれる「クマムシ」です。実は、小さすぎて見えないだけで、土の中にも海の中にも、あなたの身近な場所でも暮らしています。そして、そもそもマニアックなクマムシの中でも、さらに「激レアさん」いるらしい? クマムシを研究する専門家に話を聞くと、「クマムシ愛」だけじゃない、研究にかける思いを知ることに……。(朝日新聞デジタル編集部・野口みな子)

肉眼で見れないかわいい生き物「クマムシ」

 クマムシの紹介をしてくださるのは、慶應義塾大学の鈴木忠(あつし)准教授です。著書に「クマムシ?! ―小さな怪物」 (岩波科学ライブラリー)や「クマムシ調査隊、南極を行く! 」(岩波ジュニア新書)があり、20年近く、クマムシの研究をされています。対談するのは、人気YouTuberのよききさんです。

よききさん「クマムシは前から気になっていました。どんな生き物なんでしょうか」

鈴木先生「クマムシの特徴は、足が4対、つまりクモと同じく8本あることですね。でも昆虫や節足動物のように、カクカク動かず、プニプニした足でポニョッポニョッと歩くんです。クマムシは『緩歩(かんぽ)動物』という種類に属していて、その名の通りゆっくり歩きます。のろまという意味ですね」

 大きさは0.2〜0.3mm程度のものが多く、最大でも1mm程度。肉眼で見るのはほとんど不可能な、小さな小さな生き物です。種類によって土の中や海の底などで暮らし、ビルにくっついているコケの中にも住んでいます。

 クマムシが発見されたのは、200年以上前。今では、1300種類以上が見つかり、毎年新種が報告されているそうです。

鈴木先生「まだまだ見つかっていないクマムシがたくさんいると思いますよ」

よききさん「うわあ、僕も見つけたいです!」

恐竜が絶滅した天変地異さえも…

 クマムシには、一般的な生物と異なる、ある特徴があります。それは「乾眠できる」という能力を持っていることです。

 「乾眠」とは、体がカラカラに乾燥し、体の中のすべての化学反応が起こらなくても、耐えられていることです。「普通の生き物であれば、それが『死』なんですけど」と鈴木先生。クマムシの場合、水をかけてしばらく待っていれば元通りで、またポニョポニョと歩き始めます。

よききさん「すごい、どうしてなんですか?」

鈴木先生「普通の生き物が死ぬのに、どうしてクマムシは蘇ることができるかは、核心部はまだわかっていないんです」

 更に、クマムシがネットで「最強生物」と呼ばれているのには、この乾眠状態での「強さ」にあります。

 圧力や温度にはめっぽう強く、人間であれば即死レベルの放射線にも耐えることができます。2007年には、宇宙空間にクマムシを約10日間さらすという実験も行われました。それでも、全滅はせず、水をかけると数百匹のうち3匹が蘇ったといいます。

 「オニクマムシ」というクマムシは、現代とほとんど同じ姿のものが、9千万年前の琥珀の中からも見つかっているといいます。恐竜が絶滅するような天変地異も、クマムシは乗り越えてきたのです。

 オニクマムシの産卵。脱皮前に殻の中で産卵する。この産み方の卵はツルツルで突起がない=鈴木忠先生提供

 ちなみに、乾眠している間は「体内の時計が止まった状態」だといいます。「眠り姫のようですね。眠ることで寿命を伸ばしている可能性もあります」

 鈴木先生が14〜15年前に乾眠状態で冷凍していたというクマムシも、「水かけると戻りますよ。それ以上も生き残れるのではないのでしょうか」。

 しかし、鈴木先生はあくまでクマムシは「最強生物のひとつ」といいます。「例えば、ドライイーストも乾燥して耐えていますよね。最強なのはクマムシだけではないんです。人間にそういう能力がないだけで、地球上にはいろんな生き方をする生き物がいますからね」

クマムシの「激レアさん」

 1300種類以上いるといわれるクマムシでも、鈴木先生が「激レア」と呼ぶ種類があります。それは、1937年に長崎県雲仙の温泉で発見された「オンセンクマムシ」です。

 オンセンクマムシの興味深いところは、体の構造で分けられるクマムシの2つのグループの、中間のような形態をしているところ。「いわゆる進化の『ミッシング・リンク』です」と鈴木先生は話します。

 しかし、オンセンクマムシはドイツ人のラームが一度だけ発見したきりで、標本も残っていないそうです。

 「多くの人は『捏造なんじゃないか』というのですが、私はそうじゃないと思っています。私がリタイアする前に見つけたいですね」という鈴木先生。実際に2回調査に赴いたそうですが、発見には至っていません。

鈴木先生「クマムシはどこにでも均等に存在する訳ではないので、取ってきたサンプルから見つからなくても、実はその10cm隣にいたかもしれない」

よききさん「ええ! もう『運』じゃないですか!」

鈴木先生「肉眼で見つけられないからこそ、賭けみたいなところがありますよね」

「クマムシ愛」だけじゃない研究生活

 運が左右するような場面もあるクマムシ探しは、「なかなか人にすすめられない」という鈴木先生。「5年で結果が出るかわからないですから。やめときなさい、俺がやるから」

 そんな鈴木先生ですが、研究への意欲が「クマムシへの愛」かどうかというと、違和感を覚えるといいます。

鈴木先生「生物研究者には、生物が好きでやっているタイプの人と、『生命とはなんぞや』というのを解き明かしたいタイプなど、いろいろあります。僕は、生物が好きで、昆虫採集が好きだった子どものなれの果てです」

 であれば、「クマムシ愛」が原動力ではないのでしょうか。

鈴木先生「それはちょっと違っていて。クマムシをとってきて標本をつくるとき、クマムシは死ぬんです。クマムシを殺さないといけない。殺すのが嫌な人は研究できないし、僕だって殺すのは好きな訳じゃない。だからクマムシへの愛といわれると、複雑な気持ちがありますね」

 生き物が好きだからこそ、「好き」だけじゃ成立しないのが研究の世界。しかし、飼っていたクマムシが捕食する様子や、排便する様子を語る鈴木先生の表情は、本当に楽しそうでした。オンセンクマムシを「絶対に見つけてやる!」と無邪気に話す笑顔も印象的でした。

 それでも、専門のクマムシを「あくまで最強生物のひとつ」という鈴木先生。生物への興味はさることながら、クマムシだけじゃない広い生物の世界へ導いてくれるところも、生物学者のあるべき姿なのだと感じました。

マンボウとクマムシのトークイベントを開催します

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【チケット】本屋B&Bのサイト(http://bookandbeer.com/event/20191206/)からお申し込みください
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