遠くにぼやける夜景と、渋い表情の「おじさん」。夜景をバックに、50歳以上のおじさんを何十人も撮影し続けているカメラマンがいます。「夜景×おじさん」という、ありそうでなかった2つの不思議なマリアージュ。撮り続ける理由を聞いてみると、おじさんだからこその悲哀と、おじさんだからこそ生まれる「かわいらしさ」がありました。(朝日新聞デジタル編集部・野口みな子)

哀愁漂う「夜景おじさん」

 「怪奇事件・珍事件マニア」や「架空CMソング制作マニア」など、さまざまなマニアがオリジナルグッズを販売するイベント「マニアフェスタ」(運営:別視点)。個性豊かなブースが並ぶ中、特に異彩を放っていたのが「夜景をバックにおじさんを撮るマニア」です。

 販売している写真集「夜景おじさん」の表紙を飾るのは、歓楽街らしき明かりの前にたたずむ眼鏡の男性。その辺にいる普通の「おじさん」のようですが、頼りなく開いた襟と胸ポケットのラッキーストライク、眼鏡の奥の瞳には哀愁が漂います。

 写真集のページをめくってもめくっても、出てくるのは夜景をバックに笑い、泣き、コミカルな、そして神妙な面持ちのおじさんばかり。時にはぎこちなく、時にはこちらがドキッとするような眼差しで収まる姿を見て、自然と「かっこいい」という言葉が浮かびます。

最初は「女性を撮ろうと…」

 「最初は夜景と女性を撮ろうと思っていたんです」

 そう話すのは、「夜景おじさん」の生みの親、写真家のオケタニ教授(46)です。女性をモデルにした時に失敗しないようにと、知り合いの男性に練習に付き合ってもらったことがきっかけでした。

 夜景というドラマチックな背景と、飾り気のないおじさんの間に生まれる違和感。撮れた写真の不思議な印象に「こっちの方がいいのでは」と感じたといいます。

 「そもそも男性が夜景でおじさんを撮る、ということを誰もやっていませんし、これは面白いんじゃないかと感じました」

 その「練習」以来、オケタニさんは周囲の「おじさん」に声をかけ、80人ほど撮影してきたといいます。

表に出さない「かわいらしさ」

 オケタニさんが表現したいのは、ネガティブに語られやすい「おじさん」が本当は持っている「かわいらしさ」だといいます。

 「モデルを頼んだ時は『自分でいいんですか』って謙遜するんですけど、いざ撮影を始めてみると、さっきまでかけていなかったサングラスをつけていたりする。少しは『目立ちたい』という思いがあっても、それを表に出さないんですよ」

 日本が好景気に沸いた甘さも、そしてその後の苦さも、さまざまな環境で生き抜いてきた経験が、“しわ”とともに刻まれているおじさんたち。自分の心のやわらかい部分を見せたくない、もしくは見せられないからこそ、「言葉にすると野暮なこと」も写真では親近感となって滲み出ています。

 「撮られ慣れていないはずなのに、何も言わず『慣れてるふり』をしようとする。写真の感想も、特に話してはくれません。でも、そんな『かわいらしさ』を多くの人に、そして本人にももっと知ってもらいたいと思っています」

 飾らない、より自然体な姿を写したいと、「撮影の前日に散髪しないで」など“モデル”らしからぬ異例のお願いをしている徹底ぶりです。

 そんな撮影が、「おじさん」たちにポジティブな変化を生み出していることは確かです。写真集の巻末には「夜景おじさん」たちのプロフィールと一言コメントも掲載されています。ぶっきらぼうな自己紹介もありますが、「撮っていただきありがとうございました」「初めてモデルさんの恍惚感を得ました」「忘れえぬ思い出」など、オケタニさんに感謝を伝える言葉が並んでいます。

 「『イケメンじゃないからさ……』と嘆いていた人に、結果的に自信を持ってもらえたらいいですよね」

女性に人気、サインも求められ…

 「夜景おじさん」の写真は、女性を中心に幅広い層から好評だといいます。オケタニさんがSNSに写真をアップすると、女子高校生らしきアカウントから連続して「いいね」が押されることも。「きっと友達同士で話題にしてくれてるんだと思います」とオケタニさん。

 「夜景おじさん」たちに会えるオフ会を開くと、参加者がおじさんにサインを求めることもあるそうです。本人たちは戸惑っていても、実はまんざらでもないようで……。

 「最初は丁寧に漢字で名前を書いていても、5分も経つとだいぶ字を崩し始めますね」とオケタニさんはにやり。「調子に乗るのが早いところも、おじさんの愛らしさでもあるんです」と語ります。

 ちなみに、46歳のオケタニさん自身は「自分はおじさんだと認めてないんですけど……」としつつも、写真集に載りたいという思いから夜景で“自撮り”したそうです。いじらしい思いを胸に抱きながらも、カメラの前では何食わぬ顔。これってまさに「夜景おじさん」の醍醐味ではないでしょうか。

 誰の心にもある「小さな欲望」。自分の中ではネガティブに捉えてしまいがちですが、他人のそんな姿は人間らしくて愛せてしまう。たくさんの明かりを背負って立つ「おじさん」たちに思いを馳せると、不思議と優しい気持ちになっています。