韓国は「即位礼」に首脳級を派遣するのか  関係修復へ年内に「三つの機会」

By 内田恭司

 「戦後最悪」となった日韓関係は、9月に入っても修復の兆しが見えない。日本の輸出管理強化に対する韓国の反発はやまず、元徴用工訴訟問題は袋小路に陥ったままだ。日韓の当局者は、関係修復につながりうるとして、年内の三つの機会に注目するが、双方が真剣に取り組まない限り進展はない。両国関係はさらに悪化していくのだろうか。(共同通信=内田恭司)

8月17日、韓国・釜山に設置された元徴用工を象徴する像の周辺で開かれた 集会

 ▽韓国は内閣改造を注視

 三つの機会とは、9月11日実施が決まった内閣改造、10月22日に行われる天皇陛下の「即位礼正殿の儀」、そして12月下旬開催で調整が進む中国での日中韓首脳会談だ。

 内閣改造で韓国は、河野太郎外相と世耕弘成経済産業相の去就を注視する。河野氏は元徴用工訴訟問題を巡る韓国の対応を厳しく批判し、世耕氏も輸出管理強化で厳格な姿勢を貫いてきた。「二人が代われば雰囲気が変わる。対韓外交を見直す動きが出てくるかもしれない」(韓国政府関係者)というわけだ。

 確かに駐韓大使に加え、外務省のアジア大洋州局長と総合外交政策局長もほぼ同時期に交代するため、仕切り直ししやすいタイミングではある。だが、元徴用工訴訟問題で韓国に対応を迫る安倍首相の姿勢に変化はない。与党内には、この機会に「政権の基本方針を徹底させることになる」(自民党ベテラン議員)との見方もあり、内閣改造が関係修復の呼び水になるかは見通せない。

 それよりも注目を集めるのは即位礼の方だ。米国がペンス副大統領、中国が王岐山国家副主席の参列を決めた中、韓国は何も表明していないからだ。

 即位礼には200近い国から国王や元首、首脳クラスが参列すると予想される。この場に韓国は誰かを送り込むのか。平成の即位礼にならえば、有力候補となるのは「知日派」とされる首脳級の李洛淵首相だ。

 ▽かつては天皇訪韓に期待

 李首相は昨年3月、ブラジルで開かれた「第8回世界水フォーラム」に出席された皇太子時代の天皇陛下と会話を交わした。当時の韓国メディアによると、李首相は「韓日関係の発展に努力していく」と伝え、天皇陛下は「歴史を学ぶ人として、過去を反省した上で良い関係が築かれることを願う」と述べられたという。

 この対話には伏線がある。韓国が2015年に第7回フォーラムを自国開催した際、天皇陛下を招待した。将来の天皇初訪韓の実現をにらみ、まずは皇太子としての訪韓を求めたわけだ。出席は見送られたものの、ブラジルで李首相は、改めて天皇訪韓への「期待」と、即位礼を念頭に東京で再会したいとの希望も伝えたのだという。

 現時点で韓国大統領府は李首相の派遣に前向きのようだ。日韓議員連盟の河村建夫幹事長が今月初めに訪韓し、李首相と会談した。即位礼の件も話し合ったのだろう。

 李首相が出席すれば、日韓関係の行方を占う三つ目の機会である日中韓首脳会談につながっていく。この場での日韓首脳会談実現に向けた環境整備になりうるからだ。

9月4日、首相官邸に入る安倍首相

 ▽売却手続き開始なら日本は対抗措置

 だが、韓国は李首相を派遣できるだろうか。韓国内の反日感情が収まらない中、李首相の参列には強い反発が出る可能性が高い。韓国は近く、日本を輸出管理上の優遇国から外す見込みだ。日韓間の亀裂はさらに深まり、李首相の訪日は困難度を増す。

 欠席すれば日韓関係の毀損はさらに進み、11月23日の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効が駄目を押す。首脳会談開催の機運は霧散するだろう。

 年内の三つの機会が注視されるのは理由がある。元徴用工訴訟判決を受けた日本企業の資産売却手続きが年内に始まる可能性があるからだ。日本は日韓請求権協定の事実上の破棄と受け止め、日韓関係は取り返しがつかない状況となる。そうなる前に関係修復の糸口をつかむ必要があるというわけだ。

 仮に売却手続きが始まれば、日本が対抗措置を取るのは間違いない。しかし、文政権が融和姿勢に転ずるとは考えにくく、逆に4月の韓国総選挙を前に求心力を高めようと、反日姿勢を一層強める公算が大きい。日韓外交筋の間では、文大統領は来春の竹島(韓国名・独島)防衛定期訓練を「初視察」するのではないかとささやかれる。

 安倍政権は、総選挙後を関係修復の「最後の局面」(外務省幹部)と捉え、文政権の出方を見極めることになるだろう。ただ韓国への要求は「賠償放棄」(同)の一点に尽きる。元徴用工への補償は韓国政府の責任で行うというものだ。

 先行きの予想はしにくいが、選挙が終われば、韓国内の政治力学がどう変化しようとも「静かな環境」はやってくる。そこで文政権がどのような判断を下すのか。それでも非妥協的な態度を貫くのなら、これが日韓間の「新たな常態」だと見極め、関係を再定義していくことになるのではないか。

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