【米中間選挙】 トランプ氏の無敵状態はいつまで続くのか?

ジョン・ソープル BBC北米編集長

Donald Trump

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その名前は米国全土の投票用紙のどこにもないが、今回の中間選挙は間違いなく、全てドナルド・トランプ氏次第だ。

トランプ氏は選挙戦の中心に自ら飛び込み、選挙直前の数日間、精力的に国中を飛び回ってきた。納税者に支えられた大統領専用機「エアフォース・ワン」が、この党派性の強い目的に使われた。

大統領専用機を使ったトランプ氏の国内行脚は紛れもなく、共和党候補者の支援が目的だ。そしてそれによって結果的に今回の米中間選挙は、トランプ大統領に対する国民投票と化した。トランプ氏は可能な限りあらゆる場所で、議論の条件を一方的に決めた。そして、議論の条件をあれほど一方的に決め付ける人は、トランプ氏をおいていない。

大統領は常に注目を集める存在だ。セオドア・ルーズベルト元米大統領はホワイトハウスを「最高の演壇」と呼んだ。国民の注目を強引にでも集めることで、政策を推し進められる場所という意味だ。

しかしトランプ氏は、自分ならではの演壇を持っている。ツイッター上にいる5500万のフォロワーと、何かと乱暴な物言いだ。

トランプ発言にどう反応するかが、米国の日常の全てになってしまった気もする。支持者は崇拝し、反対者は強く反発する。実際に出馬している候補者は、どうにかして話に割り込もうとする。

それだけに今回の米中間選挙は大いに盛り上がっている。トランプ支持者も反対者も、本当に高揚している。現在のところ、期日前投票を済ませた人の数は4年前の2倍近く。驚異的な数字だ。

セオドア・ルーズベルト元米大統領は、大統領として立つ演壇を、自身の計画を推し進めるのに利用した

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画像説明, セオドア・ルーズベルト元米大統領は、大統領の地位を活用して自分の政策目標を推進した

州によっては、期日前投票の票数が、選挙当日を含めた2014年の投票総数に近づいている。そして、この盛り上がりが果たして何の前触れなのか。もちろんそれこそが、世論調査員、専門家、メディアの私たちが何より知りたいことだ。

我々にはわからないが、手がかりはいくつかある。

人種や性的指向のマイノリティーは、どのような投票行動を取るだろうか? 2016年大統領選より大勢が投票するのだろうか。そして、民主党に入れるのだろうか?

女性について見てみよう。2016年大統領選では、大卒以上の白人女性は52パーセントがトランプ氏支持だった。最新の世論調査では、女性票の獲得では民主党が圧倒的優位に立っている。

女性票は特に、郊外の下院選挙区で大きく響くかもしれない。今回の選挙では史上最多の女性が出馬しているからだ。女性蔑視的だとみなす大統領の存在が出馬理由のひとつだという女性が、少なくない。

動画説明, 米国の有権者、投票の決め手は? 中間選挙目前

若者についてはどうだろうか? 若者は熱くなっている様子だ。多くは大統領に反感を抱いているようだが、実際にベッドから出て投票所に向かうだけの気力はあるだろうか?

そして、大統領の支持者たちはどうだろう。2年前にしたのと同じように、勇んで投票に向かうのだろうか?

トランプ氏は、ある重要な心理学的知見を使って政治を行っている。怒りは、希望よりもずっと長く持続する感情だと、トランプ氏は見抜いているのだ。

そのため、経済面での良い話はたくさんあるのだが(経済成長率は上がり、失業率は下がり、消費者信頼感は上がり、税金は削減され、株式市場は見事に上昇している)、トランプ氏の支持基盤はそれでは盛り上がらない。

気分が良くなる政治だけでは、そこそこの数字しか取れないのだ。

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それよりはるかに強力なのは(反トランプ勢力いわく、はるかに有害なのは)、移民キャラバンへの恐怖をあおる手法だ。トランプ大統領は、中米諸国から北上し、メキシコを経由して米国に向かっている移民集団が米国「侵略」をもくろんでいると主張する。

キャラバンは米国から数百キロ先にいて、徒歩で米国に向かっている。しかしトランプ氏はすでに、国境に数千人規模の米軍を配備した。大統領のメッセージとしては、外国の、病気持ちで犯罪的で、イスラム国(IS)に影響を受けた群衆からアメリカを守るにはこれしかないという。

トランプ氏はさらに、米国で生まれた人は米国籍を取得するという合衆国憲法修正第14条に記された国籍現地主義の権利を廃止したいと表明した。大統領令によって実施すると方針を示したが、法学者の大半はそれが不可能だという見解だ。

ここでもその発言内容は、大統領として実際に何が実現可能か落ち着いて判断しているというよりは、単に支持基盤をあおることだけが狙いのように思える。

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こうした大統領発言によって、共和党の有力者を含む大勢が、はっきりと不快感を覚え、事態を深く憂慮している。トランプ氏のやっていることは、デマゴギーと露骨な大衆主義だと非難もされている。

米紙ワシントン・ポストは、大統領がこれまでについたとされるうその記録をとり続けている。大統領のうそを数える機械は、フル稼働して過熱状態だ。

これに対し、民主党候補の多くは移民問題を無視し(必ずしも成功していないが)、有権者の関心が最も高いとされる医療について議論しようとしている。

しかし、もし大統領の戦術が正しいと証明されてしまったら?

もし共和党が上下両院で過半数を維持し、現職大統領の所属政党は中間選挙で必ず痛手を負うという米国政治の法則が破られたら?

米国の今後の方向性は、今回の結果にかかっているといっても過言ではない。

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共和党が予想に反して上下両院で多数派を維持すれば、トランプ氏の全面的な正当性の裏づけとなる。

トランプ氏は見渡せる限りの全てを政治的に牛耳る、最高権力者となる。たとえロバート・ムラー特別検察官を解任し、ロシア疑惑捜査の解散を命じたとして、誰がそれを止めようとするだろうか?

トランプ氏が貿易戦争を激化させようとしたとして、いったい誰が立ちはだかるだろうか?

トランプ氏が北大西洋条約機構(NATO)から脱退するぞと脅したら、誰がそれを押し戻すだろうか?

トランプ氏が米国とメキシコの間に壁を作るため数十億ドルを要求したら、誰が止めるだろうか?

あなたは間違っているとあえてトランプ氏に忠告しようとする勇気のある共和党員が、果たしているだろうか?

しかし、もし民主党が善戦し、投票結果が当初の予測通りとなって民主党が下院の多数議席を握れば、話は大きく変わってくる。

勢いに乗る野党は、ホワイトハウスを政府手続きの決まりごとでがんじがらめにするはずだ。相次ぐ召喚状で資料提出を命令し、ブレット・キャバノー最高裁判事の任命に関するメール、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の発言内容記録、これまで決して表ざたにならなかった大統領の納税申告書の詳細の開示を求めるだろう。そして、ムラー検察官の捜査予算を増額し、大統領の大事な計画について予算措置をことごとく妨害するだろう。

つまり、トランプ氏に足かせをはめるということだ。

ニューヨークの大富豪だったトランプ氏は2015年の夏に黄金のエスカレーターに乗って大統領候補となって以来、無敵オーラに包まれてきたが、もしこの中間選挙で民主党が躍進すれば、その輝きに初めてひびが入ることになる。そうすればトランプ氏は突如として、打倒可能な存在に思えてくるだろう。

だが、しかし、でも――。

本記事中の句読点のほとんどが、はてなマークになっていることを謝罪する。しかし、1960年代にジミー・クリフが初めて指摘したように、そしてジョニー・キャッシュが1970年代に反復したように、「答えより質問の方が多い」のだ。

結果の予想だって?

2年前にああなったというのに、いまさら私があえてそんな危険を冒すとでも!?

そう、答えは「はてなマークとびっくりマーク」だ。