【ワシントン=田中宏幸】米国の4月の雇用統計や失業保険の新規申請件数などの結果を受け、金融市場の関係者から、米労働市場が減速に転じる可能性についての指摘が出ている。好調な労働市場を背景に、米国では2%を超える高いインフレ(物価上昇)率が続く。減速傾向が強まれば、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ判断も左右しそうだ。

失業保険申請増

 今月3日発表の4月の雇用統計では、景気動向を反映する非農業部門の就業者数が前月比17・5万人増となり、伸びは3月から縮小した。市場予想(24・3万人増)や雇用の改善を示す目安とされる20万人増を下回った。1〜3月の雇用統計はいずれも市場予想を上回っていただけに、市場では意外な結果と受け止められた。

 また、インフレに影響する平均時給の前年同月比の伸び率も3・9%で、2021年6月以来、2年10か月ぶりに4%を切った。

 その後に発表された経済指標でも同様の傾向は続いている。4日までの1週間の失業保険の新規申請件数は23万1000件で、昨年8月末以来、約8か月ぶりの高水準だった。

消費「慎重に」

 労働市場の変化は、米国の個人消費にも影響を与えている可能性がある。

 米ミシガン大学が10日に発表した5月の消費者信頼感指数(速報値)は67・4と、6か月ぶりの低水準に落ち込んだ。指数は消費者心理の浮き沈みを数値化したもので、生活費の上昇のほか、失業に対する懸念が影響したとの指摘がある。

 米スターバックスが4月30日に発表した24年1〜3月期決算は、売上高が前年同期比2%減で、20年10〜12月期以来、約3年ぶりの減収となった。レイチェル・ルゲッリ最高財務責任者(CFO)は電話会議で、「消費が明らかに慎重になっており、店舗ごとの来店客数が大きく減った」と説明する。

 市民からも「外食での出費には気をつけている。ファストフードなのに1品で20ドルかかる」(ワシントン在住の政府職員)などの声が上がる。

インフレ率2%超

 FRBは22年3月以降、歴史的なインフレの抑え込みに向けて投資や消費の過熱を冷ますため、異例のペースで利上げを進め、政策金利は現在、年5・25〜5・50%と高い水準にある。しかし、インフレ率は目標の2%を上回り続け、早期利下げを巡る市場の観測は後退を続けてきた。

 FRBのパウエル議長は今月1日の記者会見で、利下げに踏み切る条件の一つとして「労働市場が予想外に弱くなった場合」を挙げた。その後に発表された雇用統計などの結果もあり、市場では利下げ判断の時期に注目が集まっている。

 市場関係者の見通しを反映する米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の10日夜時点のデータで、利下げ時期を「9月」と見込む投資家は1週間前の4割程度から5割近くに増えている。ニッセイ基礎研究所の窪谷浩・主任研究員は、「金融引き締めの影響もあり、労働市場の減速傾向は続く。ただ、賃金上昇率は高く、FRBが早期の利下げ判断に傾く可能性は低い」と分析している。