クリスマスイブに妻と1時間話したゴーン被告、レバノンで何を語るか
Brian Bremner、Matthew Campbell、井上加恵、Ania Nussbaum-
ゴーン被告の弁護士、ベイルートでの裁判を提案する意向-関係者
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受け入れなら被告の主張受け入れに等しい-日本側の面目つぶす内容
2019年のクリスマスイブ、元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告は、妻のキャロルさんとテレビ電話で話すため弁護人のオフィスに出向いた。4月以降で2度目のことだった。
金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で18年11月に最初に逮捕されたゴーン被告はその後、会社法違反(特別背任)などでの再逮捕・起訴が続いた。拘留は100日以上に及び、終わりのないように思える尋問を受け、保釈後も24時間の監視下に置かれた同被告は、多くの屈辱を受け入れることを強いられた。
最もこたえたのは、妻とのテレビ電話でさえ裁判所に許可を求める必要があることだった。検察側はキャロルさんがゴーン被告の数々の金融犯罪に加担した可能性があるとみている。
東京地検が昨年4月上旬に保釈中だったゴーン被告を再逮捕すると、キャロルさんはすぐに日本を出国。それから夫を自由にするよう積極的に訴えてきた。11月のブルームバーグテレビジョンとのインタビューでは、日本の司法制度を批判し、東京地検が「私たちの人生を破壊した」と述べていた。
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クリスマスイブのテレビ電話は1時間に制限された。弁護団の1人はブログで、ゴーン被告は妻との会話を「愛しているよ、ハビビ(アラビア語で「最愛の人」)」で終えたと明らかにした。その翌日、2つの公判のうち2番目の公判開始が2021年になる可能性があることをゴーン被告は知った。裁判所が命じる孤立がさらに1年以上続く公算が一段と高まることになる。
子供たちも調査の対象となっていた。事情に詳しい関係者の1人によれば、東京地検が問題視している取引の一部にゴーン被告の息子アンソニー氏が関与しており、同氏と姉の一人が事情を聴かれていた。逮捕を恐れ、アンソニー氏はゴーン被告を訪問できない状態だったという。
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日本で無実を証明する見通しが立ちにくいゴーン被告にはしかし、選択肢があった。全てうまく行けば自由が幾分取り戻せるかもしれないが、拘置所に戻る可能性もある計画の実行だ。
クリスマスから約1週間後、ゴーン夫妻は共に新年をレバノンの首都ベイルートで迎えようとしていた。日本で最も有名な外国人の1人であるゴーン被告が誰にも気付かれずに日本を出国できたことは、入念に練られた計画を必要とした。
元米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)隊員を含めた協力者がいたことやトルコ企業のプライベートジェット機をチャーターしていたことなどがこれまでに明らかになってきている。
参考記事 |
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ゴーン被告、元グリーンベレー隊員らとともに日本脱出-関係者 |
ゴーン被告、関西国際空港まで新幹線やタクシーを利用-報道 |
トルコ当局、ゴーン被告のイスタンブール経由状況を捜査-7人拘束 |
地検:ゴーン被告逃亡の経緯解明し適切に対処-旅券差し押さえも |
森法相:ゴーン被告出国記録ない、不法出国は犯罪で正当化できず |
官公庁が休みとなり、検察官や警察官も休暇を取る年末年始の時期が絶好の機会を与えたこともある。さらに産経新聞によれば、ゴーン被告の日本出国は同被告を監視していた警備会社が監視活動を中止した直後。この警備会社は日産が依頼したもので、ゴーン被告が事件関係者との口裏合わせなどの証拠隠滅を図ることを防ぐ目的だったという。同被告の弁護団はこうした監視は違法行為だとして警備会社を告訴する方針を示していた。
ゴーン被告のベイルート側の弁護士によれば、同地の弁護団は東京地検がベイルート検察と協力し日本での罪状についての裁判をレバノンで行うよう提案する意向だ。
ほとんど前例のない取り決めとなり、日本では公正な裁判が担保されないというゴーン被告の主張を受け入れるにも等しく、日本側の面目をつぶす内容だ。レバノンでの裁判となればゴーン被告に有利に働くと東京地検がみるのは確実だろう。ゴーン被告はレバノンの国民的ヒーローであり、郵便切手の肖像にもなっている。
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もちろんゴーン被告にとってはそれこそが肝要だ。科せられた罪状は政治的確執の結果で仕返しを狙った違法な試みであり、裁判にかけられたり独房で過ごしたりするいわれはないと、この司法劇の初めから同被告は訴えてきた。
ゴーン被告の考えに詳しい関係者によると、同被告は日本の司法制度を非難し、あらゆる手だてを尽くして自らに罪はないと公に知らしめるため、自らの手でつかんだ自由を使う計画だ。
原題:Trains, Planes and Audacity: Ghosn’s 5,400 Mile Escape to Beirut (抜粋)