【解説】 与党の団結より協定を優先、メイ英首相のブレグジット戦略どうなる

ローラ・クンスバーグBBC政治編集長

Theresa May

画像提供, PA

テリーザ・メイ英首相は方向転換しようとしている。首相は2日夜、与党・保守党の欧州連合(EU)離脱派議員を満足させるより、協定の内容に沿ってブレグジット(イギリスのEU離脱)する方を優先すると発表した。

メイ首相は自分こそがイギリスと保守党を完璧に導いてブレグジットを実現できると、そこに固執しすぎていると、与野党のライバルからもう長いこと嘲笑されてきた。

しかし、EU懐疑派議員に離脱協定を否決された後、(7時間も続いた2日の閣議に出席した閣僚の言葉を借りると)メイ首相は保守党の票によってブレグジットを実現したかったものの、保守党のEU離脱派議員もそれを拒否した。

そして今、首相は最大野党・労働党の票を使って、ブレグジットを実現しようとしている。簡単に言えばそういうことだ。

政治上手?

3人の内閣筋によると、労働党の力を借りるとは、労働党が求める内容を協定に含めることを意味する。労働党が要求する関税同盟への参加など6項目は、率直に言えば絶対に達成不可能だと言われてきた。しかしここへ来て、保守党首相があまりに必死なので労働党の要求がすべて実現するなどという事態になるなら、実に皮肉な結末だ。

閣僚の1人は私に、労働党への要請は「ソフト・ブレグジットがいいなら、ほらどうぞ。一緒に作るのを手伝って欲しい」という内容だと話した。これはかなり巧みな政治的手腕ということにもなり得る。つまり、労働党のジェレミー・コービン党首についに選択を迫ることになり得るからだ。

これはブレグジットをめぐり党内対立が続く労働党を束ねるコービン氏にとっても、複雑な選択だ。本当にブレグジットを実現したい党になるのか、最後の最後の最後まで抵抗する党になるのか。メイ首相は実は、コービン氏に選択を迫っているのかもしれない。

閣僚たちは、ここから純粋に生産的な超党的プロセスが期待できるとは思っていない。労働党が順守するような本物の合意が得られると、そこまでコービン氏を信じていいのか、内閣は確信できていない。

もちろんどんな野党にも、政治的に有利になりたいという欲求はある。しかし政治的優位性の誘惑が、私たち国民の利益にとって必ずしも最善だとは限らないというのは、もう前から分かっていることだ。

現代美術館なみの大間違い

今後どうなるかはまだ仮説に過ぎない。しかしその仮説上のプロセスでメイ首相とコービン党首のどちらが決定権を握るにせよ、最後に判断を下すのは議会になるだろう。

ということは、これまで消極的だった保守党のEU離脱派議員たちはついに、首相の離脱協定より良いブレグジットは絶対に実現しないだろうという現実に直面するかもしれない。そうなるとあるいは、最終的に首相の離脱協定は必要な票数を獲得するかもしれない。もっと奇妙な展開は、ほかにもあった。

しかしメイ首相は、保守党相手に危険な手に打って出た。そのため、内部分裂がこのプロセスを中断させる可能性もある。

首相が労働党と手を組もうとしていることについて、保守党のEU離脱派議員や閣僚からは「本物の怒り」が湧き起こっているという。

ある保守党議員は、メイ首相は「芸術的と言えるほどの判断ミスだ。ルーベンスの1枚やゴッホの1枚にとどまらない、テート・モダン(ロンドンにある近代美術館)丸ごと級の間違いだ」と語った。

大きな賭けが現実のリスクになるのはいつものことだ。メイ首相は野党に助けを要請し、譲歩の末に協力を得て、最終的には自分がまとめた離脱協定を可決できるかもしれない。しかしそのころには保守党はバラバラに分裂し、首相の求心力は失われ、首相は二度と政府を率いるどころか、もはや何もできなくなっているかもしれない。

ひとつの疑問

もしメイ首相が労働党と共にブレグジット協定をまとめ、承認までこぎつけたとして、その関係はどれくらい続くのだろうか。

そもそもメイ首相は協定が承認されたら辞任し、ブレグジットの今後を次の首相に任せるとしている。その場合、どうやって持続可能な協定を機能させ、達成するのだろうか。

もしかしたら、メイ首相がもうずっと回答を避けてきた質問には、やっと答えが出たのかもしれない。

保守党の団結、あるいは協定に基づくEU離脱。どちらかを選ばなくてはならないとしたら、首相はどちらを選ぶのか?

怒る人もほっとする人もいるだろうが、メイ首相は協定によるブレグジットを選んだ。