代議士が刑務所に入って気づいたこと 排除ではなく手を 山本譲司元議員に聞く 司法×福祉、次の10年へ(7)

By 真下 周

インタビューに応じる山本譲司氏

 作家の山本譲司元衆院議員(57)は、衆院議員時代に秘書給与詐取事件を起こし2001年から1年2カ月、黒羽刑務所(栃木県)で服役した。この時の経験をノンフィクションに著し、福祉施設化する刑務所の実態と「累犯障害者」の存在を明るみに出した。いわばパンドラの箱を開けた人物で、司法と福祉の連携が動き出すきっかけとなった。山本氏はこの10年をどのように振り返り、次の10年に何を見据えているのかを聞いた(共同通信=真下周)。

 ▽まだまだと痛感

 ―現在も刑務所と関わり続けている。

 「18年前の今ごろは囚人服だった。その1年前は赤絨毯の上を歩いていた。黒羽刑務所で私に与えられた懲役刑は、高齢・障害受刑者の世話だった。議員時代はえらそうなことを言っていたが、福祉のことを何も分かっていなかった。服役後は障害者福祉施設で働き、今も週に1、2回は各地の刑務所に行き、受刑者の社会復帰を支援している」

 ―今の刑務所でどんな光景が見えているか。

 「先日、再犯者向けのある刑務所を訪問すると、黒羽で一緒だった受刑者を何人か見かけた。ある知的障害の男性は10年ちょっとの間に5回も出所と入所を繰り返していた。彼は、当時は周りの受刑者におびえていたが、今では懲役生活も板につき、肩をいからせ歩いていた。外見ですぐに障害があると分かるのに、すくい切れていないと思うと、本当に切ない気持ちになった。

 私も06年に厚生労働省と法務省に働き掛けて、地域生活支援に乗り出すきっかけとなる研究班をつくったり、ホームレス支援の関係者らと更生保護や就労支援の団体を設立したりして頑張った気になっていたが、まだまだだと痛感した」

 ▽隔世の感

 ―司法と福祉の連携はどの程度進んできたか。

 「全国の刑務所に社会福祉士が配置されるなど、国の対応も少しずつ改善されている。今は年約2万人の出所者のうち600人が福祉事業所につながる。私が獄中体験を描いた『獄窓記』(03年)を出した頃は出所者が2万8千人ぐらいいたが、福祉につながるのはわずか10―15人だった。隔世の感がある。

 出版した当時は福祉関係者から『罪を犯した障害者の話が世に出れば、障害者への誤解と偏見を生む』と抗議が相次いだものだ。だが今は『彼らは罪を犯すところまで追い込まれた最大の被害者』との共通認識で一緒に動けている」

 ―本人の幸せよりも再犯防止にばかり力点が置かれていないか。

 「福祉が『再犯防止』の標語を唱えてしまうのは考えものだ。福祉は生き直しを手伝うだけで司法の肩代わりではない。『絶対に真人間に』と肩に力が入った支援では駄目だ。累犯障害者は『刑務所が楽で生活しやすい』と思いがちだが、『社会の方がいい』と本気で思えたら、必ず変わる。再犯しなくなる」

 ―どういう支援のあり方が望ましいか。

 「各地の『地域生活定着支援センター』を見ていると、障害福祉や高齢者介護よりも、ホームレス支援の事業者が運営する方が合っていると感じることが多い。生活全般を地域の中でサポートするからだ。障害者や高齢者向けの福祉はある意味、制度の枠組みにくくりつける。受刑者にとっては1本のレールに乗せられる感覚だ。窮屈に感じ、支援を求めない人も多い。

 京都アニメーション放火事件の青葉真司容疑者は(定着支援センターが出所時に支援したが)、結局、社会に出てから独りぼっちだったようだ。行政は『生活保護を受給させておけばいい』といった対応で済ませていなかったか。支援は形だけ整えても意味はない。  03年に障害者福祉サービスが(行政主導の)措置から(事業者と利用者の)契約に変わった。その結果、事業者が利用者を選んでしまっている現状がある。出所者から選ばれる福祉を目指してほしい」

静岡県地域生活定着支援センターの啓発研修で講演する山本譲司氏

 ▽排除でなく包摂を

 ―次の10年、司法と福祉の連携はどうなっていくか。

 「定着支援センターはもう少し使い勝手をよくするべきだろう。現状は刑務所の所在地にあるセンターと帰住予定先にあるセンターとがやりとりをしながら進めていくが、ワンストップにすべきだ。同時に就労支援も一緒に行うようになればいい。

 刑務所のあり方もこの先、劇的に変わっていくだろう。国際的な刑事司法の流れは、犯罪をした人の社会内処遇の追求に向かっている。受刑者の処遇を、福祉的な視点で社会の中でやる。社会の中に刑務所があり、刑務所の中にも社会があるというイメージだ。そう思えるだけで受刑者も変わる。責任感が増し、自律性が高まるだろう」

 ―社会に向けてのメッセージを。

 「一番困っている人、排除されやすい人にもっと手を差し伸べよう。司法の人は罪ばかりを見て、福祉の人は障害ばかりを見て、多くの市民は自分との違いばかりに目を向けてしまっている。異質なものをイクスクルージョン(排除)せず、インクルージョン(包摂)したい。

 出所者本人の安心、安全はいずれ地域社会の安全につながる。塀の中の住人約4万人の半分は毎年、社会に出てくる。いつ電車で乗り合わせるかもしれない。想像することから始めたい。(終わり)

  ×  ×  ×

 1962年、札幌市生まれ。菅直人氏の公設秘書、東京都議を経て衆院議員(旧民主党)。著書に「獄窓記」「累犯障害者」など。近著に若者向けの「刑務所しか居場所がない人たち」がある。

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