希少な野生ラッコ、北海道で繁殖 国内の水族館では消滅寸前、わずか6匹

 

北海道浜中町の霧多布岬周辺で撮影されたラッコの親子=2月(片岡義広さん提供)

 ぷかぷかと波に合わせて揺れたかと思えば、思い立ったようにくるくると体を回転させ、前足を忙しく動かして毛繕いを始める。 

 こんな野生のラッコの姿を、年間通して観察できる希少な場所が日本にある。北海道東部、浜中町の霧多布岬だ。日本の水族館では消滅の危機となっているという背景もあり、観光業界などでは歓迎の声が上がっている。(共同通信=大日方航)

片岡義広さん=8月、霧多布岬

 「ほら、あそこだよ」。岬周辺のラッコの写真集を出した片岡義広さん(72)は、望遠鏡をのぞき込み声を弾ませた。波間に頭を出して漂っていたラッコは、ほどなくして岩陰に姿を消した。

 

 ラッコはイタチ科の哺乳類で、千島列島から米国沿岸に生息する。良質な毛皮を持つため乱獲され、20世紀初めに日本からは姿を消したと考えられていた。

 片岡さんは北方領土のラッコが生息域を広げ、浜中町で目撃されるようになったと推測する。札幌から浜中町に引っ越した1985年に、初めてラッコを見掛けた。

 2012年以降は毎年見掛けるようになり、17年は雌2匹、雄1匹が確認された。新たな雄も加わり、19年までに赤ちゃん4匹が誕生。成獣に育ったのは1匹だけだが、今年4月には5匹目、10月には6匹目が生まれた。片岡さんによるとラッコは大人同士の争いに巻き込まれて子どもが死んでしまうケースが多いといい、「繁殖は簡単ではない。何とか子孫を増やしてほしい」と願う。

 野生のラッコが見られる、という情報はじわじわ広がり、浜中町の川村旅館の担当者によると「最近、一眼カメラを持ってラッコを撮影しにくる客を見かけることが増えた」という。東北海道トラベル北見本店の湯本勝也営業統括部長は「厚岸のカキを食べ、霧多布岬にラッコを見に立ち寄るなど、魅力的な旅行プランの提案を検討したい」と声を弾ませた。

霧多布岬周辺で撮影されたラッコの親子=6月(片岡義広さん提供)

 日本動物園水族館協会(東京)によると、ラッコは、ピーク時の1994年には国内28施設に122匹がいた。現在は野生の生息数が減少したため取引が規制されており、国内の水族館でも珍しい存在になっている。11月4日現在、鳥羽水族館(三重県)や須磨海浜水族園(兵庫県)などのわずか6匹だという。

霧多布岬周辺で撮影されたラッコの親子=4月(片岡義広さん提供)

 

 野生のラッコの繁殖には、同協会も期待を寄せる。岡田尚憲事務局長は襟裳岬で漁業被害が出て、環境省が捕獲されたゼニガタアザラシを2016年以降に各地の水族館に譲渡したのを例に「ラッコが増えて捕獲されるようになれば、水族館で受け入れられるかもしれない」と話す。

 一方、霧多布岬で順調に繁殖が続いた場合、漁業との共生が将来的な課題だ。ラッコは大量の魚介類を食べるため、ウニ漁が盛んな地元では「大きな漁業被害が出ないか不安」(浜中漁協関係者)との声も上がっている。

 

 現在は目立った被害はないというが、浜中町の担当者は「漁師との共存も考えながら、観光資源としての活用を模索していきたい」と強調した。

ラッコの姿を追う片岡義広さん=8月、霧多布岬

  霧多布岬から肉眼でラッコを見られるタイミングもあるが、望遠鏡があった方がいい。 片岡さんは「(見物場所の)遊歩道から外れて歩かないで」とルールを守って観察するよう話している。

霧多布岬周辺で撮影されたラッコの親子=6月(片岡義広さん提供)

© 一般社団法人共同通信社