自由で開かれた香港の「高度な自治」を踏みにじる法律である。「一国二制度」を認めた国際約束を破り、香港への介入を強める中国の措置は、到底容認できない。

 中国の国会にあたる全国人民代表大会が、香港での反体制活動などを取り締まる国家安全維持法を可決、成立させた。

 「国家の分裂」「中央政府の転覆」「テロ活動」「外国勢力などと結託して国家の安全を脅かす行為」が禁じられる。中国の治安当局が香港に出先機関を設置することにしており、香港当局の頭越しでの警察活動が可能になる。

 法の解釈権は、中国が握る。具体的にどのような行為が違法となるのかはあいまいだ。

 香港社会を しゅく させ、中国や香港当局に対する批判を封じ込める狙いは明白である。香港の民主派が欧米の人権保護団体に支援を要請したり、外国メディアの取材を受けたりすることが、「外国との結託」とみなされかねない。

 安全法に関わる行為を審理する裁判官は、香港政府トップの行政長官が指名する。長官は中国政府の指導下にある。香港の「司法の独立」の否定ではないか。

 社会主義体制の中国で、香港に返還後50年間、英国領時代と同様の資本主義を認める。「一国二制度」の理念は、1984年の中英共同宣言で保障されている。安全法は、国家間の約束の違反だ。

 中国は国際的批判の高まりにもかかわらず、早期成立に動いた。香港では9月に議会選挙が予定され、立候補受け付けが7月中旬に始まる。民主派を締め付け、選挙での親中派の勝利を確保することをもくろんでいるのだろう。

 安全法を根拠に、候補者が中国への忠誠の宣誓などを迫られる可能性がある。法の強引な運用は、中国の国際的な信認度をさらに低下させることになる。

 安全法は、法の支配や人権、民主主義などの普遍的価値観に対する挑戦と言える。菅官房長官は遺憾の意を示し、「関係国と連携して対応していく」と語った。日本と欧米は一致して中国に強硬姿勢の転換を求めねばならない。

 香港の民主派からは、早くも活動停止や自粛の動きが出ている。「中国化」の進行を懸念して移住を望む人も増えている。

 経済の自由度を生かした香港の国際金融・貿易センターの地位は危うい。米国は香港への優遇措置を撤廃する制裁を進めている。中国自身の損失が大きいことを習近平政権は自覚すべきだ。