話題の「家事シェアハウス」とは 建設業界の女性活躍

話題の「家事シェアハウス」とは 建設業界の女性活躍

 男性的な業界と見られていた建設・住宅業界で女性活躍を推進する大和ハウス工業。16年に経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」、17年、18年と連続して経産省と東証の共同主催の「なでしこ銘柄」選定されるなど外部評価も高い。全国の事業所・営業所での正月三が日の営業をやめるなど、女性活躍のみならず強いリーダーシップで働き方改革をも進める芳井敬一代表取締役社長にその真意を聞いた。

家族で家事をシェアする「家事シェアハウス」が話題に

――建設・住宅業界といえば、これまで男性の活躍が多かった業界です。あらためて、なぜ今、大和ハウス工業でダイバーシティが必要なのかを教えてください。

芳井代表取締役社長(以下、芳井):建設・住宅会社としてモノを作り、それを提供するのが我々の仕事です。そうした仕事に関わる以上、“社会や人々の役に立ちたい”というキーワードは、誰もが持っているはず。その思いを受け止め、活躍できる機会を作ることが会社の役割だと考えています。男性も女性も能力に変わりはない。女性だからできないということは何もないと思っています。

 どんな事業を行う時でも、「儲けから入らず、人々や社会の役に立つものを事業化する」のが当社の信念です。樋口武男・代表取締役会長も、「儲けから入ったらあかん。その地域の人が何で困り、何を必要としているのかを把握し、本当に役立つものを事業化しろ」と言われ続けてきました。これは我々のDNAとして根付いているものであり、何よりも大事にしていることですね。

――2017年に商品化された「家事シェアハウス」も、女性の家事負担という課題を解決するものとして大きな反響をよびました。女性が家事をしやすい家ではなく、夫や家族と“家事をシェアする”という全く新しいコンセプトが新鮮でした。そもそもこの商品は、富山県の事業所の女性社員によるプロジェクトから生まれたものだとか。

芳井:住宅事業を担当する大友浩嗣・取締役常務執行役員がけん引する「これからの住まい方プロジェクト」から商品化したものです。各事業所の女性社員に、ルーチンワークから離れ、PDCAを回して仕事をする習慣をつけてもらいたいというのがプロジェクトのコンセプト。各事業所で業務改善プロジェクトを作ってもらい、半期に1度の業績評価にも事業所全体の加点要素として取り入れています。

 もともと富山県といえば、全国で1、2位を争う共働き世帯の多い県です。そんな中で、女性社員が「なぜ妻だけが家事をしなくてはいけないのか」という問題意識を持ち、「家族全員で家事をシェアする」という視点で、設備や間取りなどに工夫を凝らしました。富山支店の分譲地でモデルハウスをスタートしたところ、非常に評判が良く、全国商品となりました。多くの女性の共感を得ましたが、ただ、もう少し男性側にも理解しやすいような戦略を練る必要があると感じています。

――これまで社長ご自身が、「女性の力」を実感されたビジネス上の場面を教えてください。

芳井:特に印象に残っている事が2つあります。ひとつは、女性の営業から気配りの素晴らしさを学んだこと。多くの場合、営業はスピードを重視するあまり、見積もり段階で、“なぜこのお客様が弊社に決めてくださったのか”を掘り下げることを軽視しがちです。しかし、ある営業の女性社員は、“この方は恐らくこうした点を問題視されるだろうから解決策を考えておこう”“この場面でこれを見せることで信頼していただける”と先回りして考え、提案していた。本当に丁寧な営業というのは、こういうことを言うのだなと実感しました。

 もうひとつは、東京本店長時代に感じた女性の芯の強さです。より現場に近い声が聞きたいと思い、各部署の経営課題を話し合う月末会議に、経理の女性社員を参加させたのですが、「今までのケースから見てその計画には無理があります」などと、臆せず意見を言う。男性社員は上司の顔色を窺いがちですが、女性は無理なものは無理と言える。芯の強さに感心しました。

20年度末にグループ全体で女性管理職500人が目標

――しかし、日本ではなかなか女性活躍が進みません。ロールモデルがいない、キャリアパスが見えないなど、いろんな理由がありますが、社長が考える女性活躍の課題はなんでしょうか?

芳井:女性には、結婚、出産、配偶者の転勤など、ライフイベントがついて回ります。まずは、そこを乗り越えるための解決策を考えることが急務です。例えば、育休中に職場を離れることに対し、会社から置いていかれるのでは?と不安を感じる女性は多い。それなら、育休中に社内の通信教育を受けられるような環境を整えればいい。能力をどうやって維持するかではなく、育休中にスキルを上げるという視点で仕組みを考えてみる。そうすれば、育休期間は、“キャリアロス”ではなく、貴重な育成期間となり、お互いにメリットがあります。もちろん、育児第一ですが、スムーズに復帰できるような体制を整えていくことは大切です。

――会社に対する忠誠心がある人ほど、迷惑をかけたくないという気持ちが強く、結果的に仕事を辞めてしまう人も少なくありませんが、育休がキャリアロスではなく、キャリアアップの機会になれば、育休や復帰への怖さがなくなりますね。

芳井:まだ私の中での構想段階で、実際に動き出しているわけではありませんが、成長を望む人に対して環境を整えていくことが大切だと考えています。また、夫の転勤というライフイベントに対する対策としては、別の支店に異動できる仕組みを作ることで仕事を辞めずに済む。そうしたことも考えている最中です。

――大和ハウス工業では、「2020年度末までにグループ全体で女性管理職を500人にする」という目標値を掲げています。現在、女性管理職の数は、大和ハウスで約100人、グループ全体としては261人。あと約3年で2倍に伸ばすということになりますが、実現可能でしょうか?

芳井:初期の総合職採用の女性たちが、現在、課長になりつつあります。その層がさらに厚くなっていけば目標値に近づくはずです。ただし、数合わせのためだけに女性管理職を増やすのでは、どちらも不幸になる。性別に関係なく、能力で決めるべきです。

――性別に関係なく、チームの力を最大化してくれる人物を管理職に上げると。

芳井:能力ももちろんですが、タイミングも重要です。順番でいえばこの人だけれど、今、この場所にふさわしいのはこちらという場合もある。

 現在、横浜北支社で建築営業所所長を務める神田美沙という女性社員がいます。彼女は、まだ主任ですが、1年前に所長に登用しました。東京本店では、入社5年以上の主任職までの若手社員約20人を集め、月1回1時間、1年間を通して勉強会を行っているのですが、彼女は、私が東京本店長時代に勉強会に参加していたメンバーです。フワッとした雰囲気ながら芯が強く、牙を隠し持っている。川崎市に建築営業所を作るときに、女性だけのなでしこチームにしたいと考えていたのですが、その時に浮かんだのが彼女でした。女性たちをうまくまとめて東京本店との橋渡し役も果たせると考え、抜擢しました。

全国の事業所・展示場で正月三が日の営業をやめるなど働き方改革推進

――よく“女性は、能力があっても自信がない”といわれます。人に影響を与えることに対して恐れがある、人をマネジメントする怖さがネックになっているとも。そうした点についてどう思われますか?

芳井:自信がないというより、自分が上に立ったらどうするか、あの場所で何をしたいかという“台本”が描けていないのではないでしょうか。「あの人のようにはできない」と、上に立つことを尻込みする女性は多いけれど、別に誰かを目指さなくてもいい。「あの人のように長時間労働はできない」と思うなら、自分が上に立った時、どうすればそれを回避できるか、いい方法を考えておく。自分らしい働き方ができるように、台本を少しずつ描いておくことで、実際にその場に立った時に能力が発揮できるものです。

 私の場合、会社を変えられる立場になったら絶対やろうと決めていたのが、全事業所の住宅展示場で正月休みを導入することでした。2017年の11月に社長というポジションを与えていただき、2018年からは全国82事業所、240カ所の展示場で正月三が日の営業活動をすべて取りやめました。これまで住宅展示場と分譲地は、正月営業が慣例化していましたが、東京本店長をしていた2014年からは、東京本店の展示場に正月休みを導入しました。ビジネス上のデメリットも全くありませんでしたから、全国の事業所で導入したいと思っていたんですね。

 そもそもお客様が住宅を購入するタイミングとして、子どもの進学に次いで多いのが「正月を新しい家で迎えたい」ということ。それなのに、正月を味わっていない我々がどうやってその良さを提案するんだと。正月は家族や友人と過ごしてゆっくり休んでもらう。それが仕事のモチベーションにもつながります。

――全事業所正月休み導入もそうですが、就任以来、意欲的に働き方改革を推進していますね。

芳井:働き方改革に関しては、まずは、“今やっている仕事は本当に必要か”を各自で点検し、やるべき仕事と捨てる仕事を決めてもらいたいなと思っています。また、想像力を養うことで、余計な仕事を減らすことができる。特に管理職以上にはこうした能力が必要です。1枚の書類を見れば、問題点がどこにあり、どうメスを入れるべきかが分かる。今は、何でも答えられるようにと過剰に書類を作る傾向が強いですが、これではいつまでも仕事が減りません。この先、会社をさらに発展させていくためには、新しい価値を生む仕事にどんどん挑戦していかなくてはいけない。そちらに注力してもらいたいんです。会社としてもそれを具体的に説明する必要があります。

――マネジメントに関して伺います。よく経営者や男性管理職から「女性に対する扱い方に悩む」という声を聞きます。強く怒ると泣かれるし、セクハラリスクもある。だからつい腫れ物にさわるように扱ってしまうと。こうした状況をなくすには、どのようにマネジメントをすればよいと思いますか。

芳井:一番大切なのは、相手の個性を見て長所を伸ばしてあげることだと思います。私には娘が3人いますが、個性に合わせて怒り方や褒め方も変えます。人財育成も同じ。10人後輩がいれば、10通りのカルテを持っておく。「俺の真似をしろ」では、その人を超えられない。名前があって個性がある。“キミ”ではなく、きちんと名前で呼ぶことも大事です。

 彼らを自分の子どもだと考えてみてはどうでしょうか? 部下だと思うから欠点が目に付くけれど、自分の子なら長所から見ようとするものです。長所から相手を見ることで距離が縮まる。距離が縮まれば、不安や恐怖がなくなるから、叱ってもいきなり泣かれることはありません。距離感のある相手に対して不安を抱くのは、男性でも同じですよね。

――距離を縮めて相手を長所から見るという方法は、エンゲージメントを生むマネジメントだと感じます。そうしたルーツはどこからきているのでしょうか。

芳井:私は父親から「小学校の先生になれ」と言われて育ちました。小学校の先生は全ての教科を見るから長所や個性が見えやすい。「長所から人を見ると考え方が変わる」というのが父親の教えでした。この考え方が人財育成でのベースになっていますね。もちろん経営者としてドライな判断をしなければいけない時もありますが、そこには説明義務が生じると思っています。人事に関しても、理由を聞かれたら必ず答える。説明されない理不尽さは、相手のモチベーションを下げてしまう。

 全員が4番打者になれるわけではないけれど、そこに挑戦させるように仕向けていくことです。昇進した部下によく言うのが、「お前がいたところから見る風景と、今立っている場所から見る風景は違うよな? その風景を今度は下のやつに見せてやれよ」。すると、その人はもっと遠くの景色を見始めます。「その風景に届くには何が足らないと思う?」と問いかけ、自分のハードルを上げさせる。一方で、昇進できなかった部下に対しては、「こけたと思わなくていい。自分の成長を止めたらここで終わるよ」と伝え、挑戦する気持ちを促すようにしています。

 私が社員に望むのは、前を向いていこうということ。「前向き人生損はなし」がモットー。向上心を持ち、勉強を怠らない人であってほしいと思います。

取材=麓幸子:日経BP社 日経BP総研フェロー 文=西尾英子
(2018年4月3日にサイト「ヒューマンキャピタルOnline 」のコラム「麓幸子の働き方改革&女性活躍最前線!」に掲載された記事を転載しています)

Profile麓 幸子(ふもと・さちこ)
日経BP総研フェロー。1984年筑波大学卒業、同年日経BP入社。88年日経ウーマンの創刊メンバー。2006年日経ウーマン編集長。15年日経BP総合研究所副所長。17年日経BP総研マーケティング戦略研究所長。18年現職。法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。内閣府、林野庁などの有識者委員を歴任。筑波大学非常勤講師。著書は「女性活躍の教科書」「仕事も私生活もなぜかうまくいく女性の習慣」など。


関連記事

日経ウーマンオンラインの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

仕事術 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

仕事術 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索