日銀が金融政策の維持決定、19~21年度経済成長見通しを上方修正
伊藤純夫、藤岡徹-
経済・物価に下振れリスク、物価見通しは全年度で小幅引き下げ
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海外下振れリスクが幾分低下、消費増税の需要変動は前回より抑制的
日本銀行は21日の金融政策決定会合で、長短金利操作付き量的・質的緩和の枠組みによる政策運営方針の維持を賛成多数で決めた。同時に公表した新たな「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、政府が決定した財政支出13兆円規模の大型の経済対策を踏まえ、2019~21年度の実質経済成長率見通しを全て上方修正した。物価見通しは全ての年度で小幅引き下げた。
金融政策運営は、現行のマイナス0.1%の短期政策金利と「ゼロ%程度」の長期金利目標を維持するとともに、指数連動型上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J-REIT)の買い入れ方針も据え置いた。政策金利に関するフォワードガイダンス(指針)も維持した。ブルームバーグがエコノミスト42人を対象に事前に実施した調査では、全員が金融政策の現状維持を予想していた。
新たな展望リポートでは、実質国内総生産(GDP)の対前年度比見通しを、19年度0.8%増(昨年10月は0.6%増)、20年度0.9%増(同0.7%増)、21年度1.1%増(同1.0%増)に上方修正。「政府の経済対策の効果を背景に、2020年度を中心に上振れている」と説明した。
一方、消費者物価(除く生鮮食品)の見通しは、19年度0.6%上昇(同0.7%上昇)、20年度1.0%上昇(同1.1%上昇)、21年度1.4%上昇(同1.5%上昇)と、前回から引き下げた。
先行きのリスクバランスについては、経済見通しは「海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きい」とし、物価見通しは「経済の下振れリスクに加えて、中長期的な予想物価上昇率の動向の不確実性などから、下振れリスクの方が大きい」と指摘。海外経済の下振れリスクは「ひところよりも幾分低下した」としながらも、「依然として大きいとみられる」としている。
2%の物価安定目標に向けたモメンタム(勢い)は「維持されているが、なお力強さに欠けており、引き続き注意深く点検していく必要がある」との認識を維持。昨年10月の消費税率引き上げの影響に関しては「引き上げ前後の需要変動は、前回増税時と比べて抑制的だった」と分析している。
展望リポート
日銀政策委員の大勢見通し | 実質GDP | 消費者物価(除く生鮮食品) |
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2019年度 | 0.8(0.6) | 0.6(0.7) |
2020年度 | 0.9(0.7) | 1.0(1.1) |
2021年度 | 1.1(1.0) | 1.4(1.5) |
(注)対前年度比%、かっこ内は前回の昨年10月時点の見通し。
エコノミストの見方
明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミスト:
- GDPは予想通り上方修正されたが、経済対策の影響を含めた内閣府の1.4%に比べると、日銀の方はかなり保守的な見通し
- CPIは据え置きになるかもしれないとみていたが、実勢に合わせてきている。経済対策をもう少し評価していたら据え置いていたのかもしれない
- 現状、日銀の金融政策は為替相場と連動しているところが大きく、中長期的な予想は難しいが、何らかの理由で円高が起きない限り当面は据え置かれるだろう
農林中金総合研究所の南武志主席研究員
- 本来なら景気後退と共に物価も鈍化していくので、展望リポートで示されている数字にはちょっと違和感がある。本来なら成長率が上がれば物価も高まるはずなのに弱まっている
- ただ、実際の景気自体は後退リスクもあり、それ以上に物価下落リスクもあるのでそうなる。マイナス金利の深堀りというのも現実味を帯びてくる時期もあると思う
1月会合での決定事項
長短金利操作(賛成7反対2) |
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資産買い入れ方針(全員一致) |
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フォワードガイダンスとコミットメント |
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午後3時半に黒田東彦総裁が定例記者会見を行う。決定会合の「主な意見」は1月29日、「議事要旨」は3月25日にそれぞれ公表される。