<隠れた名盤>上野優華『今夜あたしが泣いても』語るように、温かく、軽やかに…そして涙声も

 98年徳島県出身の女性によるミニ・アルバム。15歳でデビューした時と同一人物と思えぬほど、語るような歌い方がすっかり板に付いた。

 二股をされて本命じゃない方の女性のやるせなさを呟くように歌った『こっちをむいて』(コレサワ作詞・作曲)、告白できずに募らせた不安をシリアスに歌った『迷子』(奥華子作詞・作曲)など、全7曲はどれも失恋や片想いがテーマだ。それでいて、まったりとした雰囲気の『冬色シルエット』では温かく歌い、自己紹介系の『メロンパンのうた』では軽やかに歌うなど決して単調ではない。

 特に聴かせるのは、wacciの橋口洋平作詞・作曲の『あなたの彼女じゃないんだね』。最後のデートの待ち合わせから、喫茶店、別れる瞬間まで、時間が進むにつれ涙声に近くなる点が秀逸。また、歌詞の一部をSNSで募集したという『私の歌』は、本人の上京した想いとリンクするのか、あるいはネット上の言葉が多いためか、これまで以上に力強い歌唱が印象的だ。全体として感情的に歌っているが、決して演劇的じゃない。作詞に関わったのは1曲のみだが、シンガーソングライター以上に言葉を自分のものにしているように感じた。

 ラストは古内東子作詞、松本俊明作曲によるムーディーな『おぼろ月の夜に』。こちらは、大人の色気が伴った数年後にもっと上手くなりそうだ。ともあれ、本作を聴けば、失恋しても、失敗しても決して終わりじゃないという体温を感じるはず。

(キング・通常盤 2200円+税)=臼井孝

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