瀬戸大也「萩野は戦友で同志」 東京五輪は自分が納得できるように

2019年11月の東京都オープン400メートル個人メドレーのレース。手前が優勝した瀬戸大也、奥が2位の萩野公介=東京辰巳国際水泳場

 競泳ニッポンのエースに成長した瀬戸大也(ANA)にとって、2016年リオデジャネイロ五輪男子400メートル個人メドレー金メダルの萩野公介(ブリヂストン)は特別な存在だ。(聞き手、共同通信=吉田学史)

 ―萩野との関係について。

 「自分の中では戦友と思っている。同じ日の丸を背負って戦っていく同志。今年は(萩野に)元気がなくて、寂しさを感じていた。張り合った方が刺激的だし、試合に出て行く中で日の丸が二つ決勝のコース台に並ぶと、見ているファンの人たちも誇りを持って見てくれると思う」

 ―萩野と初めて会ったのは小学生の時。

 「衝撃的だった。速すぎて」

 ―絶対に勝てないと思った時期はあるか。

 「それは一切、全く思っていなかった。『絶対に将来は勝つ』というふうに思っていた。『無理だな』とは全く思わなかった。毎回『勝つぞ、勝つぞ』と思いながら泳いで、ぼこぼこにされても『速いなあ』と思うだけ。『無理だ』とは思わなかった」

 

17年日本選手権男子400メートル個人メドレーで初優勝した瀬戸大也(右)と2位になった萩野公介のゴール。100分の1秒差だった=ガイシプラザ

 ―そう思える要因は。

 「父親の育て方だと思う。『無理とか駄目とか言うと言霊で本当にそうなる。ポジティブなことを言いなさい』と教えられていた」

 ―萩野に追いつけると思ったタイミングはあったか。

 「中学2年の全国中学校体育大会は公介がぶっちぎりの優勝で自分が2番だった。その直後の全国JOCジュニアオリンピックカップ夏季大会で、高速水着を着て泳いだら、ばーんと抜いて勝った。そこから『一度勝てたからまた勝てる』と思うようになった」

 ―初めて勝ったときの感想は。

 「浮かれていた。中学新記録だったし『ついに来た』という感じ。最後の自由形に入るとき、ほぼ同時にターンしたが、そこでアドレナリンが爆発した。『ここまで来たら絶対に負けない』という気持ちで勝てた。その経験が強みになって13年の世界選手権(400メートル個人メドレーで下馬評の高かった萩野を抑えて初優勝)とかにつながったと思う。リオデジャネイロ五輪もそういう勢いでいこうと思ったが、勢いだけでは届かなかった。やはりしっかりとした準備が必要。東京五輪はしっかりと準備をしつつ、さらに勢いにも乗れたらかなりのものになる。そういうところを目指してやっている」

リオデジャネイロ五輪の男子400メートル個人メドレーで優勝した萩野公介と3位の瀬戸大也(左)

 ―常に萩野と並べられてきた。

 「めんどくさいとか、嫌だなとか思ったことはない。自分が引っ張ってもらった面もあるから、すごくありがたいところがあった。でも、リオ五輪の時に『ワンツーフィニッシュしたい』と自分で言っていたのは、周りのことを気にしすぎていたと今は思う。ワンツーフィニッシュという発言は、勝負しにいく感じではなかった。ワンツーじゃなくて、最初から金メダルだけ目指せばいいのに。今思うと気持ち悪い。もったいないことした。次の東京五輪は、公介のことは置いておいて、自分が納得いくようにしたいと思っている。公介のコンディションやタイムは気にはしているが、4年前ほどではない。今は自分のことしか考えていない」

 

13年の世界水泳、男子400メートル個人メドレーで金メダルを獲得した瀬戸大也(奥)と5位に終わった萩野公介=バルセロナ(ゲッティ=共同)

 ―そう思うようになったきっかけは。

 「18年の日本選手権で、3種目とも2位で国際大会の代表に決まって満足している自分がいた。その後のパンパシフィック選手権のポスターに起用されたが、2番なのに、そういうのに呼ばれて満足していた。でも、まだ何の夢も達成していないのに、何を満足しているんだ、と自分に活を入れた。誰のためにやるかということではなく、自分のために頑張ろうという気持ちが一番になった。そこにしっかりと気付くことができて、気持ちを入れ直してやれたのが、今の強さにつながっている」

 ―萩野の休養について。

 「モチベーションの部分で、五輪の金メダルを取れたらそういう気持ちにもなるんだろうなと思った。休養中には、自分から誘って食事にも行った。プライベートで会うことで少しでも刺激になればと思った。自分がここまで来るにあたって、一緒に上がってきたという感覚がある。公介も、年齢的にもまだまだできると思うし、少しでも一緒に戦いたい気持ちが大きかったので、リフレッシュになったらいいなと。水泳の話は全くせず、本当にたわいもない男同士の会話をしながら、おいしい肉を食べた」

17年2月、日本水連の強化合宿で笑顔の瀬戸大也(左)と萩野公介

 ―ようやく萩野も復帰した。

 「東京五輪まだ時間がある。結婚も決まって赤ちゃんも生まれれば、スイッチも入るのではないか。でも、負ける気はさらさらない。張り合いがあった方が楽しいし、見ている人たちも、公介が戻ってくれば2倍注目してくれると思う。それはうれしいこと」

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