「『ごめんなさい』ってどんな気持ち?」その場を収めるための言葉か、相手に嫌われないための言い訳か、それとも……。形式的に「ごめんね」を使う3歳の娘とともに、謝罪と相手を思いやる気持ちを考えていくマンガがTwitterで話題です。自分の非を認め、誠意を示すことは大人にとっても簡単なことではありません。人生になくてはならない言葉の意味について、改めて考えさせられるストーリーです。(朝日新聞デジタル編集部・野口みな子)

「ごめんねの正体」探る漫画

 「ごめんなさいってどんな気持ち?」というコメントとともに漫画を投稿したのは、育児情報サイト『ninaruポッケ』などで連載を持ち、2児の母であるさざなみさん(@3MshXcteuuT241U)です。長女が3歳4カ月だった頃、昨年の夏の出来事を描きました。

 「お母さんここ読んで」とワークブックを見せる娘。そこには、よそ見をしていたサルがウサギにぶつかり、ウサギが泣いてるというシチュエーションのイラストがあります。

 「こういうとき、サルは何と言うのかな?」という質問に対し、娘は「知ってる! 『ごめんね』って言う−!」と答えます。「ここではそれが答えだろうけど…」と、娘の元気な回答にモヤモヤが残る母。というのも、以前に娘と「ごめんね」について考える出来事があったのです。

 きっかけは、娘が祖母に向かって「おばあちゃんなんかキライ あっちにいって!」と強い言葉を使ったことでした。自分が発した言葉によって、その場がただならぬ空気になったことを察し、娘はとっさに「ごめーんねっ」と謝ります。

 しかしその言い回しは、心のこもっているものには感じられませんでした。

 ベテランの保育士だった祖母は「いいえ知りません 謝ったからって許されるとは限りません」と謝罪を拒否。これで事が収まると思っていた娘はムキになって泣き出してしまいます。そして「あうんの呼吸」のように、娘は祖母から母へバトンタッチ。

 ここから、母と娘の「ごめんねの気持ちの正体」を探るやりとりが始まります。

「自分の非」向き合った先に

 娘が落ち着くのを待って、「おばあちゃん どうしてゆるしませんって言ったのかな?」と尋ねると、娘は「いじわるだから」と自分の非を認めようとしません。

 質問を変え、祖母に向けて放った暴言について聞くと、幼稚園で友だちに言われた言葉だったことがわかりました。「いじわるなのはどっちかな?」という母の言葉に、娘は自分のしたことが身にしみながらも、後戻りができないが故に意固地になっています。

 一方母は、娘のいたたまれなさに胸を痛めながらも、「してしまったことをどうやって改めるか 今わかったら多分ずっと覚えていてくれる」と、このやりとりがきっと娘のためになると考えます。

 「ごめんなさいって、どんな気持ち?」と尋ねる母。「これを言ったらお話が終わるからとりあえず言っておこう?」「みんなにいやな子だって思われたくない?」と例を出して、娘の気持ちを確かめていきます。

 「やらなきゃ良かったって思ってる」という言葉が出たとき、娘の目から涙がこぼれました。2人で「ごめんなさい」の気持ちを見つけた瞬間でした。

 「おばあちゃんに言いに行こう」と立ち上がる2人。心のこもった娘の謝罪を、祖母も受け入れてくれるのでした。

 場面は戻ってワークブックの問題に。祖母の出来事を思い出した娘は、ウサギの気持ちをおもんばかり「う〜ん、『だいじょうぶ?』かなぁ」と考え始めるのでした。

 じっくり娘と向き合う漫画に、Twitterでは謝る意味について改めて考え「大人にも読んでほしい」という声や、子どもに対し「どう伝えれば良いかと考えていた」という保護者の方の悩みも寄せられています。ツイートは3.3万回以上リツイートされ、10万件を超える「いいね」が集まりました。

 子どもと感情を共有する難しさとともに、ひとつひとつ向き合うことで得られる豊かな学びが伝わる出来事。当時のことについて、さざなみさんに聞きました。

将来避けられない場面だからこそ

 娘が祖母に暴言を吐くきっかけは、日常の些細な瞬間だったといいます。家で機嫌が悪くなった娘を、祖母が「気分を変えて外に出かけよう」と誘った時のことでした。

 孫の謝罪を断った祖母は、30年以上保育士として働いてきたプロ。引退した後も、孫ができたときには最新の育児情報を調べ、何冊も本を読んで勉強していたといいます。それでも実際の育児は、さざなみさんが頼るまで口出しや手出しはせず見守ってくれるそうで、今回の出来事も「私たち2人を信じて委ねてくれたのだと思う」と推察します。

 「ごめーんね」と謝る娘に、「一応は言ってはいけない言葉だと、分かっているのだとほっとした」というさざなみさん。一方で、「弾む節回しがいかにも儀礼的で軽く思えて、これはちょっとまずいなと思った」と振り返ります。娘が祖母にしたことの深刻さを、伝える必要がありました。

 とは言え、さざなみさんの中で迷いがなかった訳ではありません。「娘の『ごめんね』に心がこもっていないという認識で突き進むしかなかったのが苦しかった」と明かします。緊張によってふざけた言い方になってしまった可能性もありますし、娘も「よくないことをした」ということは感じ取っていて、謝罪を受け入れてもらえず地団駄を踏むほど苦しんでいました。しかし、祖母の心に娘の謝罪が届かなかったのは事実です。

 「今回は家族が相手のことですが、長女がこの先世界を広げていく中で、同じような衝突を繰り返す可能性を考え、今きちんと話すしかないと思いました」

 さざなみさんがそう考えるのは、これから生きていく中で「自分が加害者として扱われる場面」は避けて通れないから。「そんな局面でどう誠意を持って振る舞うべきか、道筋を見つけてほしいと思いました。そのためには、長女自身で、ごめんねという気持ちの正体を見つけてほしいと思ったのです」

体力が削られる作業、それでも

 語彙や経験が少ない3歳の子どもに対し、より詳細な感情を伝え合うことは簡単なことではありません。さざなみさんは、娘が感じていたであろう苦しさ、つらさをできるだけ易しい言葉で言い換えることで、自分の気持ちに気づいてほしいと考えました。

 「こちらとしての判断材料は表情だけです。『やらなきゃ良かったと思ってる』という悔恨の言葉にたどり着いたとき、ポロッと涙がこぼれたのです」

 さざなみさんは「本当に分かってもらえたかどうかを確かめる術はない」としつつも、「その姿を見たときには『通じた』と、心の底からホッとしたのです」。ワークブックの一件からも、「ごめんね」というフレーズが万能な訳ではなく、相手を思いやることが大切だという気持ちが育まれているのが感じ取れます。

 ツイートには、さざなみさんと同じように、「ごめんなさい」をどう教えるかについて悩む保護者の声も集まりました。「しつけ」と結びつけられやすい言葉だからこそ、保護者の中でも悩みや戸惑いも多いようです。「モヤモヤが言語化された」と感謝するリプライもありました。

 「概念的なことを子どもに伝えることは本当に難しく、伝わったかどうかも分からないのに体力が削られる大変な作業です。だからといってなおざりにできることではなく、日々悩んでいるという親御さんたちが多くおられることに私は励まされ、勇気をもらっています」

 さざなみさんは「ありがとう」についても、長女と「気持ちの正体」を探し出したエピソードを漫画にしています。何気なく使っている「ありがとう」や「ごめんなさい」ですが、私たちが今心の通った感謝と謝意を示すことができるのは、人間関係の中で誰かに教えてもらったからなのだと感じます。反射のように使ってしまっていないか、改めて振り返ろうと感じました。