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【コラム】モナコを見よ、レーニンも驚く矛盾浮き彫り-ローラン

  • 華為は禁止ではなく監視すべきだとする欧州の立ち位置は曖昧
  • 中国はここ10年間、欧州に巨額の資金を投入した

中国を巡る欧州の混乱を理解するには、モナコを見ればよい。カジノで有名なタックスヘイブン(租税回避地)である公国が共産主義国家である中国に協力する。レーニンが生きていたらあり得ないとあわてふためくような連携だ。面積わずか2平方キロメートルの小国が、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の第5世代(5G)移動通信ネットワークの実験場になる。

  「スマートネーション」化を目指すこうしたモナコの試みを、中国が喜ばないはずはない。欧州の中心にショールームを確保できるのだ。中国の習近平国家主席は3月の欧州歴訪で、イタリアとフランスに加え、モナコも訪れた。

Intellectual Property

Huawei and Siemens have been the Top 2 sources of Europe patent applications

Source: European Patent Office

  モナコで習主席は温かく迎えられた。その歓迎ぶりは、欧州中核国の一角が示している対応とは対照的だ。華為と同社のセキュリティーの中国政府とのつながりを欧州連合(EU)は「心配」すべきだと欧州委員会は指摘。5Gのサイバーセキュリティーリスクに関する情報の交換をEU加盟国がするよう欧州委が望んでいるとブルームバーグ・ニュースは伝えた。

  欧州議会も、通信機器に仕込まれ得るデータの抜け穴「バックドア」が慎重な扱いを要するネットワークに組み入れられる可能性について「深い懸念」を表明。フランスの国民議会(下院)は4月、「反ファーウェイ」法案とも称される通信機器検査に関する提案を検討する。ドイツはもっと控えめな対応だが、安全保障について懸念していることに変わりはない。

  欧州の政治家が警戒感を強める中で、通信各社も華為との関係の検証を進めるが、一貫性はない。英BTグループが一部の華為製品を排除する方針を示したことに続き、仏オランジュは5Gに華為の技術を使わないことを明らかにした。ただ、欧州における華為を巡る矛盾を端的に示しているのが通信業界の大物で資産家のグザビエ・ニール氏だ。同氏がフランスで展開するモバイルサービス、フリーは他の仏通信事業者に倣い華為と距離を置き続けているが、同氏が過半数を所有するモナコテレコムはモナコでの5G通信網で華為に協力する。

  華為は禁止ではなく監視すべきだとする欧州の立ち位置も曖昧だ。こうした妥協はEUのモバイルネットワークが中国のテクノロジーに依存していることを認めている。中国への対応は欧州内でばらばらで、中国政府がそうした欧州各国に触手を伸ばし続けるだろうと中国懐疑派が嘆くのもうなずける。極めて重要なインフラへのアクセスというだけにとどまらず、地政学的な影響力を経済力で買う中国への疑義を呈しているのが華為を巡る物語だ。

  中国はここ10年間、欧州に巨額の資金を投入。カーネギー国際平和財団のフィリップ・ルコール氏によれば、例えば中国の対ポルトガル直接投資は2010-16年にゼロから57億ユーロ(約7070億円)にまで達した。イタリアは中国の広域経済圏構想「一帯一路」への協力で主要7カ国(G7)メンバーとして初めて覚書に調印し、中国は大きな勝利を得た。中国はまたハンガリーなどEUに加盟する東欧諸国との関係構築も進めている。

Chinese Networks

Cumulated foreign investment from China by country, 2000-2017

Source: Rhodium Group/UC Louvain

  ただ欧州が中国に絡みこれまでよりうまい対応をしつつある兆しもある。EUは外国からの投資の審査で新たな枠組みをまとめた。米国ほど厳しくはないが、歓迎すべき一歩だ。

  イタリアのような国を中国側につかせないようにするための最善策は、中国と同じような寛大な資金支援だろう。欧州投資銀行はすでに欧州発の5G展開に向けフィンランドのノキアに融資を提供。欧州イノベーション会議(EIC)として知られる域内のスタートアップ企業を手助けする試験的プログラムも導入した。

  理想を言えば、EUも一帯一路に匹敵するような野心的な取り組みを加盟国に示すことだ。もしそのようなことがあったとしても、中国政府は常にモナコを取り込むことはできるだろう。

  (ライオネル・ローラン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、ブリュッセルを中心に取材しています。以前はロイター通信やフォーブス誌で働いていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Xi Jinping and Huawei Can Always Have Monaco: Lionel Laurent(抜粋)

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