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物価にも新型コロナの影響じわり、揺らぐモメンタムに日銀警戒

  • 20年度コアCPIはマイナス転化との見方も、原油安が重し
  • 経済停滞で需要減、長引けばデフレマインド再発の恐れ

新型コロナウイルスの感染拡大の影響が物価面にも顕在化してきた。国内外の経済活動の低迷による需要の減少が物価の下押し要因として作用し始めており、エコノミストからは2020年度の消費者物価(生鮮食品除く、コアCPI)がマイナスに転じるとの見方も浮上。日本銀行が重視する2%の物価安定目標に向けたモメンタム(勢い)も大きく揺らいでいる。

  総務省が27日発表した東京都区部の3月の消費者物価指数によると、コアCPIは前年比0.4%上昇と前月の同0.5%上昇からプラス幅が縮小。消費税率引き上げや幼児教育の無償化などの制度要因の影響を除けば同0.1%上昇にとどまる。

  主な要因はガソリンを中心としたエネルギー価格の下落幅拡大だ。1月上旬に1バレル=60ドル台だった原油価格は、3月に入り一時20ドルを下回った。主要産油国間の減産交渉決裂などがきっかけだが、新型コロナの感染が世界に広がる中、経済停滞によるエネルギー需要の減退観測が重しとなっている。

   

一時20ドル割れの場面も

  原油価格の変動は数カ月先の電気代などに反映されるため、当面はコアCPIの押し下げ要因となる可能性が高い。野村証券の桑原真樹シニアエコノミストはコアCPIについて、「今年の10-12月期からマイナスに転じてくるとみている」とし、20年度の平均では前年比0.3%低下を予想する。

  他の品目でも新型コロナの感染拡大による需要減退の影響が見られる。鮮明なのは宿泊料で、3月は都区部で前年比1.4%下落した。2月の同3.1%下落からはマイナス幅が縮小したものの、これは中国の春節(旧正月)の影響で2月が大きく落ち込んだためだ。その要因がはく落した3月の下落について総務省は、外国人旅行客の減少など新型コロナの感染拡大の影響も考えられるとしている。

  インバウンド需要の減少に加え、国内でのイベントや外出などの自粛の影響で、これまで堅調に推移してきた外食などサービス関連の価格にも波及してくる可能性がある。都区部の3月では、牛肉が国産品・輸入品ともに前年比で下落に転じた。感染拡大による外食需要の減少が一因の可能性もある。

  原油安は交易条件の改善によって日本経済に恩恵をもたらすとともに、物価の下落は実質所得の増加につながる。景気が冷え込む中での物価下落は自然な流れと言えるが、デフレからの完全脱却を目指す政府・日銀にとって、再び持続的に物価が下落するような事態は何としても回避したいところだ。

高まる日銀への圧力

  日銀が16日開いた緊急の金融政策決定会合の「主な意見」によると、複数の政策委員が新型コロナの感染拡大の影響で、2%の物価安定目標に向けた「モメンタムが損なわれる恐れは高まっている」と主張。モメンタムを構成する重要な要素である需給ギャップは「プラス幅が縮小する可能性が高まっている」と警戒感が示された。

コロナ対応、金融円滑化や市場安定に緩和強化が適当-日銀意見

  第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミストによると、新型コロナの影響によって「米欧で経済活動が止まり、日本のGDP(国内総生産)は3四半期連続のマイナス成長になる可能性が高い」という。その場合、日銀が試算する需給ギャップもマイナス(供給超過)が視野に入る可能性があるが、新家氏は「物価の基調自体がどうなのかとの声が増え、日銀への圧力が高まることになる」と予想する。

  日銀では、16日に決めた金融緩和強化策に沿って、当面は機動的な流動性供給や資産買い入れなどで企業の資金繰り支援や市場の安定確保に注力する方針だ。ただ、新型コロナの感染収束までの期間が長引いたり、収束後の景気回復が緩慢なものにとどまれば、再びデフレマインドが強まる可能性も否定できない。政府は4月にも大規模な緊急経済対策を取りまとめる予定だが、新型コロナの政策対応は時間との闘いに入りつつある。  

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