【図表で見る】 新型コロナウイルス、世界各地で感染拡大
中国を発生源とする新型コロナウイルスが世界各地に急速に広がっている。世界保健機関(WHO)の3月2日現在の情報によると、中国以外の67カ国・地域で感染が確認され、中国を含む世界全体の感染者数は8万8000人を超えた。新型ウイルスによる感染症「COVID-19」が引き起こす肺炎のような症状などで、世界全体で3000人以上が死亡。WHOは2月28日、COVID-19が世界的に大流行する危険度を、最高レベルの「非常に高い」に引き上げた。
中国の外で最も感染者が多いのは韓国。欧州ではイタリア、中東ではイランがそれぞれ、ホットスポットになっている。
何が起きているのか、図やグラフで解説する。
1. 67カ国・地域で感染者
感染拡大の中心地は中国だが、中国からそれ以外の国に移動した人などを経由して、新型ウイルスは各国に広まった。WHOは1月30日に、「世界的な緊急事態」を宣言した。
WHOや各国政府によると3月2日までに、韓国では4335人、イタリアでは1689人、イランでは1501人、日本では239人、ドイツでは129人、それぞれ感染が確認された。各国では、感染経路が不明な人の感染も増えている。
イラン政府は2日、最高指導者の諮問会議、公益判別会議の会議員が1人死亡したと明らかにした。国内の死者は66人に達したという。しかし、イランの医療関係者はBBCペルシャ語に、少なくとも210人が死亡していると話した。
イギリス船籍のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では、1月25日に香港で降りた男性が新型コロナウイルスに感染していることが2月1日に判明し、船は今月5日から横浜港で隔離状態に入った。乗客乗員約3700人のうち、28日までに700人以上が感染し、6人が死亡した。
中南米ではブラジルとエクアドルで、アフリカではアルジェリア、エジプト、ナイジェリアでも感染者が出た。オセアニアでは、ニュージーランドでも感染が確認された。
日本や米英仏など諸外国政府は、中国での感染の中心地となった湖北省武漢から、自国市民を退避させた。多くの国が、中国への不要不急の渡航を避けるよう勧告し、中国からの渡航者に検疫を実施すると発表している。
米政府は新型コロナウイルスの感染拡大を「公衆衛生上の危機」と宣言。英政府は、公衆衛生への「深刻で喫緊の脅威」だと宣言し、感染拡大抑止のため政府当局の権限拡大を発動させた。
2. パンデミックの懸念
中国以外での感染者が急増したことから、パンデミック(世界的流行)の懸念が浮上している。パンデミックとは、世界の多くの地域で感染症が人から人へ簡単に伝染してしまう状態のことだ。
WHOは、「すべての政府、すべての社会による取り組み」をもって感染を適切に抑え込むことが、感染拡大のスピードを緩め、感染の連鎖を断ち、世界各国の保健衛生制度にのしかかっている重圧を取り去ることにつながるとしている。
欧州では目下、イタリアでの感染者が最も多いが、ウイルスがどうやってイタリアに入ったのかは分かっていない。当局は、ロンバルディア州やヴェネト州で複数の町を封鎖。計約5万5000人の住民が許可なく町の外に出られなくなった。
休業や休校が相次ぎ、プロサッカー・セリエAの試合を含むスポーツ・イベントが中止された。
英政府は、ロンバルディア州とヴェネト州への渡航を控えるよう国民に勧告している。
イギリス、アルジェリア、デンマーク、ルーマニア、スペインなどの国で、イタリアと関連する確認が報告されている。
フランス政府は2月29日に緊急閣議を開き、5000人以上が集まる屋内集会をすべて禁止するなどの防疫措置を発表した。
欧州ではほかにも、オーストリア、クロアチア、スイス、スペイン、アイスランド、アンドラなどで感染が確認されており、その多くがイタリアで感染した人たちだいう。
スペイン領カナリア諸島にあるテネリフェ島では、ホテルに滞在中のイタリア人医師と妻がウイルス陽性と判定されたため、ホテルは封鎖された。
南米で初めて確認された感染者は、イタリアから帰国したばかりのブラジル住民だった。
中東ではイラン政府が複数の感染者を確認したと発表。そのほとんどは首都テヘランの南にある聖都ゴムで見つかった。イラン政府は、特定の自治体を封鎖する方針はないとしている。
イランでの感染拡大を受けて多くの近隣諸国は、一時的にイランとの国境を閉鎖した。
これまでにイラク、アフガニスタン、クウェート、バーレーン、オマーン、パキスタンの各国政府も、感染者の確認を発表した。いずれも、イランから入国した人たちだという。
サウジアラビア政府は一時的に、メッカやメディア巡礼のための入国を禁止。感染者が確認された国への観光ビザ発行も停止した。
3. それでもまだ大半の感染者は中国に
昨年12月に湖北省武漢で最初に新型ウイルスが見つかって以来、中国では8万人以上が感染し、2800人以上が死亡した。感染が疑われるため観察中の人も何千人といる。
中国では感染抑制のため、旅客機の一部が運休になり、学校の休校、企業の休業などが実施された。
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の常務委員会は24日、3月5日から北京で開催を予定していた第13期全人代第3回会議の延期を決めた。
集団感染の中心となった湖北省の省都・武漢(人口1100万人)は1月23日から交通封鎖措置がとられている。
新型コロナウイルスの発生源は、武漢の海産物市場で違法に取引されていた野生動物ではないかと言われている。武漢の市場では、生きたコウモリやウサギ、マーモットなどを販売していた。しかし、集団感染の具体的な発生源はまだ実際には特定されていない。
湖北省当局は、感染拡大の対応が不十分だったと批判されている。2月半ばに感染者の数え方をいきなり変更し、混乱を招いたことも批判の対象となった。
感染者の診断方法を変更した2月半ばにはいきなり、確認症例が急増したものの、この変更は後に撤回されたため、症例は急減した。中国政府の公式データによると、その後は日別の確認感染者数は減り続けている。
中国疾病管理予防センターが4万4000人の感染症例を検討した結果、8割以上の症状は軽かったものの、高齢者と基礎疾患のある人にとってのリスクは高く、重体となったのは4.7%だった。
中国当局によると、これまでに1万8500人以上が回復している。
4. 中国で毎日の死者数はやや安定か
中国当局が連日発表する死者数は、2月半ばには診断基準の変更によって一時的に急増したものの、2月末になって比較的安定した。
それでも中国で新しく確認される感染者や死者の大半は、武漢で起きている。
新型コロナウイルスによる感染者と死者の数は今では、2003年に集団感染が起きた重症急性呼吸器症候群(SARS)を追い越した。
SARSの大流行は約8カ月続き、確認された感染者8100人のうち774人が死亡した。
5. 主な症状は呼吸器に
コロナウイルスは特に珍しくなく、せきや鼻水など軽い呼吸器の症状が出るのが一般的だ。
しかし、死亡率の高いSARSや中東呼吸器症候群(MERS)など、重篤の症状を伴う場合もある。
COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスは、今回の大流行の前は人間の感染例が見つかっていなかった。
初期症状は発熱が多く、その後に空咳が続き、やがて1週間後に息切れがするようになるケースが多い。鼻水やくしゃみの症状はめったに出ないのが特徴的だ。
しかし、重篤になる場合、感染から肺炎、重症急性呼吸器症候群、腎不全などを発症し、死にいたる場合もある。
集団感染の初期に英医学誌ランセットに掲載された報告は、死亡する患者のほとんどには既往症があったと指摘していた。
専門家の多くは、このウイルスの拡散方法を予測したり致死率を計算したりするのは、まだ時期尚早だと言う。軽症のケースは検査されないことが多く、感染報告にタイムラグがあるからだ。
WHOによると、感染してから発症するまでの潜伏期間は最大14日だ。しかし、24日間は続くかもしれないという研究者もいる。
中国の研究者の間では、症状が出ていなくても人から人に伝染するケースもあると考えられている。
新型コロナウイルスに対する特定的な抗ウイルス療法はまだない。感染者への治療としては現在、対症療法が行われている。
6. 感染リスクを減らすには
WHOは集団感染が起きた地域の人たちに、手洗いの徹底、せきやくしゃみをしている人から少なくとも1メートル離れることなど、ウイルス感染を防ぐための方法を推奨している。
WHOは特に、呼吸器系の感染症で重症の人と接触したり、病気の人やその周辺と接触した場合は手をよく洗うよう呼びかけている。加えて、家畜や野生動物に直接触れることも避け、食事では動物性食品を生や半生で食べないよう推奨している。
未発症の人でも感染力のあるケースはあるかもしれないが、現状では症状の出ている人が、ウイルス拡散の主な原因になっているというのが、WHOの見解だ。
それだけに、症状の出ている人は「せきエチケット」を励行し、周りの人から一定の距離を保ち、せきやくしゃみをする際にはティッシュで口と鼻を覆い、そのティッシュを捨てるか、ひじの内側で口と鼻を覆うよう呼びかけている。定期的によく手を洗うことも重要だ。
中国をはじめ多くの国では、医療スタッフだけでなく一般市民も感染対策としてフェイスマスクを着用している。
果たして空中のウイルス対策にマスクが有効なのか、感染症の専門家の多くは疑問視する。その一方で、自分の手から口へとウイルスを運んでしまうのを防ぐにはマスクが効果的かもしれないという指摘もある。
中国ではマスクを定期的に取り替えるよう推奨されており、医療スタッフの場合は1日に4回も取り替えるべきだと言われている。このため中国当局は諸外国に、マスク確保に協力してほしいと呼びかけている。
7. 疑わしい場合の手順
中国政府は、新型コロナウイルス集団感染をSARSと同じように分類した。感染者は隔離しなくてはならないし、一定期間、検疫体制下に置くこともできる。
WHOは医療機関のスタッフに対しては、特に救急医療の部門では、通常の感染予防対策を実施するよう求めている。
その上で、患者の状態を速やかに判断し、その病状の程度(軽症・中等症・重症)に応じて治療するよう呼びかけている。
さらに、医療スタッフは防護服を着用し、病院内の患者の移動を制限するなど、感染防止策をただちに実施するよう勧告している。
イギリスでは保健省が新型コロナウイルスを公衆衛生に対する「重大で喫緊の脅威」と宣言したため、イングランド各地の医療当局には市民を隔離する権限が新たに与えられた。
イングランドのクリス・ウィッティー医務主任(CMO)は、イギリスではウイルスの封じ込めと隔離を特に重視していると話す。
イギリス国内では、西部ウィラル半島のアロウ・パーク病院と、中部ミルトン・キーンズにあるケンツ・ヒル・パーク会議場が、「隔離」施設に指定された。