新型コロナウイルス、世界の研究者がワクチン開発急ぐ 今夏の臨床試験を視野に

チューリップ・マジュムダール国際保健衛生担当編集委員

Vaccine

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新型コロナウイルスが猛威をふるっている。1月31日現在で200人以上が死亡し、数千人に感染している。しかし治療法も、ワクチンもない。

私たちは、これまでこうした状況を何度も経験してきた。

過去5年間だけでも、エボラウイルスやジカウイルス、今回とは異なるコロナウイルスが病原体のMERS(中東呼吸器症候群)、そして新型コロナウイルス(2019-nCoV)のアウトブレイク(大流行)に世界は直面している。

新型コロナウイルスによる死者はすでに200人を越え、感染者は数千人に上っている。

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しかし今回は、ワクチンの開発に何年もかかった過去の数々のアウトブレイクとは状況が異なる。新型コロナウイルスの発見から数時間のうちに、ワクチンの研究が始まったからだ。

中国当局は、新型ウイルスの遺伝子コードを非常に素早く公開した。ウイルスの発生源を突き止めたり、アウトブレイク発生後のウイルスの変異を予測したり、市民を守る方法などを見極める上で、遺伝子情報は大いに役立つ。

科学技術の進歩や、世界中の各国政府による、新興感染症に関する研究費の助成拡大により、研究施設は素早く動き出すことができた。

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かつてない感染スピード

米カリフォルニア州サンディエゴにあるイノヴィオ社の研究所では、科学者が比較的新しいDNA技術を用いて、新型ウイルスに効く可能性のあるワクチンの開発を進めている。現時点で「INO-4800」と呼ばれているワクチンの臨床試験は、2020年初夏にも始まる計画だ。

イノヴィオ社のケイト・ブロデリック研究・開発担当副社長は、「中国が新型ウイルスのDNA塩基配列を公表したことで、私たちはその情報を研究所のコンピュータ技術に取り込み、3時間以内にワクチンをデザインすることができた」と述べた。

「私たちのDNAワクチンは画期的で、ウイルスのDNA塩基配列を用いて、人体が最も強く反応するだろう病原体の特定部分を、集中的にターゲットにする」

「次に患者自身の細胞を使ってワクチン製造工場になってもらい、体本来の免疫メカニズムを強化する」

Scientist at Inovio lab in San Diego, CA
画像説明, 科学者は2020年初夏までにワクチンの臨床実験を始めたい考えだ

イノヴィオ社は、初期段階の臨床試験が成功すれば、従来より大規模な臨床実験を「年末までに」実施する方針だ。これは、アウトブレイクが起きている中国で行うことが理想的だという。

それまでにこのアウトブレイクが収束するのか予測はできない。しかし、イノヴィオ社は、もしこの計画が予定通り進めば、過去最速で新型ワクチンの開発や臨床試験が実現するとしている。

直近で同様のウイルスによるアウトブレイクが発生したのは2002年。この時は、重症急性呼吸器症候群(SARS)に関する中国政府の初動が遅く、本格的に何が起きているのかを世界各国に発信する頃には、アウトブレイクはほぼ収束していた。

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新型コロナウイルスの時系列

  • 2019年12月31日- 中国が世界保健機関(WHO)に対し、武漢で肺炎に似た症例が多発していると通達
  • 2020年1月1日- アウトブレイクの発生源とされる海産物や動物を扱う市場が閉鎖
  • 年1月9日- WHOが新型コロナウイルスによる感染症と発表
  • 年1月10日- 中国が新型ウイルスの遺伝子コードを公表
  • 年1月11日- 科学者がワクチン開発を開始、新型ウイルスによる最初の死者が確認
  • 年1月13日- タイで新型ウイルス感染者が確認、中国国外で初
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こうした研究所での活動は、各国政府や世界中の慈善団体によって設立・出資を受ける感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)から、資金援助を受けている。

CEPIは、西アフリカで2014~2016年にアウトブレイクしたエボラ出血熱をきっかけに、新しい病気のワクチン開発を加速させようと、資金援助する目的で設立された。

CEPIのワクチン研究開発部長のメラニー・サヴィル博士は、「ここの使命は、アウトブレイクが人類にとって脅威ではなくなるようにすることと、新興感染症のワクチンを開発することだ」と述べた。

各国で新型ワクチン開発急ぐ

CEPIはまた、新型コロナウイルスのワクチン開発を進める別の2つの計画も資金援助している。

豪クイーンズランド大学は、複数のウイルス病原体を標的としたワクチンの迅速な製造を可能にする「Molecular Clamp」ワクチンの開発に取り組んでいる。「Molecular Clamp」とは、豪企業が特許を持つ基盤技術。

Fermenters at the Inovio lab in San Diego, CA growing bacteria to provide the main ingredient for a vaccine
画像説明, イノヴィオ社では発酵槽で細菌を育て、ワクチンの主成分を抽出するという

米マサチューセッツ州のバイオテクノロジー企業「Moderna Inc」もまた、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)と手を組み、研究の加速しようとしている。

WHOは、新型ワクチンへの国際的探求を取りまとめており、CEPIのサポートを受ける3施設を含む多数の研究施設の進捗状況をチェックしているという。

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新型コロナウイルスのワクチン開発に向かえた取り組みが加速する一方で、新型ワクチンの探求レースにおいて各施設の研究はまだ初期段階にすぎない。臨床試験には時間がかかるため、アウトブレイクが起きているうちに実施するのが望ましい。

これまでに考案されたワクチンのいずれかが安全で、中国で使用するのに十分効果的だという保証はない。

WHOの健康危機管理プログラムのアナ・マリア・エナオ・レストレポ氏は、「私たちは、どのワクチン候補を最初に臨床試験すべきかという決定を通達する枠組みを構築している」、「専門家は、許容可能な安全性プロフィールや適切な免疫応答の誘発、十分なワクチン投与量を適時に入手可能かどうかなど、多くの基準を考慮するだろう」と述べた。

「この病気や病原、感染、臨床的重症度についてを理解し、効果的な対抗策を開発することが、このアウトブレイクを制御するうえで重要だ」

WHOはどのワクチンを最初に臨床試験に用いるか、今後数日以内に決定するとしている。

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