東京五輪へハンドボールの顔はTikTokでも人気者 土井レミイ杏利主将 アスリートは語る(6)

 2021年に8大会ぶりの五輪出場を控えるハンドボール男子日本代表の主将と、動画投稿アプリ「TikTok」で170万を超えるフォロワーを持つ人気投稿者「レミたん」。〝二つの顔〟で注目を集める土井レミイ杏利に、1年延期となった東京五輪への思いや、SNSを用いた競技普及について聞いた。(共同通信=伊藤彰彦)

左:男子アジア選手権2次リーグのバーレーン戦で、シュートを放つ土井レミイ杏利=2020年1月、クウェート市近郊、右:本人のTikTokから

 ▽五輪延期、ハンド界に好都合

 ―五輪延期決定時の受け止めは

 2秒落ち込んで復活しました。「やっぱりこうなってしまったか」という思いと、でも考えたら、ハンドボール界にとっては好都合なことが結構ある。若い選手が多いので、彼らが成熟するのにもいい時間になりますし、五輪が終わるまでがアスリートの一番注目される時期じゃないですか。だから日本ではマイナーと言われているハンドボールも注目されるわけで、その期間が1年延びたっていうのはこれからハンドボールの認知度を上げていくにはもってこいの判断になったんじゃないかなと

 ―土井選手個人としては、この延期の時間をどう使うか。

 キャプテンとして経験を積む時間が増えたというのと、その立場を利用していろんな活動ができるなと思う。その肩書があるかないかでは(周囲の)見方も変わってくると思うので、それをうまく利用させていただきたい。

男子アジア選手権2次リーグのバーレーン戦で、シュートを放つ土井レミイ杏利(中央)=2020年1月、クウェート市近郊

 ▽満員の雰囲気の中で

 ―新型コロナウイルス禍での大会開催についての考えは。

 アスリートである前に一人の人間なので、強行的に大会を行ってしまうよりは、みんながリスクのない状態で試合ができるっていうのが今の環境ではベストだと思う。有観客、無観客とか、いろいろな話が出ているけど、アスリートとしてはホームで行われる五輪は満員の素晴らしい雰囲気の中でなければ正直、やりたくない。

 ―日本ハンドボール界にとって東京五輪の持つ意味は

 今後の日本のハンドボール界を大きく変える一つのきっかけになり得る大会。変えられるかどうかは僕ら次第。僕はハンドボールの試合を一回見てもらえれば絶対に好きになってもらえるという自信がある。

 ▽感謝の姿勢と勝利へのこだわり

 ―今夏、どういう姿を見てほしいか。

 五輪が無事に行われるのであれば、やっぱり世界中の一人一人が新型コロナに対する意識を高くもって、改善を考えていたからこそだと思う。それがあってこその、われわれアスリート。そこへの感謝の気持ちも忘れずに恩返しのつもりで臨みたいと思うので、感謝の姿勢と勝利へのこだわりを見てほしい。

 ―土井選手にとっても五輪は最大の目標。

 ハンドボールを始めて、五輪競技だと知った瞬間から夢でした。

オンラインで取材に応じる、ハンドボール男子日本代表の土井レミイ杏利=2020年10月

 (トップアスリートとして活躍する一方で、TikTokの人気投稿者としてテレビCMにも出演するなど、知名度が急上昇中だ)

 ▽最初は友達を笑わせるため

 ―TikTokを始めたきっかけは

 きっかけは単純で、仲の良かった友達がTikTokにはまっていた。「レミイやったら絶対おもしろいからマジでやって」と懇願されて。やるつもりはなかったんですけど。最初は誘ってくれた友達をちょっと笑わせるためだけに始めました。投稿頻度も少なかったですし、たまにやっている程度でしたね。

 ―「レミたん」というニックネームは

 彼らが僕のことをレミたんと呼んでたいたので、そのまま付けたらそれが定着しちゃったって感じです。

本人のTikTokから

 ▽衝撃的なほど記憶に残る

 ―当初は見られる数は多くなかった。

 もちろん、フォロワーだって0でした。ただTikTokってフォロワーがすごく増えやすいアルゴリズムになっているんです。それのおかげでいつの間にかどんどん増えていって、ある日、当時の感覚からするとすごい「バズった」(広く話題が拡散された)動画があって、その時は一日でフォロワーが3千人ぐらい増えたのかな。その時にTikTokの可能性に気付いて、本格的にハンドボールを広めるのに使えるかもしれないっていうのに気付いて、方向性を自分で定めたって感じですね。

 ―投稿で意識していることは。

 戦略的に、ハンドボールのことはほとんど載せていないんです。ハンドボールの動画ばかり載せていても、ハンドボールに興味がない人は結局見ないんですよ。だからそこに対してどう攻めていくべきなのかといったら、まず僕自身を知ってもらって、僕自身のファンをいっぱいつくってしまおうと思ったんですね。それで「え、実はこの人、ハンドボールをやっていて、代表でキャプテンやってるの?」って、後付けでもいいから興味を持ってもらうというやり方をしようと思った。ギャップが大きければ大きいほど衝撃的じゃないですか。衝撃的なほど記憶に残りやすいので、そのシステムを自分でつくった。案の定、ハンドボールを載せたときにものすごい反響がありました。ただギャップがありすぎて、結構な人に「合成でしょ」って言われましたけど(笑)

 ―動画のアイデアはどういうところから

 小さいころからジム・キャリーやミスター・ビーン、志村けんさんとか、体だけで表現して笑いを取るのがすごい好きだった。それって国境がないし、好きな笑いだったんです。だからよく小さいころからまねしていたっていう、もともと持っていたものがあって、それにプラスしてTikTokはその都度トレンドというものがあって、みんなが同じ事をやっているんです。そこに自分なりの色を加える。アイデアはそこらへんにあるものを自分でアレンジして生み出していることが多いですね。一から生み出しているものも多くあります。

 ▽「ハンド部に入りました」

 ―実際にハンドボールへの好影響などは

 興味を持ってもらって、試合会場に足を運んでくれたらもう万々歳だなという感じだったんです。でも最近、コメント欄で「レミたんの影響でハンドボール部に入りました」っていうコメントがめちゃくちゃいっぱいあったんです。そういう直接的な影響、ハンドボールの人口を増やすという影響を与えられるって僕はちょっと想像していなかったので、すごいうれしかったですね。函館でやった試合のちょっとしたハイライトを載せたらそれもすごい反響があって、「来年ハンドボール部に入ろうと思います」ってコメントがすごく多くて、直接ハンドボールを始めさせるくらいの影響も与えられるんだなって、すごいうれしかったですね。

 ―アスリートとSNSに関わり合いについてどう考えるか

 やっぱり時代の移り変わりに乗っかっていける選手というのは、大きく人生を変える流れを自分でつくれる人だなと思いますね。これまでだったらアスリートが表現できる場って試合会場や講演会、講習会しかなかったんですけど、それ以外でいろんな人に自分発信で競技の魅力、自分の魅力というのを伝えることができるので、今後はさらにSNSとアスリートの関わりは強くなっていくと思います。

 ―ハンドボール界全体では

 ハンドボール界はそういった面ではまだちょっと一歩遅れているんじゃないかな。たとえばビッグクラブであるサッカーのバルセロナ、レアルマドリード、NBAのチームもそうですけど、やっぱり動きが速いんですよね。トレンドをすぐ入れて自分たちのプラットフォームをつくっちゃうみたいな。今後のハンドボール界を変えるのであれば、やっぱり流行に敏感になって、早めに取り入れてどんどん先駆けてやっちゃう。それぐらいの勢いでやれば変わってくるんじゃないかなと思います。

男子アジア選手権2次リーグのサウジアラビア戦で、シュートを決める土井=2020年1月、クウェート市近郊(共同)

 ―土井選手としてどのように活動を広げていきたいか。

 今はTikTokで結構順調にいっているが、完結するつもりはないので、これをうまく利用して他のSNSもそうですし、どう広げていけるかなというところですかね。やっぱりショート(短い時間)でできるというのが僕は楽なんですよね。競技に影響が出てくるのは嫌ですし。

 ―ショートムービーが合っている。

 そうですね。時間があまり取られないので。ベースとして僕はまずアスリートなので。TikTokでは知らない人が多いですけど(笑)ただただこうやって毎日できるだけ投稿しているだけでも結構大変なんですよね。体力的にも。やりすぎちゃっても「競技に集中しろよ」って言われてしまいますしね。

 (1月にエジプトで開かれる世界選手権に出場する。帰国する2月までは投稿を控えるそうだ)

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 土井 レミイ 杏利(どい・れみい・あんり) ハンドボール男子日本代表主将。フランス人の父と日本人の母を持ち、小学3年生で競技開始。膝のけがで日体大卒業時に引退したが、語学留学先のフランスで回復してプロ契約。19年に日本リーグの大崎電気入り。動画投稿アプリ「TikTok」では「レミたん」として人気。31歳。千葉県出身。

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