《野球太郎ストーリーズ》楽天2012年ドラフト2位、則本昂大。悩んだ末にプロへ進む三重中京最後のエース

《野球太郎ストーリーズ》楽天2012年ドラフト2位、則本昂大。悩んだ末にプロへ進む三重中京最後のエース

4年春の大学選手権で20奪三振というセンセーショナルな活躍を見せた最速154キロの剛腕・則本昂大(三重中京大)。社会人かプロか、進路に迷いながらも最終的にはプロへの強い意志を貫き、楽天から2位指名を受けた。今年度で廃校となる三重中京大・最後のエースがその名を全国へととどろかせる。

◎スカウトが認めた進化

「体の強さ、ボールの強さ、気持ちの強さ。今の楽天に必要なものを彼は備えているんです」

 楽天の山田潤スカウト(東海地区担当)は、則本昂大の指名理由をそう話し、印象に残るシーンとして4年春の三重学生リーグ開幕戦を挙げた。

「以前はテークバックが背中側に大きく入り込み、(よくないとされる)アーム気味の腕の振りでした。球速を追うあまり、強引になっていたんです。ところが、テークバックがコンパクトになり球持ちがよくなっていた。本人が気づいて修正したようで、これは楽しみだなと。馬力頼みになっていたのを修正し、成長したというのは、向上心の表れです」

 大学生のドラフト候補の中には、4年時に停滞し指名を見送られる選手もいるが、則本は最後の1年で進化を見せた。

 怪腕自身も4年春、「この冬は大学生活で一番練習しました」と手応えをつかんでいる。「フォームも安定しつつあります。左足を上げたときに肩が突っ込まないようにすること。テークバックで力を入れ過ぎず、リリースだけに力を集中させること。その辺を意識し、質のよいボールが投げられています」。不調ならば打たせて取る大人の投球も可能になった。

 精神面でも工夫した。イニングが始まる前にマウンド上でゆっくりと息を吐き、集中力を高めるルーティンを採用したのもこの頃だ。「詰めの甘さをなくすためです。いつも以上に意識しようと」。

 努力は鮮やかに実を結び、6月の大学選手権でブレーク。初戦の大阪体育大戦で、9回までに大会記録へあと1に迫る18個の三振を奪い、球速は151キロを計測。タイブレーク方式の延長10回に勝ち越されたが、計20奪三振をマークしてその存在を知らしめた。全国デビューはすでに2年春に果たし、そのときも東京ドームで140キロ台後半のストレートを連発していたとはいえ、今回の「20K」はインパクトが違った。

◎三重学生リーグでは無敗も…

 2年春から6シーズン、先発投手としてフル回転した則本は、三重学生リーグでは負け知らずで防御率は0点台。すべてで優勝し(三重中京大としては11連覇)、表彰選手の常連になった。

 ただ、地方ゆえ、リーグのレベルが必要以上に疑問視されがちで、かつては則本懐疑論がなかったわけではない。

 苦汁をなめた試合もある。3年春、全国切符を争う東海大会で日大国際関係学部に3回5失点でKOされた。2回まで好投も、3回の先頭打者に二塁打を許すとたちまち2被安打3四球。体調が相当悪く、参考外の乱調だったとはいえ、「もともとベルト付近の高い球が中心。ストライクを取ろうとすると真ん中に入って打たれる」とリーグ関係者にささやかれた。大学日本代表候補には書類選考で漏れた。

 同時期、他のリーグの選手に感想を聞いてみると「ズドーンとくる感じで、球速表示ほど速くない」「中京学院大にいた池ノ内さん(亮介・広島育成)のほうが速い」という声も出た。

 しかし最後には本人の練習熱心さが勝った。球のバラつきは改善され、ストレートは伸びを増すなど課題をクリア。有無を言わせぬ結果を残し、雑音を消した。

「こんなに悩むなら、やめたい」

 だが、ドラフトが近づくにつれ問題が起きた。春先、プロを志望しない約束で強豪社会人チームから内定を得ていたのに、6月の大学選手権で自信がつき、夢だった最高峰のステージへ気持ちが傾いてしまったのだ。季節が秋めくにつれ事態は深刻になった。

 厳しい声もあった。あるプロ球団のスカウトは「最初から『プロ待ちOK』にしておけばよかった話。大学生にもなれば自分の言動の影響くらいわかるはずなのに」。本人も板挟みになり「こんなに悩むなら、野球をやめたい」とまで言い出す状況に陥った。

 それでも、プロへの思いは強かった。内定先と話し合いを重ね、2位以内の指名ならプロ入りを認める条件で先方が譲歩してくれた。

◎大学の名を神宮に刻むべく奮投

 三重中京大は今年度限りで閉校する。則本が入学した直後に学生募集停止が発表された。4年生だけの野球部は今年、24人で活動している。後輩がいないため「雑用」も自分たちでしてきた。

 大学にとってもラストシーズンとなる今秋、則本は神宮大会出場をかけた代表決定戦で、引き分け再試合を含めて炎の4連投。楽天・山田スカウトが言う「体の強さ、ボールの強さ、気持ちの強さ」を存分に発揮し、370球を投げ抜いた。

 2日間に及んだ決勝では愛知大学リーグの盟主・愛知学院大を相手に奮投した。このうち、7回降雨コールド(スコアは0対0)となったゲームでは、チェンジアップを封印していた。この球種、則本の投球にアクセントをつけていた好ボールで、同スカウトいわく「フォークだと思っていたんですが、調べたらチェンジアップ。カウント球にも決め球にも使える」。だが、名門大学を向こうに回し、奥の手を使わなくても、140キロ台後半のストレートとスライダーだけで三振の山を築いた。

「チェンジアップは雨で滑る危険性もある。何より、スライダーがキレまくっていたので(使う必要はなかった)」(則本)。

 試合後の囲み取材。全国大会ならともかく、東海エリアの試合で則本を記者が「囲む」という光景、今までなかったような。人が行き交う騒々しいベンチ裏通路で、腹から大きく声を張り、いつもの負けん気強そうな顔で、堂々と質問に答えていた則本。プロ向きだと予感させた。入社を心待ちにしていた内定先の企業チームに迷惑をかけ、ドラフト間際まで東海地区のスカウトたちを振り回したが、あとはプロで暴れるだけだ。

(※本稿は2012年11月発売『野球太郎No.002 2012ドラフト総決算プレミアム特集号』に掲載された「26選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・尾関雄一朗氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)


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