ビルの屋上にたたずむリクルートスーツの女性。今にも身を投げてしまいそうなその時、「ちょっと待った−!」。「就活死とめ会」を名乗るキャラクターが、女性に語ったこととは――? マンガのSNSを運営するコミチとwithnewsがコラボし、「#ミライの就活」をテーマに作品を募集。大賞に決まったコジママユコさんの作品には、「自分が持った違和感を消さないで」というメッセージが込められています。(朝日新聞デジタル編集部・野口みな子)

コジママユコさんの「就活で死なないで」

 ビルから飛び降りそうな女性を呼び止めたのは、翼を持った黄色のゆるいキャラクタ−。驚く女性に、「わたし こういう者です」と差し出した名刺には「非営利法人 就活死とめ会」と書かれています。

 「早まるのはおやめなさい」という“とめ会”に、「そんなマジなやつではないんで…」と目を伏せる女性ですが、就活はうまくいかず追い詰められていました。

 「社会のルールに従えない人ってダメじゃん」という友人の言葉、やってもやっても終わらない自己分析、手書き主義のエントリーシート、慣れないヒール靴……。うまくいかなくても、「まだ頑張れる」と自分を励ましてきた女性。ある日届いた不採用の「お祈りメール」に、ついに耐えられなくなってしまいました。

 そんな彼女に、”とめ会”は「参考にお見せしましょう」と映像を取り出します。そこには各企業の採用担当者の様子が映され、「今年はエンジニア優先にしようか」「今いる職員との相性を考えて…」「おとなしく働いてくれれば…」と話しています。

 「相手の都合じゃん!」。意外な就活の“裏側”を知り、女性は驚きを隠せません。「あたしには教育メディアの仕事しかないの」「私の夢なの! ここで断たれるなら生きてる意味ない!」

 本心を明かした女性に“とめ会”は、非正規職員の増加、過労やパワハラの問題、就活を乗り越えても立ちはだかる社会の課題を語り、「上手くいかないのは自分が悪いせいだけじゃないんだよ」と諭します。

 女性の思いを伝えられないままに「消えてしまうのはあまりにかなしいよ」と、思いとどまらせた“とめ会”。同僚と「しかし10年経っても地獄だね」「いつになったらマシになるんかね」と漏らし、漫画の最後では読者に語りかけるようにつぶやきます。

 「地獄でおかしくなる方がまともだよ」

逃げ場ない、理由もわからない「就活」のつらさ

 漫画「就活で死なないで」を描いたのは、漫画家のコジママユコさんです。エピソードのベースとなったのは、10年ほど前の自身の経験。「私自身が就活がうまくいかず、すごく苦痛だった」と明かします。

 「大学では『あなたが心の底からやりたいことを、相手にわかりやすくプレゼンする努力をしてください』と指導されて、自分が大切なことを面接でさらけ出しても、返ってくるのは不採用の紙一枚。自分の何がダメだったのかわからなくて、どんどん心が削られていきました」

 高校の頃に、おもちゃなどの立体物のデザイナーを目指し始めたコジマさん。デザイナーとして企業に所属する夢を叶えるために、これからするべきことを逆算し美術系の大学に進学しました。そこで、壁となったのが就活でした。

 「自分としてはここまで階段をのぼってきたつもりだったのに、『デザイナーになれなきゃ意味ない』って思ってしまいました。新卒でデザイナーになる方法以外も見えていなかったので……」。そんな悲痛な思いが、漫画の女性にも重なります。

「就活死とめ会」に込めた思い

 コジマさんがずっと抱えていたのは、就活への違和感です。面接では、その人の本質を見たいと言っても、日常生活では行わないようなコミュニケーションの繰り返し。ネットを開けば、「ヒールは何cm以上が有利」「企業が見ているのはココ!」など真偽が疑わしい情報が行き交います。

 見えないものさしで測られ、自分の判断力が信じられなくなることに、コジマさんは「おかしいなって思っていても、ルールに合わせるしかない。逃げ道のない感じがしんどかった」と振り返ります。

 「こういうシステムだから」と割り切っていましたが、結果はなかなかうまくいきませんでした。次第に、「本当に自分はダメなのか」という思いを強めてしまったといいます。

 「説明会などでも『我が社が求める人材』ってよくありますよね。でも会社に入るとそんな人はなかなかいなくて、採用はチームに不足している人を採りたいっていう側面が強いと感じました」

 たとえ無事に就職できたとしても、周囲から聞こえてくるのはパワハラに苦しむ声。就活生の時に見ていた「理想の社会人」とのギャップに、やりきれない気持ちになりました。

 「当時は見えなかった視点を伝えたい」という思いを、漫画では「就活死とめ会」に託しました。「自分のつもりで描いています。就活は夢のシステムでもなんでもないし、違和感がある状態が『まとも』なんだよと言いたかったんです」

 「地獄でおかしくなる方がまともだよ」。作中で“とめ会”がつぶやく言葉には、就活の空気や周囲の言葉によってすり減ってしまった就活生に、「あなたの違和感を否定しないで」というメッセージが込められていました。

おかしいところを指摘するのが、大人の仕事

 コジマさんは、今回の作品を描いた理由を「最近の記事を読んでも、私が就活をしていた10年くらい前と抑圧感が変わっていないと感じたから」と話します。

 「システムに合わせられないのは社会人としてダメ、就活塾とかでも『大人に反抗するのはダメですって言われた』っていうのを読んで、違和感を持つこと自体がよくないと感じてしまってるんだなと」

 筆者も、就活で非常に苦しんだひとりです。何が正解かわからないままに、返ってくる不採用通知には、自分を否定された気持ちになりました。ある企業のリクルーターには、エピソードを「盛る」こともすすめられ、どんどん自分が何がしたいのかわからなくなりました。コジマさんの話を聞きながら、深くうなずくばかりです。

 一方、多くの人にとって新卒採用は一生に一回。毎年就活生も入れ替わるので、のど元過ぎれば「大変だったね」で片付けられてしまいがちです。コジマさんは、「おかしいところを指摘するのが、大人の仕事かなと思います」と語ります。

 あなたが就活で持った違和感はどんなことだったでしょうか。「自分がおかしいんだ」と飲み込んでしまったことを、改めて考えたいと思いました。

 コジママユコさんのTwitter:@cotori9